第4話:住めば都かスクールライフ04
そして放課後。
僕は入部届を持って、格ゲー部の部室の扉を開けた。
昼休み中に、用紙をもらって記入まで済ませておけばよかったのだが、そんな発想は関泉さんに言われるまで思いつかず、あわてて職員室へ取りに行った。
開始時間にはギリギリ間に合ったが、部員は全員揃っている感じで、変に注目を集めてしまい居た堪れなくなってしまう。
「おっ!現内くん」
屋良さんがまっさきに声をかけてくれた。
僕の様な引っ込み思案は、こうやって話を切り出すきっかけを作ってくれる事をありがたく感じる。
「あの、えと、にゅ…入部をしたいのですが…」
まぁ、ちゃんと言えるかは別問題なのだが。
ともあれ、しどろもどろな自己紹介をして、無事入部を果たした。
僕は2年生なのだが、新入部員ということで1年生と一緒に雑務をすることを言い渡された。
部室の掃除・ゲーム機の手入れ・部室の鍵開け・その他もろもろの説明を、花尾間さんと関泉さんから受ける。
そして、部活の基本的なスケジュールを教えてもらうと、関泉さんが「そういえば」と何かを思い出した。
「来週の土曜日は、この学校で交流戦をやります」
「交流戦?」
「そう、このあたりの高校の格ゲー部が一挙に集まるんだけど、…蓮子、説明してあげて」
「えっ?私が?」
「私、去年はすごく緊張しちゃってて、全然覚えてないのよ」
と、関泉さんは淡々と理由を述べた。
「えー…、そんなの…」
花尾間さんは何か言いたげだったが、ちらりと僕を見て、軽く咳払いをした。
「こ、交流戦っていうのは、さっき涼奈が言った通り、このあたりの4校が集まって対戦をする行事で、今年はうちで行うことになっているの」
運が良いのか悪いのか、僕は入部早々、大きなイベントが目の前で待っていた。
大会ではないが、大勢が集まって格ゲーをするとなると、緊張と共に期待も高まる。
「交流戦のことも説明してくれていたんだね」
屋良さんが、関心関心といった面持ちでこちらにやってきた。
「すごいだろ?こんなイベント、なかなか参加できないよ」
「はい、たしかにすごそうですね」
素直にそう感想を述べると、初めて部活というものに身を置いた僕でも気になる点があった。
「あの…」
「ん?」
「入ったばかりの僕は、どうなるのでしょうか?」
新人なんちゃらとでも名前に付いていない限り、大会や行事は先輩達が主役であることは、さすがの僕でも知っている。
きっと、裏方に回るのだろうけど、一応確認しておきたい。
「さっそく気になるか?」
「えぇ、まぁ」
「残念ながら、新人だからね。3回くらい対戦できて、あとは雑用だな」
期待はしていなかったとはいえ、さすがにがっかりくる答えだった。
せっかく頑張る気持ちでいるのに、出鼻を挫かれた気持ちにもなってしまう。
「でも」
僕が肩を落とす暇もなく、屋良さんの話は続きがあった。
「現内くんには、最後のトーナメントに僕の代わりに出てもらおうかな」
「「えっ!?」」
花尾間さんと関泉さんが同時に驚いた。
僕は事態が飲み込めず、ノーリアクションになってしまう。
「あの…」
「屋良、お前それ本当にやるつもりだったのか?」
僕が何かを言う前に、3年の男子部員が屋良さんに詰め寄った。
「まあね。俺も出たいけど、だからって他の誰かをはずすわけにもいかないし」
「それなら別に、現内を出さなくても」
「普通はそうなんだろうけどさ。この部を強くしたい僕としては、この選択はありなんじゃないかなと思っているんだよ」
屋良さんがそう言い切ると、男子生徒が僕の方を向いた。
にらんでいるわけではないが、少し怖い。
「まぁ、公式戦ってわけじゃないから、別にいいんだけどさ」
そうして、屋良さん達は少し話し合って、男子生徒は戻っていった。
「ごめんよ。なんか、やりにくくなっちゃったな」
屋良さんはそう言って僕に手を合わせた。
「いえ、でも、本当にいいんですか?」
3年の先輩が出て来るまでもなく、入部して初日の僕には荷が重い提案であった。
「現内くんが嫌でなければね」
そう言って、屋良さんは僕を試すような目をした。
今までなら辞退しているような出来事だけれど、格ゲーのこととなるとそうはならなかった。
「頑張ってみます」
「おう、期待しているぞ」
屋良さんは最後に僕の肩を叩いて、練習に戻っていった。
「なんだか、すごいことになったわね。私も初めて聞いた」
関泉さんも呆気にとられている様子であった。
花尾間さんも、驚いて何を言っていいかわからない感じでいる。
「今年で最後だからね。それだけ屋良も燃えているってことじゃないかな」
屋良さんと入れ替わるように、今度は箕内さんがやって来た。
「3年生は夏の大会で引退、結果を残せる最後の機会まで、もう時間が無いから」
気のせいかもしれないけど、箕内さんがちょっとだけ寂しそうに見えた。
「部を強くしたいと言っていたのは、そのためだったんですね」
「そうだね」
箕内さんは花尾間さんと関泉さんの間に入り、二人と肩を組み始める。
「部活の説明は終わったかな?あんまり長いとサボりとみなしちゃうぞ」
箕内さんはそのまま二人を連れ去っていく。
「あ、現内くんは屋良がいる所へ行ってね」
少しだけ振り返って、箕内さんは僕の行く所を教えてくれた。
「はい」
僕は屋良さんのいるグループへと向かった。




