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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
17/133

第3話:再始動04

今日は楽しかったなー。

と鼻歌混じりに家の前まで帰って来ると、ちょうど母も帰って来ていたところであった。


鍵を回し、ドアを開いたところで、僕に気が付いた。


「あ、今日は出かけていたんだ」


「…うん」


母は僕も入れるように大きくドアを開くと、家の中へ入っていった。


そうだった。

僕にはまだ、乗り越えなければならない山場が残っていた。


僕の両親は普通だと思う。

ただ、父が少しおっとりすぎるところがあり、母しか僕の変化や危険に気が付ける人がいなかった。

そのせいで、母は僕に対して少し過干渉ぎみになった。

だから、学校や友達とうまくいかなくなってきた中学生の頃に、よく衝突するようになった。


高校生になって、なんとなくそのあたりを理解し始めたが、同時に母は僕への干渉をやめた。

僕から話しかけることはほとんど無いから、僕の家は物音しかしなくなった。


少し大人になった僕は、ゲームさえできれば、なるべく迷惑をかけないように気を付けた。

まだまだ子供な僕は、母の心境を察しながらも、未だに何もできていない。


それが僕ら親子の関係であり、この世界でもおそらく変わらないのだろう。


手洗いうがいをして、僕は自室の椅子に座った。


何て言えばいいのだろう?

僕がこれからやろうとしていることは、この世界ではいい事なはずだ。

だから、明るい話題のはずなんだ。


子供が親におねだりするなんて、コミュニケーションの一つに過ぎない。


だけど、それができなくなるほど、僕らは会話を忘れている。


そう、だから。


目的は格ゲーのためだが、親子関係を修復する第一歩にもなる。

自分のためだけだけど、これをきっかけにいい方向へいくかもしれない。


受験前日のように緊張してきて、もしかしたら体が震え始めているかもしれない。

でもこれは、やると覚悟を決めた証でもある。


嵐のように訪れた未知なる体験を得て、僕はこの世界ならやり直せると感じているのかもしれない。


気まずい雰囲気に一石投じることに臆して、今までのように黙ってやり過ごすには、僕はこの世界に可能性を見い出しすぎた。

どんなに言い訳を積み上げても、きっと僕も普通に高校生がしたかったんだ。


僕は机に向かって何もせず、夕飯に呼ばれるまで、イメージトレーニングを繰り返した。


…。

……。


夕飯の食卓には、カレーとサラダが並んでいた。

昼ごはんとカブってしまい、思わず嫌な顔をしてしまったが、母に見られずにすんだ。


母と父が並んで座り、その向かいに僕が座る。

僕の右側にあるテレビが適当な番組を流し始めた。


全員小声で「いただきます」と言い、後はテレビを見ながらもくもくと食べる。

これが我が家の食事風景である。


いつ切り出す?

食べながらでもできる話だが、僕らにとっては重要になるかもしれない話だから、食べ終わってからの方がいいか?


などとテレビを見ながら悩む。


テレビはニュースをやっていて、政治や事件の報道が続き、よくわからない上に面白くない。


うちのカレーは具材が大きく多めだな。

喫茶店のやつとは大違いだ。

たしかにおいしかったけど、ほとんどルーがかかっているだけと言える内容だった。


テレビに注目することをやめた僕は、カレーを味わう。


そして、あることに気が付いた。


あれ?

っていうかうちのカレーって、こんなだったっけ?


もぐもぐとカレーを噛みながら、自分のカレーを見つめる。

人参・じゃがいも・肉などが、カレーのかかったごはんの上に転がっている。

まるでカレーのパッケージの写真のようだ。


でもこれは、僕が食べてきたカレーではない。

僕の食べてきたカレーは、具材が細かく切られていた。


それは、僕が母親とよく衝突していた時期に、喧嘩の弾みで言った母の料理への不満が改善されたモノ。


今まで何にも気が付かなかったけれど。

料理なんて、ほとんどしたことないけど。

野菜を切るのって、面倒くさいことなんじゃないか?

それを、ただ暴言のように言った事を、母はちゃんとやっていてくれていたのか?


ひょっとして、僕すら忘れている事も…。


胸が苦しくなり、目頭が熱くなってきた。


僕は、今まで、なにを…。


おでこを掻くふりをして目を擦り、カレーを頬張る。


やっぱり違うカレーだった。


でも、"この世界の僕"の要望が叶えられたカレーなのかもしれないと思うと、ありがたく感じた。


感情が溢れそうになっている自分を抑えるため、どんどんカレーを口へ運ぶ。


ついには食べ終わり、空になった皿にスプーンを置く。


カチャンという音が食卓に響く。


「珍しいわね。いつもなら、よく噛んで食べているのに」


いつもより早食いだったらしく、違和感を感じた母が話しかけてきた。


僕は黙って母を見た。


「どうしたのその目?」


おそらく、涙こそ流さなかったけれど、目が充血していたのだろう。


何を話すかなんて決まっていなかった。

でも、今この瞬間しかないと思った。


「お母さん、…とお父さん。ちょっと話があるんだけど、聞いてほしいんだ」


うまくしゃべれなかったが、第一声を発することができた。

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