第22話:これが僕の04
それぞれのブロックで、一回戦の最後を対戦する人がステージ前の扉に集まった。
この中の誰かが、僕の対戦者となる。
一人一人顔を見てみる。みんな真剣な表情をしていた。
緊張しているが、怖いという感情はなくなっていた。
やるぞ…。やるぞ…。
気持ちが前を向くように、余計なことを考えないように、心の中で何度もつぶやく。
ポケットの中のスマホが震えた。
はっとした。
すぐに本番だというのに、控室に置いてくるか、電源を切っておけばよかった。
こんな所でスマホを取り出す自分が、大会初出場丸出しになっているように思えて少し恥ずかしくなる。
けれど、スマホの画面を見て、そんな気持ちは一瞬でなくなった。
通知は、関泉さんからの画像付きメッセージだった。
映し出された画面には、関泉さん、花尾間さん、屋良さん、箕内さん、栄樹さん、なぜか亀里の部長と河船さんもいる。
みんなのすぐ後ろに壁があるあたり、ギリギリで観戦できたといったところだろうか。
カメラ越しに、僕を見ながら笑顔を向けてくれている。
自然と笑みがこぼれた。
僕はその画像を表示したまま、スマホの電源を切る。
おそらく普通は、応援メッセージであっても対戦直前には送らない。
にもかかわらず送ってくれたのは、僕の事を考えてのことに違いない。
僕のことだからガチガチになっている。だから、このくらいの緩さがちょうどいい。
そんなところだろう。
人が僕に対して何を考えているか?想像したことは何度もある。
でもそれは、いつだってネガティブなものだった。
ちゃんと受け答えできたか?今僕を見て馬鹿にしたんじゃないか?とか。
信頼できる人達がいる。信頼してくれる人達がいる。
これが僕の…今の僕だ。
ステージで行われていた対戦がすべて終わり、ついに僕はステージに立った。
開会式と違い、ステージはいい感じに明るくなっていて、ブロック数分の筐体が並んでいる。
僕が対戦するのは、一番奥。
僕の前を、深緑のパーカーを着た人が歩いている。この人が一回戦の対戦相手だ。
筐体の前まで来ると、お互い目があった。
表情を一切変えることなく、軽くお辞儀をすると、どちらが1P側に座るかジャンケンで決める。
僕はどちらでもよかったのだが、ジャンケンに勝ったので1P側に座った。
司会者からの開始の合図を待つ。
観客席の奥の方を見てみる。
まったく見えなかったが、あそこら辺のどこかに部活のみんながいる。
きっとチームの人達もネットで僕の対戦を見ている。
「さぁ、これで一回戦が終わります」
全員の着席を確認して、司会者が話し始める。
「それでは!始めてください!」
一斉にスタートボタンが押される。
キャラクターセレクト画面が表示され、僕は迷わずシハラにカーソルを合わせる。
相手はしばらくカーソルを適当に動かしている。
僕はボタンを押さずに、相手のカーソルが止まるのを待った。
対戦動画とかでたまに見かけるけれど、この行為になんの意味があるのだろうか?
僕はそんなことを考えながら眺めていた。
はっきりと自覚がある。
もう手元と画面しか見えていない。
まだ多少緊張しているが、初めて来たゲーセンで乱入する時程度だった。
僕は今、いい状態にある。
相手のカーソルが止まった。
キャラクターは「トンフー」。「クラマ」という狼を連れている。
クラマもスティックとボタンを使って操作する必要があるため、非常に扱うのが難しい。
その代わり、クラマと連携した固めと起き攻めが非常に強力で、ワンチャンスからの起き攻めループでどこからでも勝ちが拾える。
ただし、トンフー自体は弱く、クラマを一定時間行動不能にすることもできるので、勝ちへのアプローチはしっかりある。
僕がシハラを選択すると、相手もトンフーを選択した。
画面が切り替わり、ついに対戦が始まる。
トンフーの立ち回りとしては、まずはクラマを前に立たせて相手の行動を制限させること。
そこからトンフーが攻め込み、クラマと連携した攻撃を加えていく。
ちなみに、クラマにはスタミナゲージがあり、連続で使い続けると疲れて一定時間行動不能になってしまう。
相手のガードを崩せなかったら、一旦クラマを休ませるため、相手との距離をとる。
トンフーはバックジャンプでシハラとの距離をとる。
開始位置ではトンフーの攻撃は届かず、クラマも間に合わない。
それがわかっていたので、僕は様子見を兼ねて垂直ジャンプをして、相手が下がるのを確認してからすぐに空中ダッシュで攻め込む。
トンフーはあまり強くないが対空技を持っているので、それが届かない距離で攻撃をガードさせる。
ここまではよくある展開。
シハラが若干有利な状況だが、相手も慣れているはず。
さぁ、どうしようか?




