第20話:約束は力となる01
「大会のためにやっている事がないかって?」
僕は部活が終わるや否や、屋良さんに質問をした。
「そりゃ、練習でしょ」
屋良さんは、何かのひっかけか?と疑った目で答える。
「それはそうなんですけど、大会ってその…緊張したりして、いつも通りできないことってあると思うんです。だから、気持ちを落ち着けるために毎日やっているルーティーンとかジンクスがあったら、ぜひ参考にしたいと思いまして」
「うーん…」
腕を組んで、しばらく考える屋良さん。
こういうのって人それぞれだろうから、もしかしたら、人にはあまり言えない事なのかもしれないと僕は思った。
「いや、ごめん。俺はないわ」
「…えっ?」
「何て言ったらいいのかなー…、もちろん勝ちにはいっているんだけど、感覚的には人前で何かをしているってのが楽しいんだよね。規模は小さくてもさ、その瞬間だけは俺が中心にいるわけじゃん?それだけで気持ちよくない?」
こう思ってはなんだが、肩透かしをくらった気分だった。
あぁ、もうなんていうか、物事のとらえ方が根本的に違う。
屋良さんはたいていの事が肯定的なんだ。良く考えれば察しがつきそうなものだった。
よっぽどのことでもない限り、この人は物怖じなんてしないし、よっぽどの失敗でもない限り、この人は挫折しない。
この人は良い意味で僕とは真逆の人間。尊敬はするが参考にはできなかった。
という感情が顔に出てしまったのか、屋良さんは少し困ったようにあたりを見渡す。
「あっ、渡辺。ちょっと話を聞いてくれ」
別の部員と話をしていた渡辺さんが、屋良さんに呼ばれてやってくる。
「なんだよ?」
「お前って、大会とか緊張する?」
「はっ?」
「ほら、夏の大会も近いじゃん?」
「あー、どうだろ。人並みには緊張すると思うけど…」
そう言いながら、僕を鋭い目つきで見てくる。
「この話と現内になんの関係があるんだ?」
僕に弱い所を見せたくなかったのか、渡辺さんは話をそらした。
「は、はい。実は…」
僕は、チームのレギュラーとしてライジングに参加することをこっそり伝えた。
実は寝て起きても実感がわかなくて、関泉さん達にも話せていない。
「お…お前が…?」
渡辺さんは完全に疑っていた。
屋良さんは信じてくれたようで、キラキラと目を輝かせている。
仲はいいようだが、この二人も大概真逆だ。
「それで、大会っていうのが初めてな上に、チームっていうプレッシャーもあると言いますか」
思っていたよりも素直に話せた自分がちょっと意外だった。
いつの間にか、屋良さんはもちろん、渡辺さんにも心を開いている自分がいる。
「端的に言えば、漠然とした不安か」
さらっと屋良さんはそう言った。
それを聞いた渡辺さんが、少しあきれた顔をしている。
きっと僕と同じ気持ちになったに違いない。
「そういうことかもしれません」
否定はできないので、僕はそう答えた。
「んで、渡辺はそういうのってないの?」
「俺に?」
「うん、俺って結構適当だからさ。そんなに重く考えるなよ。としか言えなくて」
「…はぁ、よくわかっているじゃないか」
ため息混じりの渡辺さんの言葉を、僕と屋良さんは待った。
その視線にイラッとしたような感じを見せたが、観念したように渡辺さんは話し始めてくれた。
「誰にも言うなよ」
「おっ、いいね」
「わ、わかりました」
急な真面目な雰囲気に、息を飲む。
「ちょっと汚いが、最後の練習から大会が終わるまで、手を洗わないようにしているんだ…」
………。
「はっ?」
屋良さんがさっぱりわからんと首をすぼめる。
「だからさ、手を洗ったり拭いたりすると、今までの感覚まで落ちてしまう気がして、なんか嫌なんだよ。そのかわり、練習の時のままだからちょっと落ち着くというか」
渡辺さんは自分の手を見つめながら説明してくれた。
「なるほど」
「ってめ、今ばかにしたな?」
「しし、してないです!」
僕は素直に納得できたらそう言ったのに、渡辺さんには伝わらなかった。
今までの感覚がなくなる…か。
屋良さんはともかく、いつも通りにできなくなることを不安に思うのは、僕だけではないことがわかった。
きっと渡辺さんは色々と試してみた結果、今のやり方に辿り着いたのだ。
やっぱり、歳が一年しか違わないのにこんなにも人生経験に差がある。
僕はそれを感じずにはいられなかった。
「ふーん」
屋良さんが、さっきまでと違い真面目な顔をしている。
「なんだよ?」
「いや、みんなちゃんと勝ちにいっているんだなと思ってさ」
部活を強くしたいと言って僕を誘った屋良さんが、変なことを言う。
「お前まさか、勝った分だけ試合できるじゃん?とか考えていたのか?」
「まあね。それに上に言った分いい思い出になるじゃん」
屋良さんの言っていることは合っているし、正しいし、わかりやすい。
ただ、釈然としなかった。




