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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
13/133

第2話:強者たる僕06

少し時間が経ち、屋良さん達の足音も話し声も聞こえなくなった。

が、それでもなぜか女子二人はまだ僕の方を向かない。


「………」


これって、僕から話しかける必要があるの?

ついさっきまでは期待で胸が躍っていた節もあるが、今は戸惑いで心臓がパニックを起こしている。


ひょっとして、これって。

隠れてイビられるやつだった?


そうかもしれない。

世界が変わって、ちやほやされて、すっかり忘れていたが僕はそういう人間だった。

きっと、僕が部活に来たことで、この二人を不快にさせたのかもしれない。


僕とクラスも部活も同じなんて耐えられない…とか。


のぼせ上がった気持ちが急降下して一人青ざめている僕に、ようやく二人が向かい合った。


「ごめんね。引き止めちゃって」


関泉さんはそう謝った。

部活中の時と違い、少し親しげな雰囲気になっている気がする。


「いや、僕は大丈夫だけど」


そう言って、チラリと花尾間さんの方を見てみる。

まだ俯いているが、目線は僕の方を向いていて、上目使いのようになっている。


「あー…、その、僕に用があるというのはー?」


再び訪れそうになった沈黙が怖くなり、僕から話しを切り出した。


「用ってほどではないんだけど」


関泉さんが花尾間さんの様子を伺う。

そして、「やっぱりだめか?」と言わんばかりのため息をついた。


「えーと、現内くんが格ゲー部に入るかはまだわからないみたいだけど、私達は同級生だし、蓮子に至ってはクラスメイトなわけだから、友達になっておきたいなと思って、同じ格ゲーマーとして」


関泉さんはかすかに笑って、手を差し出してくれた。


そういうことだったのか。

よかった。というか、うれしい。

箕内さんの時も、栄樹さんの時もそうだったけれど、女子が好意的に話しかけてくれるのが本当にうれしかった。

楽しすぎて、耳が熱くなっているのを感じる。


僕はズボンで軽く手を拭くと、関泉さんの握手に応じた。

うぅ…、ちっちゃい、やわらかい。

気恥ずかしくて、すぐに離してしまったが、心地よい手触りが手の内に残った。


「それで、もうわかっていると思うけど、こっちが」


そう言って、関泉さんは花尾間さんに自己紹介を促す。


「あ、えと、はい、花尾間蓮子です…」


「はい」まではこっちを見てくれていたが、名前まで耐えられなかったのか、つむじが見えるまで俯いてしまった。

長い髪から少し出ている耳が真っ赤になっているのが見えた。


そうか、花尾間さんって、僕と同じ人見知りなのか。

そう気づいたら、なんだか親近感が湧いて、こちらから歩み寄る勇気がちょっとだけ湧いてきた。


「僕は現内巴伊都です。その、よろしくお願いします」


意を決して、今度は僕から手を差し伸べてみる。

正直言うと怖かった。これを拒否されるのが僕の日常だったから。


差し出した手に気が付いた花尾間さんの顔が上がり、視線が合った。

困惑しているようであったが、耳だけでなく顔まで真っ赤になっていた。

その表情に、思わず僕まで照れてしまう。

ちょっと潤んでいたかもしれない瞳に、キュンとなる思いがした。

言葉なんてできないが、女子をこうやって、かわいいと思ったのは初めてだった。


花尾間さんはわざわざハンカチを取り出して手を拭く。

そして、ゆっくりと僕と手を合わせた。


あー!

なんか、すっごい…、だめだ言葉にできない!


僕が女子に慣れていないせいか、花尾間さんの緊張が伝わったのか、はてまたその両方か。

心音が他人にも聞こえそうなくらい心臓が高鳴っていて、息苦しさすら感じる。

もしこれが漫画だったら、僕の頭から湯気でも上がっていることだろう。


どちらかともなく手を離し、向かい合ったまま、二人は石像のように動かなくなった。


「もういいかい?お二人さん?」


関泉さんが花尾間さんをつつく。


「えっ!?あ、うん、もう大丈夫」


「そう」


関泉さんが再び少し何かを考えている様子になる。


「じゃあ現内くん、私達も帰るんだけど、電車?」


「いや、僕はバスなんだ」


「そっか、残念」


そこでなぜか関泉さんと課尾間さんがアイコンタクトを取る。

花尾間さんが関泉さんを叱っているように見えなくもなかった。


「そうなると出る門が違うね。下駄箱まではご一緒しましょう」


こうして三人で階段を下りて、靴を履きかえた。

その間、一言も話さなかったが、その沈黙に気付かないほど、僕の中ではさっきのときめきが巡り巡っていた。


「では、今日は金曜日だから、また来週」

「さ、さようなら」


「うん、また来週」


女子二人は並んで、僕とは違う門へ歩いていった。


気持ちがまだ落ち着かない。

急に疲労感が襲ってきた。

でも、悪い気はしなかった。


もしかしたら、もしかしたらだけど。

僕は今、青春と言われるものの、ほんの一端を体験できたのかもしれない。


第2話 -完-

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