第20話:約束は力となる06
「どうしてですか?」
河船さんは疑念の目で僕を見る。
僕は何も言えず、目を逸らすこともできず、ただただその視線を受け続けた。
「あらー…、そんなに因縁があったとは」
思っていた以上の反応に、屋良さんも少し動揺している。
「河船ほどではないが、俺としても意外だ」
亀里の部長は屋良さんを見てそう言う。言葉にはしていないが、事情を話してくれてもいいのではないか?といった感じだった。
交流がある関係だが、大会で対戦するかもしれない相手にレギュラーメンバーを漏らすことは普通しない。
しかし、僕が出場しないことが明るみに出てしまった以上、理由だけ伏せる意味はほぼ無い。
箕内さんは、うっかり反応してしまった事に責任を感じて、申し訳なさそうにしている。
場違いではあるが、箕内さんって結構うっかり屋だなと僕は思った。
屋良さんが僕に視線を送る。
理由は自分で言ってくれ。そういう目だった。
この雰囲気で、自分の話をしなければならない。
お、重い。こんなことになるなら、ライジングのことをヘタに隠そうとしなければよかったかもしれない。そうすれば、屋良さんの口から説明されたかもしれない。
そう思ったが後の祭り。なにより、自分のことを自分で話せなくてどうする?
「じ、実は…」
視線はテーブルの真ん中に向けていたが、全員が僕の方を向いたのがわかった。
「僕が、自分から辞退したんです」
一言そう言って反応があるか確認する。
聞こえるのは店内の話声だけで、みんなは僕の続きを待っていた。
「自分は、チームにも最近所属していまして、えっと、ライジング…という大会に出場できることになりました」
「えぇ!?」
亀里の方から驚きの声が上がる。
「だいぶ強いなと思っていたが、そんなことまでしていたのか」
「現内くんの名誉のために言っておくと、交流戦の時点ではまだ入っていなかったけどね」
屋良さんがフォローしてくれる。
「………」
ふとまわりの様子を伺うと、目を丸くしている河船さんが視界に入った。
あれはどういう感情なのだろうか?
驚いてはいるのだろうけど、ショックを受けているような…怒っているような…。
「そ…」
ようやく僕の声が届いたかのように、河船さんははっとした後、こう言った。
「それとなんの関係があるんですか?両方出ればいい」
冷静な声だったが、意識して抑えているのがわかる。
「屋良がわざわざチームに入ったのが交流戦前だって言った意味がわからなかったのか?」
興奮気味の河船さんを、亀里の部長がなだめる。
「プロを目指している者、チームで活動している者は、それ以外の活動に参加しないのが暗黙の了解だ。もちろんダメだなんて決まりは一切無いが、それがプロとそれ以外、双方のためだと俺は思っている」
強い者が上。それが対戦ゲームの絶対だ。
でもそれだけでは弱い者が遊べない。それではつまらない。だから、住み分けというものが必要なんだ。
上の者はわざわざ下に行かない。上に行くものはそれ相応の覚悟をする。
それが、勝負と遊びを両立させる。
河船さんがそれを知らないわけがない。
亀里の部長に諭され、冷静さを取り戻していく。
それでも、僕と大会で当たれないことに納得いっていないようだった。
そんなに僕との対戦に備えていたのかと思うと、やるせない。
知らなかったとはいえ、僕は河船さんを裏切ってしまったのだろう。
交流戦の時も、オフ会の時もそうだ。
僕はなにかと、河船さんの障害になってしまっている。
「わかりました。現内くんの不参加は納得します」
僕の思いをよそに、河船さんがしっかりした物言いで頷いた。
「だけど、現内くん。一つ約束をしてください」
急に発現した迫力に、僕は返事をすることもできなかった。
思わず手を膝の上に置き、かしこまってしまう。
「夏の大会個人戦。もし私が優勝したら、私と対戦して白黒つけさせてください」
「おぉ…」と屋良さんの小さな声が聞こえる。
僕は、河船さんよりも自分が上に置かれた立場を扱い切れず、困惑するばかりだった。
「これまた…なんていうか、熱いねぇ」
箕内さんも呆気にとられている。
河船さんも自分が何を言っているのかわかっているようで、顔が赤くなっている。
けれど、これは引けないのか、まっすぐに僕の返事を待っている。
これに応えなければいけない。
僕の中の小さな小さな漢がそう感じた。
「わかりました」
シンプルに僕はそう答える。
「河船さん、これは俺が預かってあげる。かならず実現させよう」
屋良さんが胸を叩いてそう言った。
「おい!それじゃうちの個人戦はどうなるんだよ!」
渡辺さんの的確なつっこみに、緊張していた雰囲気が徐々に和らいで笑いになった。
僕もそれにつられて笑った。
結局、何もわからないままこの対談は終わった。
でも、最後に交わした河船さんとの約束が、僕の胸に熱く残っている。
僕との対戦を、河船さんは優勝決定戦と考えていてくれている。
それにふさわしいプレイヤーでいたい。
負けられない理由が、僕の中に一つ増えた。
第20話 -完-




