第4話:住めば都かスクールライフ02
「それじゃ、またお昼に」
クラスが違う関泉さんは、一人歩いて行った。
花尾間さんが立ち止まっている間に、僕が先に教室へ入る。
挨拶する相手はいないので、自分の机だけを見て歩く。
自分の席に辿り着いた時、教室が少し静かになっているのを感じた。
なんか、嫌な予感がする。
視線が僕に集まっている?
加藤が朝一に何かいやがらせでもしていたのか?
念のため椅子、机、床、鞄とチェックしたが、何も問題はなかった。
気のせいだったかな?
机の上に視線を落としたまま、ゆっくりと席につく。
すると、黒板付近で立ち話をしていた男子達の一人が近づいてきた。
「現内、ちょっと聞いてもいいかな?」
話したことも無い奴が急に接近してきて、僕は若干警戒したが、その点が考慮された遠慮がちな話し方だった。
「う、うん」
何を聞かれるのか皆目見当もつかないけれど、断る理由は特に無し。
「現内って、三年の屋良さんと知り合いだったの?」
その質問がされた後、僕らに注目が集まったことを感じた。
この現内があの屋良さんと?といった興味本位だろうが、それだけ僕と屋良さんのペアがミスマッチだと思われていることを証明している。
な、なんて答えたらいいんだ?
先週の朝の出来事を話せばいいのだろうけど、それなりに長くなりそうな話を僕がしないといけないのか?
僕を馬鹿にしている態度ではなさそうだが、だからと言って、こいつにネタを提供してやる義理はない。
はっきり言って面倒くさい。
「あー、えっと、知り合いっていうか…」
「それ、私も興味ある!」
僕が適当な事を発していると、これまた名前も知らない女子二人が追加された。
「先週の金曜日の朝、現内くん格ゲーのところで盛り上がっていたよね」
「えっ、現内って格ゲーやっていたの?」
女子が朝の目撃証言をして、男子がそれに驚き、さらに僕へ質問を重ねる。
「マジかよ」と男子グループの残りのメンバーも僕の席へやってきた。
ぐるっと見渡して計5人が、僕に興味の目を向けている。
「何をやっていたの?」
「えと、たしかランブルギアだったかな?」
「へー、意外だな。っていうか、二年になってまだ現内と話したことなかった」
「そうだよ。せっかくランブルギアやっているなら、俺らともっと話そうぜ」
せっかくの意味はわからないが、どうやらみんな、冷やかしとかそういうわけではなさそうだ。
「もしかして格ゲー部だったの?」
「いや、まだ入っていない」
「まだって、これから入るの?」
「えっ!ひょっとして、あれって屋良さんが現内くんを勧誘していたとか?」
僕が話すまでもなく、5人は見事な推理を展開していく。
「どうなの?」
この質問の回答を、全員が静かに待った。
「勧誘だったかどうかはわからないけど…」
とりあえず、先週の事を簡単に説明した。
文字通りただ説明した。
だけど、彼らは気になる点を拾っては、質問したり、時には茶化したり、僕の話を盛り上げてくれる。
彼らの楽しそうな雰囲気につられて、僕も口が軽くなってきていることに気が付いた。
「へー、お前って実は面白い奴だったんだな」
「ランブルギアのことはよく知らないけど、なんか真面目にやっていたってことはわかったよ」
「俺ら観る専だけどさ、そんなに好きだったなら話に入ってこいよ」
「そうだよ。お前の解説あったら、もっと盛り上がるんじゃね?」
「えー、面白そう。私達も混ぜてよね」
なんか、勝手にみんなでお昼を食べながら、ランブルギアの動画を観ることになっているんだけれど…。
だけど…。
いいな、こういうのも。
僕にからんでくる奴はみんな、ネタほしさにからかいにきたハイエナみたいな奴らだと思っていた。
この5人はいい奴らっぽいけど、まだ警戒心を完全に解いたわけではない。
今のところ、僕の意思をちゃんと確認してくれてはいないから。
でも、いいじゃないか。
ぶっちあげて言って、こうやってチヤホヤしてくれるのが、楽しい!
しかも、頑張ろうと、具体的な目標を立てていなかったけれど、とにかく頑張ろうと思ったばかりだ。
みんなに流されているだけだけど、自分から行動しなくて済んだと思えばいいじゃないか。
格ゲー部であのレベルだったんだ。
観る専と、何も知らない女子なら、なんとかなるんじゃないか?
ちょっとだけ黒い打算が僕の中で出た。
キーンコーンと学校のチャイムが鳴る。
「おっ、じゃあ昼飯の時な」
そう最後に言って、みんなは席へ戻っていった。
先週に引き続き、朝から目まぐるしい。
どうしてみんなはこのテンションを一日保っていられるだろう?
そろそろ先生が来るか?と思って廊下側に目をやる。
すると、花尾間さんと目が合った。
あっ、と思った時には、花尾間さんは目を伏せてしまった。
僕も気まずくなって、顔を伏せる。
僕のことを見てた?
そ、そうだよな、あの人見知りの僕がなんか取り囲まれているんだ。気になるよな。
もしかしたら、いじめられていないか心配してくれていたりして。
そう自虐して、僕は心の中で乾いた笑いをした。
部活に、クラスメイトに、花尾間さん。
すでに僕のキャパシティはオーバー寸前だった。




