第20話:約束は力となる03
10秒くらい待つと、屋良さんが話し始めた。
「もしもし、ひさしぶりー、今大丈夫?」
なにやら親しげに亀里?の誰かと話している。
「うん…うん…、そう、それに関係ある話。
練習するのは当然として、でもさ、メンタル面って結構適当になってない?
………。
だろ?だからさ、これからお互いの部活から数人集めて、情報交換しない?
………。
そういうなって、俺ら高校生だぜ?二時間くらいどうにでもなるだろ?」
えっ?亀里の人達と集まる?しかも今日?
思い付くことが大きい上に、行動に移すのが早い。
事の出発点が僕なだけに、徐々に恐くなってくる。こんなこと、迷惑にならないのだろうか?
なんて思っても、僕はもう止めることもできず、ただ事の成り行きを見守った。
「………。
よし、じゃあ決まりだな。あっそうそう、そっちは絶対に河船さんを連れてきてね。
…こういうのには来ない?
んー、じゃあ箕内が誘っているって言って」
…なんてことをさわやかに言うんだこの人は。
人の弱点をつくことに躊躇が無い。
悪い話ではないからかもしれないけど、いいものなのか?
僕は人付き合いについて考えさせられた。
「行くって?よかった。こっちとしては主役だからね。
じゃあ〇○駅のファミレスにいるから、最速で来てよ。
………。
まぁまぁ、たまには他の部員に任せなよ。どうせ部長の全部お前がやってきたんだろ?
それじゃ引退した時に二年生が苦労しちゃうよ?
………。
そうこなくっちゃ。じゃあまた後で」
屋良さんが耳からスマホを離す。
「聞いてた?じゃあ、こっちはこの四人で行こうか」
「やった。面白そうじゃん」
「マジか、まぁいいけどさ」
「えっ?もう行くんですか?」
うぅ、これがネットで陽キャと言われている人種なのか?
生きている時間の流れが早すぎる。
この部活に馴染むだけでも大変だったのに、まだ上があった事を知って軽くショックを受けた。
充実した学生生活とは天井知らず。だいぶマシになったと思っていただけに、めまいがしてくる。
目を回していると、背中をつつかれた。
振り返ると、関泉さんと花尾間さんが並んでいる。
「帰らないの?」
雰囲気を察してか、関泉さんは静かにそう聞いてきた。
「う、うん。これから亀里の人達と会うことになった…」
なんか、仲間外れにしたような気分になる。
「………」
僕の気のせいかもしれないけれど、関泉さんが少しさみしそうにした気がした。
…ぐっ、胸がなぜか締め付けられる。
「それって、私達も行ける?」
「えっ?」
なんと、関泉さん達も参加を表明してきた。
「すみませーん、それ私も乗っていいですかー?」
さらに、どこから聞いていたのかわからないが、栄樹さんも名乗りを上げる。
これで一気に三人も増える。
合計で七人。もし向こうも同じ人数だったら14人。この時間帯のファミレスに入るだろうか?
何とも言えず、僕は隣で聞いていたであろう箕内さんの方を見た。
箕内さんは僕と目が合うと、ふっと逸らして考える。
「んー…、ちょっとなー多いかな。
まず言いだしっぺの現内くん、部長の屋良、志弥ちゃん用に私。削れても渡辺だけど…」
「おい、俺は行くぞ」
「あれ?そんなに乗り気じゃなかったと思うけど?」
「…っ、ここまで来て途中で降りられるか」
と悩み始めると、自然とみんなの視線が屋良さんに集まる。
「いやー、積極的に参加しようとしてくれるのはうれしいけど、さすがにこの人数はきびしいかな?
だから申し訳ないけど、今日は最初の四人だけ。
好評だったら、またやるから。その時は事前に連絡するよ」
屋良さんは両手を合わせて、三人に謝りながらそう告げた。
もうすぐ引退する屋良さんがまたやると言っている。
だから今回は諦めてくれと頼んでいる。
そう言われてしまっては、食い下がりにくく、三人は諦めたようだった。
「ちぇ、こういうことをするなら、今度からちゃんと私の事も考えてくださいね現内さん」
栄樹さんがふくれっ面で言った。
「…わかったよ」
こういうことがそう何度もあるかわからないが、とりあえず心にとめておく。
「しょうがないね涼奈」
花尾間さんが関泉さんを気遣う。
当の本人からはリアクションが無いが、花尾間さんの様子から残念感が漂ってくる。
「…現内くん」
「は、はい」
「あんまりはしゃいじゃだめ…よ…」
そう言い切る前に、関泉さんは目を伏せてしまった。
関泉さんの言っていることが、さすがの僕もその様子から伺えてしまった。
要するに、"他の女子にうつつを抜かすな"と言っている。こっちは告白までしているんだぞと。
関泉さんらしくないセリフと、それに耐えきれなかった仕草が、僕の感情をかき乱す。
関泉さんは待っていてと言っていたけれど、果たして本当にそれでいいのだろうか?
「ん?なんです?これ?」
栄樹さんが何かを感じ取り、割って入ってきた。
「しかたない。行こう、蓮子」
それをあえて無視するように、関泉さんは花尾間さんを連れて歩いて行ってしまった。
置いて行かれた栄樹さんは、何も言わない関泉さんを目で追い、次に何も言わず僕を見つめる。
「次は絶対ですからね!」
栄樹さんはそう言い残して、たぶん関泉さん達を追いかけて行った。
「おうおうおう…」
箕内さんの楽しそうな小声が聞こえてくる。
見てはいけない。そう思った僕は、箕内さんのいない方から振り返った。
「あはは、楽しそうだね現内くん。さすが!」
「ちっ」
これからこの四人で行くのだが、亀里の人達が来る前に僕は潰れてしまうかもしれない。




