第22話:これが僕の01
ライジング当日。
僕は会場の最寄駅で電車を降りた。
まわりはほとんど畑で、ぽつぽつと家があるだけ。その真ん中にどんと大きな建物が一つ。
建てられてから年月が経っているのか、遠くからでも少し古くなっているのがわかる。
その佇まいから、コロシアムを連想させる。
ここまでふわふわした気持ちでいたが、さすがに大会の現実味が帯びてきて緊張してきた。
一般入場までまだ時間があるが、まばらに人が歩いている。
みんな出場者なのだろうか?と思っていたら、入口付近にはすでに列が出来ていた。
一流が集う大会ではないが、未来のスターを見ようと格ゲーファンが集まっているのかもしれない。
…えっ?
僕、そんなところで対戦するの?
緊張を通り越して急に怖くなってきた。
ゲーセンでも人に見られているが訳が違う。
きっとこの人達は、出場者は全員漏れなく実力者だと思っている。
だ、だけど…僕は…。
「おいっ!まさかびびっているのか」
突然後ろから大きな声をかけられて、体がビクつく。
反射的に振り返ってみると、栄樹さんのお兄さんだった。
「お、おはようございます…」
「お、おう」
マジかこいつ?という顔しているのがわかった。
それだけ僕が驚いた顔をしていたのかもしれない。
「まぁ、しょうがねえか。いくぞ」
そう言って、お兄さんは僕の肩に腕を回すと連行するように僕を引きずった。
「歩けますって」
「本当かよ?」
お兄さんは結局最後まで離してくれなかった。
集合場所まで来ると、すでにベテラン勢4人が着いていた。
西蔵さんはレギュラーではないが補欠として加わっている。
「ついにこの日が来ましたね」
「さすがに緊張する」
「あれ?今日は二人とも仲がいいな」
「関係者入口はあっちだってさ」
雑談でお互いのコンディションを確認し合い、僕らは会場へと入っていった。
入口でスタッフに入場証を渡し、メンバー確認をして中へ通される。
一般では通れない道というだけあって、飾り気はなく、ところどころに物が置かれている。
スタッフらしき色んな人が行き交い、まさに本番直前といった様子。
出場者と書かれた扉を開けると、中は大部屋になっていて、テーブルと椅子が並んでいる。
いくつかのチームがすでに入っていて、静かな話声が聞こえてくる。
ピリッと重い空気が立ち込めていた。
誰もこちらも見てこない。
全員、来たる勝負の時に備えている。
僕は目を回すような思いだった。
なんで僕ここにいるの?と本気で考えてしまう程の場違い感。
「俺らはあそこにするか」
お兄さんは空いている真ん中の方を指さした。
他にも端っこの方が空いているのに、初出場で全員の目にとまる位置を選ぶとはさすがです。
ベテラン勢もさすがに「えっ?」と言いたげな反応をしたが、何も言わずに指定の席についた。
荷物をテーブルに置き、それを囲むように椅子に座る。
「ちょっと早く着すぎたな」
「これくらい余裕があった方がいいよ」
北森さんが緊張を隠さずに言う。
「そうそう、対戦相手を少しでも知れた方が、緊張を緩和できるってもの」
そう言いながら、南宝さんはあたりを見渡す。
僕もつられて周りを見てみる。
やはりというべきか、少なくともここにいるのは全員大人だ。
みんな動きやすいラフな格好をしているが、顔つきが学生とは違う気がする。
ここにいる全員が、プロとして格ゲーをやっていく覚悟なのだろうか?
そう考えると、真剣な表情はむしろ当然。
大会は数あれど、名前を売れるモノはそう多くないはず。
ここで活躍できなければ、次があるかわからない。
きっと全員が、今日ここでプロになるつもりだ。
「現内くん、顔にでているよ」
西蔵さんが笑いながら僕の肩を叩いた。
「もしかしたら最年少かもしれないですからね。緊張しますよ」
「東錠さん、たぶんそこまで気が回っていないと思いますよ現内くん」
「じゃあ一回戦負けでもしょうがないな」
お兄さんが意地悪そうに笑った。
「はは、それくらい気軽にやれた方がいいかもね」
僕と同じように緊張していたはずなのに、僕以外は徐々に普段の雰囲気を取り戻していく。
僕はみんなの話を聞き、合わせて笑ったりするが、内容は入ってきていなかった。
時折、僕に気を使って話しかけてくれるが、一言返すのが精いっぱいだった…気がする。
緊張のあまりトイレに頻繁に行く。なんて描写をたまに見るが、実際は席を立つ気にもならない。
心臓が強く胸を打つの感じ、手を震わせ、やたら喉が渇く。
あれ?今何時だろう?
ふとそう思った時、二人のスタップが入って来て、こう言った。
「これから開会式を始めます。みなさん会場までお願いします!」
つ、ついに来た。
ツーンと全身に軽い痺れを感じた。
みんなに合わせて席を立つと、いつの間にかこの大部屋が人で埋まっている。
ここにいる全員が、今日僕が対戦するかもしれない人。
「おっしゃ、いくぞー!」
小さな声だったが、やる気に満ちた顔でお兄さんは前で出た。




