第4話:住めば都かスクールライフ05
相手の牽制攻撃が届かないことを確認して、相手キャラよりも前に出ている「くらい判定」を叩く。
相手の隙が少ない突進攻撃を「直前ガード」して、追撃をされる前に投げる。
空中やられ状態の相手の高さを調節するために、「デュレイ」をかけてダメージを伸ばす。
これらのテクニックは、少し格ゲーをやり込めば、かならず必要になってくる。
ただ、やり込めばと言った通り、友達や初心者同士だけで遊ぶ分にはあまり関係は無く、ゲームのチュートリアルでも説明されることはほとんど無い。
僕が今いるのは、高校のゲーム部であり、弱小ではないと聞いている所である。
だがしかし、僕がこれらのテクニックを披露すると、「おい、今の…」といったどよめきのようなものが起こる。
まるで、同世代がオーバーヘッドキックをやっているのを初めて見た時のように、同世代がギターを演奏しているのを初めて聞いた時のように、同世代の作品が賞をとったのを初めて知った時のように、いきなり生きている舞台の違いを見せつけられて衝撃を受けているようであった。
「あれって、カズンさんもやっているバリアキャンセルめくり」
「マジですげぇな…」
本人達は本当に感激してくれているのだろうけれど、僕にとってはちょっとこそばゆい。
この世界では胸を張っていい技術なのだろうけど、元の世界ではみんなやっていた。
もちろん、そうやって褒め称えられるのはうれしいので、つい無駄に技術紹介しているところもある。
「現内…くん、今のってどうやって対策するの?」
対戦が終わり、相手が先ほどの「めくり」について訊ねてきた。
「あれは、無敵時間のある技で割り込まない限り、完全な二択だったと思います。やっている僕も、ガードがどっちになるのかわかりませんから」
「やられたら、大人しく運に任せるしかない?」
「うーん、完全な二択と言いましたが、それは完全に真上を取れたらの話なので、前後どちらかにずれていないか気を抜かないことも大切だと思います」
「うへー、そんなの見えるのかね」
少し間をおいて、別の質問が聞こえてくる。
「あのさ、俺そのキャラを使っているんだけど、そのめくりを教えてくれないか?」
「はい。まず仕掛けるタイミングは、足払いかふっとばし攻撃でダウンが確定した時で、ダウンした相手が起き上がり始める時に真上でバリアキャンセルするように、ダッシュジャンプします」
「バリアキャンセルって、どうやっているの?ネットで見たことあるけど、ずらし押しってやつをやるんだっけ?」
「色々やり方はあるみたいですが、僕は人差し指と中指で軽く段差を作り、その状態で同時押しするようにボタンを押しています」
「ずらした分、2つ目のボタンが遅れるから、ずらし押しになるってことか」
さきほど対戦していた人が、その方法を試してみる。
カタンカタンと、ボタン入力が遅れている音がした。
「なるほど」
「言われてみれば簡単そうだけど、対戦中にその手にできるもん?どれくらい練習した?」
練習量か。そう考えて、僕は回答に少し悩んだ。
僕は、すぐにできるようになる事は滅多に無いけれど、このずらし押しだけはそんなに苦労しなかった。
しかし、素直にそんなことを言って、調子に乗ったと思われないだろうか?
「そうですねー…。僕は不器用な方なので、一ヶ月くらいは練習したと思います」
当てずっぽうだが、それっぽい期間を言ってみる。
「一ヶ月かー、俺なら二日であきそうだな」
なんか、一日中練習しているように取られた気配がしたが?
「しかも、このキャラって別に持ちキャラでもないんだろ?」
「プロは全キャラ使えるとか、たまに聞くけど、本当だったりして…」
たしかに、自分で使ってみることで弱点が見えたりするから、それはやっているかもしれない。
というか、自分がどう思われたのか確認するタイミングを失ってしまった。
そのことはとりあえずよしとして、僕の番は終わったので、席を離れてグループの後ろに回った。
入れ替わりで別の人が席に着き、さきほどの相手と対戦を始める。
僕はそれを黙って眺めた。
決して初心者ではない。
ガチャ押しはしない。コマンドミスもほとんど無い。体力やゲージも見えている。
だが、どうにも、一つ一つが物足りない。
同じ行動パターンが目立つ。反応が遅い。ゲージ効率が悪い。
ネット動画で、プロとされている人達の対戦を観た限り、実力は元の世界のトップランカーと変わらなかったと思う。
けれど、元の世界には高校生で全国大会に出るような人もいるのに、この世界では真面目に練習している人達がそのレベルにまったく届いていない。
失礼だが、僕にすら歯が立っていない。
となれば、高校最強ってどのくらいになるのだろうか?
さすがに僕より強いと思うけど…。
こんなに環境が揃っているのに、なんで…?
ネットも、ゲーセンも、部活まであって、女子も積極的にプレイしているくらい人口もいるのに。
…。
あっ、もしかして。
僕はその理由をちょっと思い付いた。




