第4話:住めば都かスクールライフ03
「うおー!この画面端のコンボ、すげーよな」
「どんだけやり込んでいるんだろう?」
昼休みになり、僕は朝の5人とお昼ご飯を共にしている。
机を並べて、3人で一つのスマホを使い、同時に同じ動画を再生している。
観ている動画は、僕が毎朝観ているゲーセンの対戦動画だった。
男子はすでに三人組だったので、僕は女子二人に混ざる形になった。
ただでさえ女子と並ぶのに慣れていないのに、並んでごはんを食べながら格ゲーの動画を観ているのが、なんだかまぬけに感じた。
この世界ではサッカー観戦しているような感覚なのだろうけど、僕は気恥ずかしかった。
ちなみに僕のお弁当は、お母さんが作ってくれたおにぎりと、最悪素手で食べられるようになっているおかず達。
僕がしょっちゅう箸を忘れるから、けっこう早い段階でこの形が定着した。
その事が当たり前になっていて、すっかり忘れていたけれど、ここにもお母さんの気遣いを見つけて、ちょっと照れくさくなる。
しかも今日に限っては、隣の女子にぶつからないように肩を縮めても、そこまで食べにくくないというメリットもあった。
「なぁ現内」
動画の対戦が終わり、男子の一人が僕に声をかけた。
「セントコンって、けっこう使っている人多いけど、強キャラなの?」
「えーと、そうだな。強キャラだと思うよ。色んな人がAランクを付けているし、人によってはSランクになっていたかな。まぁ、操作が難しいから、Aランクくらいがちょうどいいんじゃないかな」
「操作が難しいのに強キャラなの?初心者が使っても強いから強キャラっていうんだと思っていた」
隣の女子がそう聞いてきた。
「あー、基本的にはその考え方であっているよ、たぶん。そういう意味で言われていることが多いだろうから。それに、1フレームを争っているから、お手軽感は重要な要素でもあるし。」
「フレーム?」
はじめて聞いたといった顔で女子がさらに質問をしてくる。
困った。ちゃんと説明できるかな?
っていうか、ゲームがこんなにもてはやされているなら、フレームくらい知っていてもいい気がするんだけれどー…。
でもま、サッカーワールドカップを観ながら、「オフサイドって?」と聞かれているようなものか。
みんなが観ているから試合を観ているわけであって、サッカーを観ているわけではないみたいな?
そういうのを下に見ていたけれど、こうやって女子と話せる機会だと思うと、悪くはないと思ってしまう。
ただし、格ゲーに興味を持ったと勘違いをしてはいけない。
「うまく説明できるかな?えっと、ゲームの画面って極端に言うとパラパラ漫画なんだ。ゲーム機が、画面を表示するのと、プレイヤーの操作を認識するのを、高速で交互に行っている。その1回の画面表示のことをフレームっていうんだ」
「ふーん、それってどのくらい早いの?」
「ゲームによるけど、ランブルギアは1秒間に60フレームある」
「えっ!?1フレームって、ようするに60分の1秒なの?」
「うん」
合っているよな?
大袈裟なリアクションだったので、言ってやった感よりも、内容の成否が気になる。
「プロって、その1フレームが見えているってこと?」
今度は別の男子が聞いてきた。
「あくまで僕の予想だけど、それはいないんじゃないかな?一桁フレームだったら、見えているのかもしれないけれど」
「じゃあ、見えていないのに、1フレームを争うってどういう意味なん?」
「状況判断の早さとか、コマンド入力の早さかな。例えば、1フレーム相手より早く反応できたとしても、操作に手こずって2フレーム遅れてしまったら、1フレーム差で相手の攻撃をくらってしまうみたいな感じ」
「なるほどー…」
どうやら納得感のある回答ができたみたいで、全員が頷いてくれた。
「俺はてっきり、ジャンケンで相手の手を見て自分の手を変える、みたいな話かと思っていたよ」
「たしかに」と男子達は笑った。
「もちろんそういうのもあるけど、強い人達同士の対戦だと、まず相手がそんなスキを見せてくれないんじゃないかな」
「そうだとしたら、逆に意表をつけるんじゃ?」
「リスクが高いけど、ありだと思う。僕は、格ゲーは心理戦だと思っているから」
と自分が少し調子に乗って語ってしまったことに気が付いた時には手遅れだった。
まわりから「言うねー」とか「ヒュー」とか冷やかされてしまう。
僕は丸めていた体をさらに丸めた。
「んでんで、最初の質問に戻るけど、セントコンって強いの?」
男子の一人が、僕が黙り込んだのを感じたのか、恥ずかしい雰囲気を変えてくれた。
「強いんじゃないかな。さっきの動画でもそうだったけど、相手が画面端に追い込まれたらガードを崩されていたよね。ようするに、完全にガードできる人がいない連携を持っていることになる」
「あ、でもそれがすごく難しいから、初心者じゃ使えないってことか」
「そういうこと」
見事正解できた女子がドヤッと笑っている。
「だから、強キャラを使っているからって簡単に批判しちゃダメなんだ。その人の実力や練習を無視することになる。前作から使い続けているだけってこともあるし」
「やっぱり、現内って面白いやつだったんだな。態度と言葉の熱さの差がすごい」
「テレビの熱血解説並みだ」
こうしてまた一笑い起きて、強の昼休みは終わった。
学校でにぎやかなにごはんを食べるのは、いつぶりだっただろうか?
終始からかわれていたと思うが、そんなに嫌な気持ちになっていないのは、たぶん僕が、彼らは悪い奴らじゃないと理解できたからなのかもしれない。




