第21話:ライジング前日02
「もしもし」
普段顔を合わせているのに、電話だと少し緊張するのはなぜだろう?
「…もしもし」
関泉さんの声が聞こえてくる。
暗い…というよりは小さい?なんだか遠慮がちな感じが伝わってくる。
「ど、どうしたの?」
これで合っている?
僕は普段通りの態度で応対できている?
「チーム活動って、もう終わった?」
「うん、ちょうど終わったところ」
「そっか」
「うん」
「………」
「………」
なんか頭が真っ白になる。
いつの間にか歩くのをやめていて、関泉さんとの通話に集中していた。
僕はかっこつけているのか?それとも照れているのか?
意識し過ぎているのはわかっているが、どうにもならない。
「これから用事ってある?…練習とか?」
「いや、ないよ。どうしようか考えていたところ」
「………」
ちょっとだけ関泉さんの返答を待つ。
「じゃ…じゃあ、よかったら、これからお昼でもどう?」
「お昼?」
一瞬何を提案されたのか理解できずに、間の抜けた声を出してしまった。
が、徐々に思考が追いついてくる。
お昼とはお昼ごはんのこと。今は正午過ぎ、ランチタイムまっただ中。
だから、一緒に食べないかと。わざわざ電話で誘ってくれている。僕を。
「ど、どうかな?」
「う、うん…うん、いいよ。行かせてください」
可能な限り喜びを表現しようとした結果、うさんくさい感じになってしまった。
なんか無理している風にとられなかっただろうか?そこが心配になってくる。
「よかった」
そのやさしい一言に、僕はドキリとする。
向こうも僕との電話に緊張していた?
僕が誘いに乗ったから安心した?
こういう発想は僕の希望的観測であり、妄想で終わる。それが僕の人生だった。
しかし、関泉さんは違う。
彼女は、本当に僕のことで喜んでいてくれている。
そうわかると、僕は真っ直ぐ立っていられなかった。
よろよろと壁にもたれかかる。
自分は今どんな顔をしているんだ?
恥ずかしくて、手で口元を覆う。
苦しい。胸を締め付けられているような感覚がある。
僕は、本当の意味で今、女子にときめいている。
ゲーセンで何十戦も対戦した後のように顔が熱い。
僕は、たった一言「好き」だと言われただけで、簡単に陥落されてしまう男だったのか?
…いや、"たった一言"じゃない。
関泉さんは、僕みたいなヘタレじゃ一生できないことをやってのけたんだ。
そのヘタレを想って言ってくれたんだ。
だから、これは関泉さんの魅力。
僕は、関泉さんに魅了されつつあるんだ。
「ゲーセンってミツルギだよね?近くにいるから、待っていてくれない?」
関泉さんが待ち合わせの提案をしてくれる。
「えっ、あっ、悪いよ。僕が行くよ」
「いいよいいよ。こっちは蓮子と一緒にいるし、ゲーセンにいて」
「…わかった」
「…うん、じゃあ、また後で」
ちょっとだけ余韻を残し、電話が切れた。
近くにいるって言っていた。心の準備に、どのくらい猶予がある?
さり気なく花尾間さんもいるという事を言っていた。
それが僕の心境を複雑にする。
正直、関泉さんと二人っきりになるのは照れ過ぎて恐いくらいの思いだった。
だから、花尾間さんがいるとわかって、ほっと安心した一面がある。
でも、もし関泉さんと二人っきりになったら何があるのか?何を言ってくれるのか?その期待と興味が僕の中で膨らんでいく。
あくまでも受け身なのが情けないところだが、立ち眩むような淡い思いが僕を支配していた。
「………」
ゲーセンで待つ…。ゲーセン…。そうだ、僕は明日ライジングに出場するんじゃないか。
こ・こんなことをしていてもいいのか…?
必死に考えているのに、考えなければいけないことが増える一方で、何も解決しない。
「…はは」
混乱も過ぎれば、自分のことを客観的に見れるようになってくる。
ホント、無様だな。他の高校生はもっとスマートに生きている。
それでもだ。
僕は、これから女子とランチを食べて、明日は大勢が注目している大会に出場する。
これって、すごいことなんじゃないの?
そんな高校生、どれだけいるよ?
僕はゆっくりとゲーセンへ向かって歩き出す。
僕は格ゲーに妥協しない。
あの二人なら、絶対に僕の事をちゃんと考えた上で誘ってくれている。
だから大丈夫。
ゲーセンは次のチームが貸し切っていたからプレイはできなかったけれど、僕はそれを眺めながら二人を待った。




