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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
111/133

第21話:ライジング前日01

チーム:ターコイズのレギュラーメンバーが決まってから数日が経った。

僕は、夏休み前の試験勉強をそこそこに、ライジングへ向けた最後の追い込みをかけていた。


いざ大会に出るとなると、同じゲームをやっているはずなのに疑問がどんどん溢れてくる。


この技は何に勝てて、何に負けるのか?

この技は何フレームまでデュレイをかけられるのか?

この技は見てから直前ガードは可能なのか?


今までは、一つの状況に出会って、一つの事を覚える。

でも今は、一つの状況に出会ったら、いくつも知りたい事が増えていく。


なぜこれまで放置していたのか、それすらも疑問に思うほどだ。

僕のやっていたことなんて、まだまだ大したことはなかったんだ。

やり込みの世界、プロの世界はきっと天井知らずなのかもしれない。


正直、足りないモノばかりが乱立し、自信喪失と共に不安が積もった。

けれどそれは、僕にはまだ先があることを示している。

時折弱音を吐いては、チームや部活のみんなにそう励ましてもらった。


そして、ライジング前日、土曜日。

特別に筺体を午前中貸し切らせてもらい、チームで最後の練習を行う。


内容はいつも通りだけれど、大会が意識されていて、みんなの対戦に緊張感がある。

そしてそんな中、栄樹さんのお兄さんと、ベテラン勢がきっちり仕上げてきている。

ミスらしいミスもなく、キャラの動きにキレがある。

大会にしっかりピークをもってくるあたり、キャリアの差を感じる。


僕もちゃんとプレイできているが、何か足りない。

自分に自信がないのはいつものことだが、さすがに大会には持ち込みたくないものだ。


ついに練習が終わり、お兄さんからみんなへ、大会への意気込みが語られる。


「ついに明日、俺たちはライジングへ出場する。

メンバーになれなかったやつも集中力を上げてきていて、レギュラーの俺たちにいい刺激になった。

今の俺たちは過去最強、めざすは優勝だ!」


初の大きな大会だというのに、お兄さんの自信に満ちた宣言がみんなを鼓舞する。

僕もなんだか、うまくいく気がしてきた。

変な所があるが、やっぱりお兄さんはすごい。


「今日はこれで解散。各自で最後の仕上げを行うように。

あと、明日は遅刻厳禁だ。各自で連絡を取り合って、寝坊とかないようにしろよ」


「現内さんは、私が起こしてあげますからねー」


隣にいた栄樹さんが、ふふふと笑う。


「それなら安心して眠れそうだよ」


「でしょー。でも、現内さんの場合、まず眠れるか心配じゃないですか?」


「うっ、たしかに…」


習い事も部活もやってなく、高校受験を推薦で終わらせた僕は、もしかしたら本番というものが初めてなんじゃないだろうか?

交流戦や、レギュラー決めの総当たり戦をこなしてきたけれど、きっと比じゃないかも。


「そんなに不安そうな顔しないでくださいよー。現内さんなら、レバーを握れれば大丈夫ですよ」


励ましてくれているのだろうけれど、ちょっと気になる言い方だった。


「…ちなみに」


「うん?」


「今日はこれからどうするんですか?」


「これから?あー、どうしようかな」


休日にやる事といったら格ゲーしかない僕なのだが、なんとなく他にできることがないか考えてみる。


「なさそうですね」


「あはは、そうみたいだね」


結局なにもでてこなかった。

色んな人の話を聞いてみた結果、大会前だからといって特別何かをしている人は少なかった。

僕もそれに倣おうかなと考える。


「なら、これから私と…」


栄樹さんが少し腰を屈めて上目づかいになり何かを言おうとすると、少し離れた所からお兄さんの呼ぶ声が聞こえた。


「おい!帰るぞ瑠歩」


「………」


栄樹さんは出鼻をくじかれ、その姿勢のまま固まっている。


「逃げようってもそうはいかないからな!」


お兄さんの追い討ちに、栄樹さんはがっくりとうな垂れた。


「何かこれから用事でも?」


「…はい」


僕の質問に、拗ねた子供のように答える栄樹さん。


「これから母親と会うんです。数年ぶりに」


「数年…ぶり?」


栄樹さんの家族は複雑だと聞いていたが、お母さんがずっといなかったのは初めて知った。


「お兄ちゃんが、どうしてもライジング前に一区切りつけたいんだって。

といっても、そこまでは鈴木さんに聞いていないんでしたっけ?」


栄樹さんがちょっとだけ困ったように笑った。

さっきまでは子供のようだったのに、その一瞬だけは大人びて見えて、僕はドキリとした。


「嫌…だったの?」


「私としては今更どうでもいいというか、行かないで済むならそれでよかったというか。

でも…うーんと、その、ごめんなさい。行ってきます。

うまくまとまったら、聞いてくださいよ。現内さんの驕りで」


「千円までかな」


「約束ですよ」


最後にニッと笑って、栄樹さんはパタパタと行ってしまった。


僕も遅れてゲーセンを出る。

駅に向かい歩いていると、スマホに着信があった。


相手は、いつぞやでれなかった関泉さんからだ。

僕は今度こそと思いながら、電話に出る。

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