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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
41/133

第7話:高みを目指す者達04

楽しい。


対戦に勝ったり、それで連勝したり、それが褒められり、これらももちろん楽しい。

でも、絶対一番楽しんでいる時は、勝つか負けるかわからない勝負をしている時だ。

もっと言えば、格上に勝てるかもしれない時だ。


僕が今使っているキャラは持ちキャラではない。

だから僕が全力でないかと問われれば、そうではない。

このキャラで持てる力をすべて出している。

そして、一本目を勝てたとはいえ、熟練度はどう考えても相手の方が高い。故に格上。

熱中する条件は、揃っていた。


目の奥に微熱を感じる。

背中が汗をかいている。


さぁ、もっとギリギリの勝負をしよう。


…なんて。


……思っている内に。


うー…、さすがに僕の動きがネタバレしてきた。


ハラハラする面白い対戦ができたけれど、僕は負けてしまった。

対戦が進むにつれて、僕の動きは封殺されていってきた気がする。


「強かった」


もしかしてだけど、こっちに来てから初敗退?


でも悔しいとか、今はそんな気持ちじゃなくて、ただもう一戦やりたかった。

あれはこうしようとか、こうしたらどうなる?とか、そんなことで頭が埋まる。


けれど、そんなことはできない。

待っている人がいるのに、連コインは重大なマナー違反だ。


僕は席を立つと、列に並び直さずに壁にもたれかかった。


やりたかった対戦ができた。

帯びた熱を冷ましながら、僕はゆっくりとその実感を得る。


だよなー、これだよなー。

この感覚が僕を魅了してやまない。


うまく言葉にできない。

他人から見れば、今の僕は負けたのに喜んでいるよくわからない奴だ。


負けたかった?僕が?

なんて冗談を考えて、一人で笑ってしまう。

恥ずかしいので、すぐに真顔へ戻す。


それより、さっき対戦した人はなんだったのだろう?

かなり強かったけど、チームに所属している人?それとも、あれがこのゲーセンのレベルなのか?


後者だったら、もっとここに足を運んでもいいかもしれない。

僕はいい所を見つけたかもしれないと思った。


そんなことを考えていると、向こうから僕の方へ近づいて来る人がいる。


目が合ったが、逸らそうとしない。

僕の方ではなく、僕へ向かってきている。


「お前、強いな」


声の届く所まで来ると、男はそう言った。


「あ、えと」


「あまり見かけないけど、ここの常連?」


「いえ、来たのは今日が初めてです」


「へぇ、じゃあ普段はどこでやっているんだ?」


「その…、高校の部活です」


「部活?何校?」


「虎森高校です」


「あぁ、まあまあ強いって聞いたことがあるけど、ここまでだったとは…」


どうやら、男は僕を虎森高校の標準レベルと思ったようだ。


ちょっと訂正したい気持ちになったけど、それはそれで違う気がした。

僕は「どうも」とだけ言った。


「…ってことは」


男は何かを言いかけて、止まった。

言いにくそうに眉をひそめている。


「あー、その、急に話が変わって悪いが」


「は、はい」


「その部活に現内って奴がいるって聞いたことあるんだけど」


「はい?!」


な、なんで僕の名前が?

思わず声が裏返ってしまった。


「どんな奴なんだ?」


えー…、それを聞いてどうするんですか…?

どうも、いい噂を聞いたって感じじゃないんだけど。


「えと、なんでそんなことを?」


「ん?まぁ、その、強いって聞いたから」


絶対それだけじゃない。

そう思ったけれど、栄樹さんとここで待ち合わせている手前、適当にやり過ごす事はできない。

ここは素直に名乗るしかない。


「僕が…その、現内です」


「お前が!?」


男の顔が険しくなってきた。


「(たしかに強かったし、まぁまぁいい面しているけど、この図体は…)」


あの、そのつぶやき聞こえているんですけど…。

っていうかこれ、もしかしてからまれている?

そう考えてしまったら、少しずつ怖くなってきた。

お金取られるのかなっとか、殴られるのかなっとか、栄樹さんになんて言おうかなっとか。

そんなことが不安になってくる。


こんな時どうしたら?

そ、そうだ。店員さんに助けてもらうしか…。


じっとこちらを見てくる男の視線をはずし、僕はあたりを見渡す。

すると、見知った人と目があった。


ちょうど今来たであろう栄樹さんが、こちらに気付き、こっちへ寄ろうとした瞬間。


「あっ!!お兄ちゃん、なんでここにいるの!?」


「へっ?」


栄樹さんは叫びながら、こっちへ走ってきた。


男は栄樹さんの方へ振り返る。


瑠歩(るふ)じゃないか、なんでここに?」


「なんでって、ていうか、一緒に来ようって連絡したじゃん」


「そんなの来てたか?」


男はスマホを取り出して確認する。


「いや、そんなの来てないぞ」


「あれ?」


今度は栄樹さんがスマホを確認する。


「あ、送り間違えていた。しかも、それをちゃんと教えてくれていたのに気が付かなかった…」


栄樹さんはがっくりと肩を落とした。


いったいなんなんだこの状況?

僕は呆然と見守るしかなかった。


「っていうか、お前が言っていた現内って」


そう言いながら、男は僕の顔すれすれまで指を伸ばした。


「ちょっと、そんな怖い態度取らないでよ」


なんか、二人がいざこざを始める。


すると、また一人現れた。


「負けちゃいましたよ。何しているんですか栄樹くん?」


その人は、僕を負かせた人と交代した人だった。


「栄樹くんってことは、二人って」


僕はそう言いながら二人を交互に見た。


栄樹さんは男にまだ言い足りない様子だったが、僕に気を使って言い合いを中断して、質問に答えてくれた。


「そうです。この人は私のお兄ちゃんで、栄樹(えいき)必登(ひつと)っていいます」


言われてみると、なんとなく面持ちが似ていた。

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