第7話:高みを目指す者達03
意気揚々と席に座り、コインを投入する。
そして、スタートボタンを押すと、画面に乱入の演出が入った。
この世界に来て一ヶ月ちょい、そこまで長い時間が経ったわけではないけれど、なんだか懐かしく感じる。
ゲームによってはコインが入った事を知らせてくれないから、乱入された時にビックリすることがあるんだよね。
さーて、何を使おうかな?
ここはやっぱり長年の相棒であるシハラかな?
と思ったところで、あの話を思い出す。
ゲーセンや学校のフリー対戦で強すぎると、場が白けてしまうので、強い人は来ない。
僕は、強い人に入るのだろうか?
いくら僕でも、部活でコーチまがいの事をしたり、交流戦で優勝すれば、少しは強いという自覚を持つ。
が、ゲーセンの場合はどうなんだろうか?
最初の一回は、様子見ということで…。
僕はこの世界に来るちょっと前に練習を始めたキャラを選択した。
トリッキーなキャラだから、ぜんぜん練習不足だけど、どうなることやら。
相手は、僕の第二の持ちキャラのテンカー。相性は五分五分といったところ。
いざっ。
僕は一気に集中力を高めた。
…。
……。
………・
最初の一戦から一時間くらいは経っただろうか。
対戦の合間に、どよめきが聞こえてくるようになった。
僕はちらりと画面左上を見る。
そこには、13連勝と表示されていた。
うぅ…、どうしよう。
ここのゲーセンの人達はうまい方だった。いい勝負だった人も何人かいる。
だから、僕が一人強すぎるわけではないと思うんだけど、あの話が頭を過ぎる。
7連勝を超えたあたりから、僕は素直に喜べなくなっていた。
ここはいったん負けといた方がいいかな?
次の対戦相手はけっこう強かったし、不自然にはならないかも…。
そんなことを考えながら、相手の乱入を待つ。
しかし、何があったのか、なかなか乱入して来ない。
なに?なに?
やっぱり勝ちすぎたの?
僕はどんどん不安になってきた。
通っているゲーセンではないとはいえ、大好きなゲーセンから追い出されるのはつらすぎる。
怖い気持ちを抑えながら、反対側の様子をゆっくり確認しようとした。
すると、乱入するはずだった人が席を立ち上がり、筺体の横になった。
下を見ると、違う足が見える。別の人が座っているようだ。
なんだ?知り合いに対戦を譲ったってこと?
困った。
実力が未知数の相手に手を抜きたくない。
もし強かったら、ちゃんと対戦できなかったことを後悔する。
でも、もしこれも勝ってしまったら…。
そうこう悩んでいる内に、相手がキャラクターを選択して、対戦が始まろうとしている。
えーい、こうなれば。
勝ってもよし、負けてもよし。
結局僕は真面目に対戦することにした。
相手が選んだキャラは「ジョウセイキクウ」。
ランブルギアで一番扱いづらいキャラとされている。
地上ダッシュが無い代わりに、超姿勢が低いスライディングをもっている。
空中ダッシュが無い代わりに、空中で停止できる。
ゲージが溜まるのが早い代わりに、普通の必殺技でゲージを消費する。
開発者自身も実験キャラと公言したとかしてないとか。
13連勝している相手に使ってくるとは、自信ありということだろうか?
対戦が始まると、お互い慎重な立ち回りから入った。
僕は無理をせずに、チャンスを伺う。
伺って…。
ん…?おっ?…これは?
「強いぞ、この人」
思わずつぶやいてしまった。
扱いづらく使用人口が少ないキャラだけど、僕は何十回と相手をしてきた。
だけど、使い方がその内のどれにも当てはまらない。
僕はてっきり、そのピーキーな性能から荒らし戦法だと思い込んでいた。
だけど。
「しまった!」
見慣れない動きに戸惑い、つい勝負を焦ってしまった僕を躱し、相手は見事に僕から初弾を取った。
うまい。
特に空中停止のタイミングが絶妙だ。相当研究している。
などと息つく暇もなく、連続でガードくずしをしかけてくる。
僕はヤマ勘をはった根性ガードでなんとか距離を離す。
空中で自由にさせたらダメだ。
そう思った僕は、ジャンプ攻撃での牽制を強める。
それにいち早く気が付いた相手は、僕のジャンプに合わせてスライディングを出して裏に回ってくる。
「っやる!」
僕はとっさに空中技を出して、遠くへ飛んでいく。
他のキャラだったら追いつかれるが、このキャラに限っては攻撃が届かない。
そうやって隙をついてくるなら、これならどうだ?
僕はかなり離れた距離から真っ直ぐダッシュする。
相手の一番長い攻撃が届く間合いに入ってもノーガードでダッシュを続ける。
相手の空中ダッシュ読みを読んでの攻め。
読みがはずれてもあまりダメージにはならないので、思い切ってやってみる。実はこの戦法けっこう好きだったりする。
不意に距離を詰められた相手は、ジャンプして逃げようとした。
僕はそれを追いかけて空中投げを決める。
そして、そこから完全二択の起き攻め。
しかし、それをガードされ再びふりだしに戻る。
一瞬も気を緩められない。
無意識にボタンを強く叩く。
だけど自分が今のってきているのがわかる。
13連戦したかいがあって操作に迷いがなくなっている。
というか、操作ミスを気にしている暇がない。
相手をどうさばくかに思考を使い果たしている。
ここは無理できない。
それは迂闊だ。
ここはチャンス。
これならどうだ。
あの手この手と知っている限り、思い付く限りの攻めを展開する。
相手も、少し慎重すぎる気がするが、その分固い守りで均衡を崩させない。
一本目は、お互い体力を三割以上残した状態でタイムアウトを迎えた。
勝ったのは、ギリギリの差で僕だった。




