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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
46/133

第8話:ダブルアクティビティ03

お兄さんは腕を組んで笑顔だった。


「へへ、俺の勝ちだな」


そこに嫌味はなく、ただ結果をもとに勝ち名乗りを上げただけのようだった。


「僕の完敗です。最後の方は完全に攻略されていましたね」


「そうかもな。全体的に丁寧なんだけど、読み切ろうとしすぎているところがあったかもしれん」


思い返してみれば、接近=チャンスを演出されていたのかもしれない。

まんま、僕が3試合目にやったことをやり返されていた。


「あの…」


「ん?」


「ぼ、僕の評価は?」


お兄さんは口を紡ぎ、右上を見ながら少し考える。


「それは最後だな。まだ時間はあるんだ、そう慌てるな」


「はい、わかりました」


その後、少し対戦の振り返りをして、僕は栄樹さんのいる所へ戻っていった。


「現内さーん、その、おしかったですね」


「うん、強かったよ」


「いくら現内さん相手とはいえ、お兄ちゃんがあっさり負けるとも思ってなかったけれど、まさか勝っちゃうとも思っていなくて、意外っていうかなんていうか…」


「はは、ちょっと僕を過大評価しすぎだよ。さっきの対戦でわかったんだけれど、チームで活動している人とはあきらかに差があった」


きっと栄樹さんは僕を励ましてくれていたのだろうけど、僕はそう素直な感想を述べた。

これはいつもの謙遜ではなく、本当に感じたことだったから。


最初は対等に戦えていた。

けれど、やればやるほど状況は苦しくなってきた。

ダメージを与え、ラウンドを取れても、どんどん自分がやれることが少なくなっていっていた。

最後は連続ミスで運悪く負けたように見えるかもしれないが、苦境に立たされた結果にすぎないだろう。


チャンスに対する嗅覚と、1ラウンドで得る情報量の差。

僕とお兄さんの間には、はっきりと壁があった。


「そんなこと、ないと思いますけど…」


いつになく弱気な発言に、栄樹さんが心配してくれている。


「いや、負けちゃったのは悔しいけど、落ち込んでいるわけじゃないんだ。むしろ、こういう世界に触れられて満足しているよ」


「もう、やっぱり現内さんって変わっています」


まるで、いたずらしてしまったペットをやさしく叱るように、栄樹さんは笑った。




それから僕は何人かと対戦をして、僕のチーム体験は終わりを迎える。


「今日は、僕なんかを参加させていただき、本当にありがとうございました」


チームの皆さんを前に、僕は深々と頭を下げた。

こういう時、もうちょっと気の利いた事を言いたいのだが、何も出てこないのはいつものこと。


「それで、結果はどうなんだい栄樹くん?」


鈴木さんの一言で、全員の視線がお兄さんに集まった。


「…そうだなー」


お兄さんは今から考えますといった態度をとったが、まわりにはもうすでに答えが出ていることがバレていて、やんややんやとはやし立てられる。


「ちぇ、わかったよ。ちゃんと言うって」


お兄さんは組んでいた腕をほどき、手をズボンのポケットに入れた。

そして、「んー」と軽く唸った。


「俺はどうかと思っているんだけどな、他の奴らがいいっていうから、条件付きでいいならチームに加えてやってもいい。高校生だから金も取らん」


「えっ!?いいんですか!?」


まさかの合格、しかもお金はいらないという好待遇。

正直、半分諦めていたところがあるから驚きを隠しきれなかった。


「条件を飲めればな」


「はい、な…なんでしょうか」


「俺らの活動は基本的に火曜・金曜・日曜。何か特別な理由がない限り、かならず参加すること。これが条件だ」


それを聞いた僕は、まだ険しい道が残っていることを感じて、少しグラッときた。


「部活は、特別な理由にならないってことですか?」


そう、虎森高校の格闘ゲーム部の活動日は、月曜、水曜、そして金曜である。

妹が所属しているのだから、当然お兄さんも知っているはず。

その上でこの条件を出すということは、そういうことになる。


「悪くない聞き方だ。話がスムーズにできる奴は、大人に気に入られやすいぜ」


「待ってよ。それじゃ現内さんに金曜日は部活を休めって言っているの!?」


僕の代わりに、栄樹さんが抗議してくれる。


「そうだ」


「なんでよ、そんなの意地悪じゃん!」


「瑠歩ちゃん、僕らも来れる時だけでもって思うところはあるんだけどさ。ここらへんが落としどころだと思うんだよ」


鈴木さんが、落ち着いたトーンで理由を説明してくれる。


「僕らは一応プロを目指しているわけなんだけど、ゲームってあくまで遊びだから、他のプロを目指す以上に真剣に取り組む気持ちが必要なんだよ」


「………」


それを栄樹さんは静かに聞いた。


「これくらいならいいかって、ちょっとでも緊張感を緩めると、そこからなし崩しに"ただの遊び"になり下がるかもしれない」


ここの人達は楽しそうに対戦をして、討議をして、観戦している。

けれど、そこに雑談はほとんどなくて、常に次に繋がる事を話している。

僕はこの体験の間、同じレベルで話ができていたと思う。だけど、その姿勢をキープし続けることを考えると徒労感を感じてしまった。

きっとこの人達は日常的に意識を保っている。僕にそれができるかが心配であり、さっき感じた壁のもう一つの側面でもあった。


「現内くんを加えることは、瑠歩ちゃんの推薦であり、瑠歩ちゃんのためでもあり、実際に対戦したり話をしたりして俺らにもメリットがあると思ったからだ。

でもね。同じチームになる以上、同じ所に立つ覚悟を持ってもらわないと」


ゲーセンの電子音だけが、少しの間響き続けた。

誰も何も言わないのは、それがみんなの総意であり、それに栄樹さんも納得したからだった。


「そういうことだ、だから返事は一週間待つ。部活に話をつけるか、チーム入りを諦めるか、それまでに答えを出してこい」


お兄さんの言葉を最後に、この話は来週に持ち越された。


スタートラインに立つだけでもこの難易度。

夢と現実の違いを見せつけられたような気分だった。


強くなりたい。強い人と対戦したい。でも遊びのままじゃいられない。


ここへ来て僕は、大きな選択肢を突きつけられた。

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