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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
3/133

第1話:ゲーマーがステータス02

数々の違和感を感じながらも、動画で対戦が始まると、僕はそれを視聴した。


こうやって色々な事を保留し続けてきた結果が、今の僕の現状を作っているのはわかっていて、いつか泣きをみる事も想像できているが、それでも今の生活を捨てらない。


だって、ゲームはこんなに楽しいじゃないか。

ゲームができれば、僕は、他の事は諦めたっていい。

そう思っている。自分はそういう人間なんだと判断した。


それでも朝の出来事のせいで、最初の方はあまり集中して見られなかったが、次第にいつもの自分に戻っていく。


トッププレイヤー達の対戦は、いつ見ても楽しい。

隙の無い牽制。精度の高いコンボ。鮮やかなアドリブ。たまに見せる小さなミス。

それらが僕を魅了してやまない。


何度か、この動画のゲーセンに足を運んだことがある。

休日やイベント日は人が多いらしいので、高校が休みの平日にだけ。

それでも、そのゲーセンにいる人達は強かった。

運良く勝てることがあるくらいで、常に劣勢を強いられる。

散々な結果に終わっても、その日の経験はたしかな収穫で、僕はそこから何日も一人、頭の中で検討と対策を繰り返した。


僕もいつか、あの人達と肩を並べたい。

そう思ったことはなかった。どんなに憧れても。

自分は、そこまで頑張れる人間ではない。

いくらゲームが好きでも、そこまで盲目にはなれなかった。


だから、今こうして楽しめているだけで十分だ。




「おい!」


突然強く肩を叩かれた。

驚いて通路側を見ると、同じクラスの嫌な奴らが僕を見下ろしていた。


「あ、なんで…」


「お前、このバスで来てたんだ。俺ら伊藤ん家で泊まっていたから」


リーダー格の加藤は、親指で隣に立つ伊藤を差した。


「イヤホン指してスマホとは、お前らしいな」

「何を見ているんだよ」


伊藤が僕のことを馬鹿にした後、佐藤が無理やり僕のスマホを取り上げた。


「…っ」


僕は、抵抗はおろか、何も言うことができずにいる。

ただ、何事も無く事が済むのを願った。


加藤達は三人で僕のスマホを覗きこむ。

そして、軽く嘲笑うと、ニヤついた顔で再び僕を見下した。


「なに生意気にランブルギアの対戦動画を見てんだよ」


加藤はいつものように高圧的な態度を向けてきた。


「しかも、ボイドの動画とか、お前が?」


横の二人もそれに続く。


これが僕の日常。

ただこうやって馬鹿にされ、黙って耐える毎日。


そのはずが、やっぱり、昨日までと何かが違う。


なんでこの三人が、ランブルギアを、ボイドさんを知っている?

ランブルギアは今もっとも人気が高い格闘ゲームだ。でもそれは、ゲームファンの中だけのこと。

ボイドさんは昔から有名なトッププレイヤーの一人だ。だけど、その名前を覚えることはそうない。


「え、あ…」


いくつも疑問が浮かび上がったが、僕はそれを口から出すことができずにいた。


「あ?なんだよ?」


そのじれったい僕を、加藤は睨み付ける。


「そうだ、せっかくだし、相手してやったら?」


佐藤は、加藤にそう提案した。


「はは、面白そう」

「悪くないな。お前の実力見せてみろよ」


加藤は、佐藤の提案が気に入ったようだ。


「この申し出を受けるなら、このスマホを返してやる」


加藤は佐藤からスマホを受け取ると、ヒラヒラと僕を煽った。


無茶苦茶だ。ちょっとよく考えれば、こんな事があっていいはずがない。

仮に僕が交換条件を飲まなくて、奴らがそのままスマホを持ち去ったら窃盗だ。

先生に言えば、それなりに大事になる。


でも、その大事と、その後の事が、僕から抵抗力を奪い去る。

こいつらの小さないやがらせを耐える事が、一番リスクが無くて、一番簡単だから。


「…わかった」


「よーし」


加藤はスマホを僕の膝に放り投げる。


高校に着くまで、三人に色々言われた気がする。

しかし、僕は内心それどころではなかった。


ランブルギアで、加藤と対戦する。

僕の唯一の支えであるゲームで勝負する。

加藤はゲームをやる人間ではないはず。だから、負けないはず。


が、なんであんなに自信あり気なんだ?


もし、もしも、ゲームですら負けてしまったら。


僕と言う人間は、こんなにも自信が無かった。

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