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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
105/133

第20話:約束は力となる01

「大会のためにやっている事がないかって?」


僕は部活が終わるや否や、屋良さんに質問をした。


「そりゃ、練習でしょ」


屋良さんは、何かのひっかけか?と疑った目で答える。


「それはそうなんですけど、大会ってその…緊張したりして、いつも通りできないことってあると思うんです。だから、気持ちを落ち着けるために毎日やっているルーティーンとかジンクスがあったら、ぜひ参考にしたいと思いまして」


「うーん…」


腕を組んで、しばらく考える屋良さん。

こういうのって人それぞれだろうから、もしかしたら、人にはあまり言えない事なのかもしれないと僕は思った。


「いや、ごめん。俺はないわ」


「…えっ?」


「何て言ったらいいのかなー…、もちろん勝ちにはいっているんだけど、感覚的には人前で何かをしているってのが楽しいんだよね。規模は小さくてもさ、その瞬間だけは俺が中心にいるわけじゃん?それだけで気持ちよくない?」


こう思ってはなんだが、肩透かしをくらった気分だった。

あぁ、もうなんていうか、物事のとらえ方が根本的に違う。

屋良さんはたいていの事が肯定的なんだ。良く考えれば察しがつきそうなものだった。

よっぽどのことでもない限り、この人は物怖じなんてしないし、よっぽどの失敗でもない限り、この人は挫折しない。

この人は良い意味で僕とは真逆の人間。尊敬はするが参考にはできなかった。


という感情が顔に出てしまったのか、屋良さんは少し困ったようにあたりを見渡す。


「あっ、渡辺。ちょっと話を聞いてくれ」


別の部員と話をしていた渡辺さんが、屋良さんに呼ばれてやってくる。


「なんだよ?」


「お前って、大会とか緊張する?」


「はっ?」


「ほら、夏の大会も近いじゃん?」


「あー、どうだろ。人並みには緊張すると思うけど…」


そう言いながら、僕を鋭い目つきで見てくる。


「この話と現内になんの関係があるんだ?」


僕に弱い所を見せたくなかったのか、渡辺さんは話をそらした。


「は、はい。実は…」


僕は、チームのレギュラーとしてライジングに参加することをこっそり伝えた。

実は寝て起きても実感がわかなくて、関泉さん達にも話せていない。


「お…お前が…?」


渡辺さんは完全に疑っていた。

屋良さんは信じてくれたようで、キラキラと目を輝かせている。

仲はいいようだが、この二人も大概真逆だ。


「それで、大会っていうのが初めてな上に、チームっていうプレッシャーもあると言いますか」


思っていたよりも素直に話せた自分がちょっと意外だった。

いつの間にか、屋良さんはもちろん、渡辺さんにも心を開いている自分がいる。


「端的に言えば、漠然とした不安か」


さらっと屋良さんはそう言った。

それを聞いた渡辺さんが、少しあきれた顔をしている。

きっと僕と同じ気持ちになったに違いない。


「そういうことかもしれません」


否定はできないので、僕はそう答えた。


「んで、渡辺はそういうのってないの?」


「俺に?」


「うん、俺って結構適当だからさ。そんなに重く考えるなよ。としか言えなくて」


「…はぁ、よくわかっているじゃないか」


ため息混じりの渡辺さんの言葉を、僕と屋良さんは待った。

その視線にイラッとしたような感じを見せたが、観念したように渡辺さんは話し始めてくれた。


「誰にも言うなよ」


「おっ、いいね」


「わ、わかりました」


急な真面目な雰囲気に、息を飲む。


「ちょっと汚いが、最後の練習から大会が終わるまで、手を洗わないようにしているんだ…」


………。


「はっ?」


屋良さんがさっぱりわからんと首をすぼめる。


「だからさ、手を洗ったり拭いたりすると、今までの感覚まで落ちてしまう気がして、なんか嫌なんだよ。そのかわり、練習の時のままだからちょっと落ち着くというか」


渡辺さんは自分の手を見つめながら説明してくれた。


「なるほど」


「ってめ、今ばかにしたな?」


「しし、してないです!」


僕は素直に納得できたらそう言ったのに、渡辺さんには伝わらなかった。


今までの感覚がなくなる…か。

屋良さんはともかく、いつも通りにできなくなることを不安に思うのは、僕だけではないことがわかった。

きっと渡辺さんは色々と試してみた結果、今のやり方に辿り着いたのだ。


やっぱり、歳が一年しか違わないのにこんなにも人生経験に差がある。

僕はそれを感じずにはいられなかった。


「ふーん」


屋良さんが、さっきまでと違い真面目な顔をしている。


「なんだよ?」


「いや、みんなちゃんと勝ちにいっているんだなと思ってさ」


部活を強くしたいと言って僕を誘った屋良さんが、変なことを言う。


「お前まさか、勝った分だけ試合できるじゃん?とか考えていたのか?」


「まあね。それに上に言った分いい思い出になるじゃん」


屋良さんの言っていることは合っているし、正しいし、わかりやすい。

ただ、釈然としなかった。

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