第4話:住めば都かスクールライフ01
休日が明け、月曜日がやって来た。
僕はいつも通り、動画を観ながらバスに揺られていた。
いつもと違う点は、動画にまったく集中できていない点だった。
昨日、さっそくゲームを起動して、ネット対戦しようとしたところ、まさかの入場制限をくらった。
ネット回線か、はてまたサーバー管理か、理由はわからないけれど、すべての人を受け入れられないほど、休日にプレイしたい人がいるということだろう。
それだけ、この世界では多くの人が格ゲーをやっていることになる。
僕としては大変喜ばしいことだが、こうなってくると少し話が変わってくる。
結局、4時間待って2時間対戦を2回が限界であった。
おかげで、いつになく寝不足である。
そして、さらに僕を驚愕させたことがある。
それは、ランクアップへの道のりの長さ。
プレイヤー人口が多いのだから、それだけ強い弱いの棲み分けが必要であるのは当然。
当然なんだけど。
1ランク上げるのに、元の世界の10倍はかかりそうである。
それに加えて休日の入場制限、いつになったら、僕がやっていたランクへ戻ってこれるか検討もつかない。
感じの悪い言い方をするが、それまで初心者狩りを続けなければならないのが苦行である。
「はぁ…」
昨日はあんなにやる気だったのに、すっかりテンションを抜かれてしまった。
バスを降りて、校門を通る。
気が滅入ってくる。
やりたい事ができたけど、僕にとって学校はまだまだ憂鬱な場所だ。
しかも、これからはどんどん人と関わっていくことになる。
今までの様に、隅っこで黙っているわけにはいかない。
自分に本当にできるのか?
それを毎日続けられるのか?
不安に押しつぶされそうだ。
まるで、高校に入学したばかりの時のようだった。
下駄箱で靴を履きかえる。
「…あ」
僕の近くに来た女子の小声が聞こえた。
僕に話かけてくる女子はそういないので、顔を見ることなく教室へ向かおうとする。
が、横目に見覚えのある長い髪が見えた。
何気なく顔を向けると、そこに立っていたのは花尾間さんだった。
「あ…」
僕は花尾間さんとまったく同じリアクションをとってしまった。
こ、これって?あれだよな。
「おはよう」って挨拶した方がいいやつだよな?
ぼ…僕が?女子に?
いけ!今日から頑張るんだろ!
心の中で前向きな僕がそう励ますが、後ろ向きな僕自身が、どもるのが怖くて声が出ない。
「なに二人で口開けて見つめ合っているの?」
関泉さんが廊下側から現れた。
僕ら二人は一緒に関泉さんに助けを求める視線を送る。
「クスッ、これはさすがに笑っちゃう」
関泉はすべてを察して、意地悪気に笑った。
「ほら、言いたい事があるなら、言っちゃいなさいよ」
と背中を押す真似をしながら、まるで告白を後押しするように関泉さんは言った。
「りょ、涼奈ー…」
花尾間さんが耐えられなくなって、関泉さんへしがみつく。
それをよしよしと、赤子をなだめるように関泉さんは迎え入れる。
「おはよう、現内くん」
その後、関泉さんはスマートに僕へ挨拶した。
「あ、お…おはよう」
僕からも、ギリギリ赤点の挨拶を返す。
するとなんとなく、花尾間さんの方へ向いてしまう。
無意識に、この流れなら挨拶してくれると思ってしまった。
「…おはよぉ、ございます」
目を合わせてはくれなかったが、なんと期待してしまった通り、僕なんかに挨拶をしてくれた。
きっと普通の高校生には、普通に当たり前の事なんでしょうけど、僕にとってはすごくありがたい事だったのです。
さっきまでの暗い気持ちなんて、忘却の彼方へ行ってしまうくらい。
僕に挨拶してくれる時点で、二人とも最高にいい子なんだけど、同じ人見知りという勝手な仲間意識があるせいで、花尾間さんがちょっとだけ特別に思えた。
「今日は、部活に来るの?」
「うん、先週の返事をしないといけないから」
「おー、その感じは」
「入るよ」と言わんばかりの態度が出てしまい、照れる。
「よかったじゃん、蓮子」
「う、うん」
関泉さんの問いに、かなり間を置いて花尾間さんは肯定してくれた。
一瞬ヒヤッとしたが、そんなことないよね花尾間さん?
一挙動事に敏感に反応してしまうクセを直さないといけないな。
どうすればいいかはわからないけれど。
僕は心の中で一人反省をする。
「ここにいても邪魔になるし、教室へいきましょう」
三人で階段を登り始めた。
人通りも多くて、会話をしにくいというのもあり、会話はなかった。
さすがにこんな状態じゃね。と思いながらも、頭の中で出せそうな話題を必死に検索したが、ついに出てくることはなかった。