第7話:高みを目指す者達01
交流戦から一ヶ月が経った。
この世界の生活にもすっかり慣れたというか、堂々と格ゲー漬けになれる充実した日々を過ごせていた。
家ではあの一件以来、親との関係は軟化してきている。
まだ報告のような会話しかできていないが、影ながら僕の活動を応援していてくれているようだった。
クラスではいじわるされる事も無く、友達と言えるかわからないけれど、普通に会話できるクラスメイトが何人かできた。
部活では今も無類の強さを誇っており、部員というよりはコーチのような立場になってきていて、部員一人一人と対戦してはアドバイスをして、全体のレベルアップに努めている。
あまり偉そうな事は言いたくなかったけれど、屋良さんのお願いでもあるので引き受けてみた。
部活動が無い放課後も、花尾間さん関泉さんペア、または、屋良さん箕内さんペアと遊ぶことがたびたびあった。
休日に外出がてらゲーセンに立ち寄ると、よく栄樹さんと顔を合わせていた。
一ヶ月ちょい前までは、誰とも話さない日なんて珍しくなかったのに、本当に刺激的な毎日を送れていると思っている。
こんな日常が、いつまでも続けばいいのに。
天気のいい昼下がりの休日に、僕は自転車を漕ぎながら、そう思った。
切実にそう思った。心の底からそう思った。そう思っている。
けれど、いつからか、僕の中に満たされないモノがあることに気が付いてしまった。
それは人間が良くも悪くも慣れる生き物だからだろうか。
それとも僕が格ゲーマーだからだろうか。
僕は今、ゲーセンへ向かっている。
行ったところで、どこかのチームが貸し切って対戦できるわけでもないのに。
ネット対戦の入場規制でしばらく遊べないからというのもある。
なんだったら、栄樹さんに会えるかもしれないっていうのもある。正直、彼女のあの人懐っこい感じはクセになりつつある。
でもおそらく一番の理由は、強い人との対戦を求めているからかもしれない。
僕は今学校生活を本当に楽しめている。
格闘ゲームも好きなだけやれている。
しかし、交流戦以来、僕は本気の対戦を一度もできていない。
それが不安となって大きくなってきている。
もしかしたら、僕は弱くっているのではないか?忘れてしまっていることはないか?と。
格闘ゲームの強者として、クラスや部活で頼りにされるのはうれしい。
が、それで100%と言えるほど、僕の実力は満足のいくものではないと思っている。
だから、何かきっかけを探すように、僕はゲーセンを訪れるようになっていた。
ゲーセンに着き、ランブルギアのエリアに行くと、今日も人だかりができていて盛況だった。
強そうな人たちが筺体の前に並び、レベルの高い対戦を繰り広げている。
僕は缶コーヒーを買うと、壁にもたれかかった。
一口飲んで、大画面に映し出されている対戦を観戦する。
どの対戦を観ても、ネット対戦や部活動とはレベルが違う。
僕では勝てないかもしれない。
けれど、簡単に負ける気もしなかった。
相手を強いと認めた上で、でも勝てるかもしれないと思ってしまうと、乱入せずにはいられない。
でも、僕にそれは許されていない。
まるで、覚悟の無い者はこれ以上来るなと言われているみたいだった。
格闘ゲームをやれていれば幸せだと思っていたが、実際は格闘ゲームを通して何かを得ていたことを、僕は最近気が付いた。
失ってから初めて気付くモノがあるとよく言われるが、僕はそのモノが何かもわかっていない。
「また来てますね現内さん」
ちびちび飲んでいた缶コーヒーがなくなったあたりで、栄樹さんがやって来た。
「もしかしてって思っていたんですけど、現内さんって私に会いにきてます?」
ニヒッと小悪魔っぽい笑みを浮かべながら、栄樹さんは僕との距離を詰めてくる。
「はは、それもあるかな」
僕が返答すると、栄樹さんは足を止め、口をとがらせる。
「なんか、すっかり私に慣れたって感じですね」
「いいことじゃん」
「そうですけどー…」
不満ありといった様子で、栄樹さんは僕の横に並んだ。
「今日も観戦に来たの?」
「そうですよ。あのチームはここらへんだと上位クラスですから」
「ふーん」と答えつつ、前も聞いたなと思った。
「なんで、そんなに熱心に観戦に来ているんだっけ?」
「真面目に格ゲーやっているからですよ」
それはもっと前に聞いた気がする。
「じゃあ、なんでそんなに真剣にやっているの?」
さっきまで顔を合わせずに話していたのに、栄樹さんがこちらを向いていた。
「今日はずいぶん聞いてきますね」
失礼のないように、を心がけて女子と接している僕は、あまり踏み込んだ質問はできずにいた。
けれど今日は、そんなことよりも他の人がどんな風に格闘ゲームに向き合っているのかが知りたくなった。
「まぁ、ちょっと考え事をしていて…」
「考え事ですか?」
「そんなたいした事じゃないんだけど」
「そうですか。じゃあ、それを先に教えてください。そしたら答えますよ」
したり顔で僕を見上げる栄樹さんと目が合った。
「栄樹さんも僕のことよく聞いてくる気がする」
「えっ?そうですかー?」
ちょっと図星をつかれたようなリアクションを栄樹さんはとった。
「自意識過剰じゃないです?」
「そうかな」
「それで、考え事ってなんですか?」
考えていたことは何か?
隠したいわけでも、恥ずかしいわけでもなく、ただなんて言っていいかわからない。
「うーん…」
小さく唸りながら、言葉を探す。
無意識にあたりを見渡すと、大勢の格ゲーマーや観戦者が目に入ってくる。
そしてその中心にあるのは…。
目標が分からないなら、それっぽい方に歩いてみるのも一つの手かもしれない。
「どうしたら、あの人達と対戦できるかな?」




