第8話:ダブルアクティビティ02
「その前に俺の対戦をしっかり観ておけよ。じゃないと不公平だからな」
お兄さんは自信たっぷりにそう言って、まずは別の人と対戦を始める。
そこで選んだキャラはジョウセイキクウではなくアドであった。
屋良さんが使っていたキャラと同じだ。
「あれが今のところ、栄樹くんの最強だよ」
「今のところ?」
「メインで使っているのがジョウセイキクウだけど、新キャラだからまだ研究中なんだよ。だから、それまで持ちキャラにしていたアドがまだ一番ってこと」
鈴木さんが説明してくれて、あれがまだ未完成だったことを知った。
こっちも持ちキャラでなかったとはいえ、あれだけ丁寧な対応力を見せてきたんだ。昔から使っていたアドとなると、どのくらいになるのだろうか?
次に対戦することが決まっているので、真剣に相手を観察しようとした。
だけど、お兄さんのアドは終始攻め続けていて、相当やり込んでいるという印象しか持てなかった。
いや、序盤が弱いアドでここまでできるということがわかっただけでも、収穫だったかもしれない。
「どうだ?参考になっただろ?」
対戦した人との振り返りが終えて、お兄さんがやって来た。
「…はい」
本当はもっと感想があったけれど、お兄さん相手だと変な感じになるかなと考えてしまって、言葉が出てこなかった。
僕は一言返事をしただけで、あとは顔を見合わせるだけの形になってしまった。
「それだけかよ?って言いたいところだったけど…」
お兄さんが急に笑い出した。
「お前が格ゲー好きなのはよくわかったよ」
「えっ?」
想定外の反応に、僕は虚を突かれてしまった。
「そんなに目を輝かせるなよ、恥ずかしい」
「そ、そうでしたか?」
ヒヒヒと笑うお兄さんからは、褒め半分、からかい半分の意味が込められていたとわかった。
そんな子供っぽい態度だったのか?と僕はしどろもどろする。
下手に言葉にしなかった分、「お兄さん強かったです」というのが顔に出ていたのかもしれない。
そして、ひとしきり笑った後、お兄さんはこう続けた。
「対戦する前に言うことではないが、格ゲーに関してはもうお前を認めているよ。ただ、チームどうこうは別問題だけどな」
「え、あ、ありがとうございます」
お兄さんはそのまま奥へと行ってしまった。
「今は格ゲーしか見えていない状態だから、終わったら元に戻るよきっと」
鈴木さんがそう教えてくれた。
この貸し切りが終わったら、またあの怖い感じに戻ってしまうのか。
残念に思うのと同時に、今のお兄さんの方が通常なんじゃないかなと僕は思った。
このチームの、切磋琢磨している熱量と同じくらい、和気あいあいとした仲の良い雰囲気は、お兄さんのあの人柄が作っている気がした。
そして待つこと20分、お兄さんと対戦する時がきた。
台に座り、シハラを選択する。
勝ち負けではなく、自分の実力を見てもらうのが今回の課題。やることは変わらないはずなのに、妙に違和感を感じてしまう。
が、勝つに越したことはない。僕はそう割り切った。
「お兄ちゃんに目にもの見せてください」
栄樹さんが冗談混じりの応援をくれる。
対戦が始めると、僕は徹底的にアドを攻めさせないことに専念した。
この組み合わせは、リーチもスピードも珍しくシハラが優位なので、それを最大限活かす。
パワーアップ前のアドも目を見張るものだったが、パワーアップ後となると絶対に手がつけられなくなる。
無理に攻めずに相手の動きを止める。
攻める時はゲージを使ってリスクを減らす。
しかし、ここまではシハラVSアドではよくある光景。
お互い手の内を晒しあった後の対応力が勝敗を分ける。
1試合目は、シハラがアドを近づけさせずに体力を奪っていき、たまにアドにチャンスが訪れるが、体力を大幅リードしている優位を活かした切り返しで1本も取らせずに勝利した。
2試合目は、アドが無理に攻めて来なくなり、攻撃を出さずに跳び回る時間が増えた。
本来ならシハラにメリットがある展開だが、ガン逃げっぽくなっていることを嫌って攻めたところを返り討ちにあってしまった。
予想通り、十分パワーアップしたアドの凄まじい攻めに対応できず敗退した。
3試合目は、前回の反省を活かし、アドが手を出したくなる状況作りを心掛けた。
序盤、後出しに徹底していたアドは見事に引っかかり、カウンターが連続して大ダメージを与えることに成功。
対戦が続くにつれて対応されてきたが、状況は1試合目に戻っているだけなので、シハラ有利を守って勝ち返す。
4試合目は、今までの対戦で密着状態が苦手なことがバレてしまい、アドはダメージを捨てて徹底的に間合いとパワーアップに専念してきた。
シハラが近距離キャラなのが災いして、僕は逃げると決めている状況以外はカウンターを狙おうとしてしまうクセがあった。うまくいっている時はいいのだが、かみ合わなくなると攻めと守りのバランスを崩して防戦一方に陥りやすい。
たった3試合で僕の弱点を見つけて攻めてきたお兄さんに軍配が上がる。
5試合目、おそらくこれが最後になる。
お互い手の内は晒し合った状態だ。あとはどちらが相手を読み切れるかにかかっている。
パワーアップし続け、終盤に巻き返しを図るアド。
そうなる前に1本目を先取して、さらに可能な限り体力を削っておきたいシハラ。
高速で訪れる駆け引きを、僕らはまばたき一つせずにレバーとボタンだけで繰り返す。
けれど、実力が拮抗しているからといって、対戦が長引くとは限らない。
僕が2回連続でアドの起き攻めに対応ミスしたことを皮切りに、MAXまでパワーアップしてしまったアドの怒涛の攻めが始まった。
僕はゲージを使ってなんとか凌いでいくが、ノーゲージで攻めを構築できるようになったアドには為す術無く、最後はゴリ押されて負けてしまった。
結果は2勝3敗。
対戦が終わり、僕の心境は不思議と静かであった。
悔しいとか、さっきのように再戦したいとか、そういう感情は湧いてこない。
ただ、やりきったという充実感のようなものだけがあった。
席を立つと、誰ともなく拍手をくれた。
僕は振り返って小さく会釈をすると、お兄さんと対面した。




