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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
19/133

第3話:再始動06

自分の気持ちというのは、案外自分でもわかっていないもので。

言葉にして、誰かに聞いてもらって、初めて知る事もあるようだ。


はじめは、ただ家でゲームをするためだった。

格ゲー部に勧誘された事も、交渉材料くらいのつもりだった。


実際、入るかどうかなんて、あの日以来一切考えていなかった。


けれど、心の奥底では格ゲー部に入ることに希望を感じていたようだ。


僕は集団行動ができる人間ではないし、屋良さんの期待に応えられる人間でもない。

格ゲーの部活だからって、僕でも楽しくできるとは限らない。

もっと言ってしまえば、そういうことができなかったから、今まで一人でやってきたのだ。


しかし、そんなものは結局、一歩前へ踏み出せない自分への言い訳なわけで。

いつだって僕は、みんなで楽しそうにしている様子を、外から羨ましく見ていたんだ。

それがいつしか、妬みに変わってしまうくらい。


それに気が付けた。

チャンスが目の前にある。

しかも格ゲー関連という、かつてないほどのビッグチャンス。


こんな幸運、もう二度とないかもしれない。

もう一度だけ、頑張ってみるよ僕。


そう心に誓いながら、僕は右手にゲーム機、左手にアーケードコントローラー、鞄にゲームソフトを入れて、帰りのバスを待っていた。


とまぁ、感傷に浸るのはこれくらいにして。

僕はさきほどまでいた電気店のことを思い出す。


きっとゲーム売り場は広いんだろうなーくらいに思っていたが、その上をいかれた。

まさか、ジャンル毎にコーナーが設けられているとは思わなかったし、試しプレイや周辺機器なんかも充実していた。

さらに、ゲーム雑誌やDVDなども揃っていて、まさに夢のようなお店になっていた。


一区画ごとに練り歩いてしまったら、あっという間に2時間が経過していて、きりが無いから一旦目当ての物を買って切り上げてきた。


「…また来よう」


バス停に誰もいないことをいいことに、独り言も漏らす。


「ほぉ、そこの君、大量のようだね」


突然、後ろから女の人に声をかけられた。

体をビクつかせて、僕は振り返った。


そこにいたのは、箕内さんと屋良さんの二人であった。


箕内さんは、髪を下ろしていて、ジーンズっぽい上着に、スニーカーを履き、かなりボーイッシュな格好をしていて、最初誰だかわからなかった。

だけど、ロングスカートや細いネックレスが、年上のお姉さんといった雰囲気を出していた。


屋良さんは、なんかダボッとしていて色にメリハリのあるよくわからない服装で、ファッションに疎い僕は何も考えられなかった。

学校の人気者なのだから、きっと流行を取り入れた何かなのだろう。


「ほら、現内くんも屋良の服に絶句しているじゃない」


「違うね。箕内の印象が違いすぎて詐欺を疑っているんだよ」


言葉を失っている僕の目の前で、二人は仲良さそうに言い合いをしていた。

それは、まるで少年マンガに出てきそうなワンシーンで、次第に面白くってきた。


僕の笑い声を聞いて、二人はじゃれ合いをやめる。


「にしても、すごい買い物をしたな。ゲーム機とアケコンを同時に買うなんて、通販の方がよかったんじゃないの?」


屋良さんが、まじまじと僕の手荷物を見つめる。


「そうなんですけど…」


家にゲーム機が無いって、言わない方がいいかな?

なんとなく、そんな気が回った。


「なんか、同時に壊れてしまって、配達されるまで待てなかったと言いますか」


通販を待てなかったのは事実なので、よしとする。


「ほー、両方ともそう簡単に壊れる物じゃないよ?やっぱり強い人は練習量からして違うんだね」


「うはー、マジか」


信じてくれたようだが、余計な株が上がってしまったようだ。


「屋良さん達も、その、買い物ですか?」


年上相手に慣れない話題変更を実行する。

これ以上つっこまれると、ややこしくなってしまう予感がした。


「そのはずなんだけど」


「なによ。ちゃんと帰りに寄るって言っているでしょ」


「お前、ゲーセンに居座ると長いからなー」


「そうだけど、疲れたって言って諦めるのは屋良自身だからね」


どうやら、この二人はゲーセンに行く途中のようだった。


「今日は、どこかのゲーセンで貸切台を取ったんですか?」


「いやいや、そんなお金無いって、フリー対戦イベントがあるから、乗り込みに行くのさ」


箕内さんは、そう言いながらウキウキな気分をファイティングポーズをとって表現した。


「せっかくだから現内くんも誘いたかったけど、その荷物じゃ無理そうだね」


僕は「あはは」と笑って同意したが、内心は行ってみたかった。


「まったくだよ。現内くんみたいなのが来たら、みんな度肝を抜くだろう」


「そ、そんなことないですよ」


箕内さんには僕がどんな風に見えているんだ?

幻想と現実が離れていっているようで焦る。


なんて他愛もない雑談をしていると、いつの間にかバス停に列ができていて、乗る予定のバスがやって来た。


「じゃあな、明日、返事を聞かせてくれよ」


「じゃあねー」


二人に見送られて、僕はバスに乗り込んだ。


一緒にいて、本当に楽しい二人だった。

話を聞いているだけでも面白いのに、適度に話を振ってくれるから、僕でも話の輪に入っていられる。

人気者には、それ相応の理由があり、納得の人望だと思った。


それにしても、あの二人は仲が良いというか、お互いをよく理解し合っている感じだったな。

幼馴染とか?

それとも、もしかして付き合っているのか?


箕内さんの顔がちらつき、少しモヤッとした。

ちょっと構ってもらえただけで、その人に彼氏がいるいないでモンモンとするなんて、僕はなんてどうしようもない男なんだ?


たしかに、箕内さんはかわいいし、とても話しやすいし、好みな方かもしれないけど…。


………。


その後、僕は馬鹿丸出しな妄想を、家に帰り着くまで続けてしまったのであった。


第3話 -完-

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