第19話:熱帯夜04
ついに最終ラウンド。
泣いても笑ってもこれで決まる。
ここへきて、シハラとキワージュの対戦はオーソドックスな展開となった。
逃げるキワージュを追うシハラ。
キワージュが後ろに下がって弾幕をはると、シハラが体力を削られながら進んでくる。
シハラの攻撃が届きそうになると、スキをついてキワージュが逃げる。
シハラがうまく前に立ちはだかっても、キワージュは丁寧に状況に合わせた対処を施す。
キワージュのゲージが貯まれば、あの遅い弾を盾に攻めてくる。
それをシハラがうまく受け流す。
今までのイレギュラーな立ち回りを両者は見せず、緊張感のある攻防が続く。
こうなったのはひとえに、目の前の一勝がただほしかったから。
悔いの残らないプレイにしたいから。
決して消極的になっているわけではない。
勝負所はかならずやってくる。
どちらに先に来るか?もしくは同時に来るか?それはわからない。
だから、それを逃さないために1フレームだって気を緩めない。
そして、ついにキワージュが動いた。
ゲージを使って強化した遅い弾を出した後、ハイジャンプをして上から攻めてきた。
ガードを崩す機会は失う代わりに、相手にジャンプさせないことで遅い弾をガードさせ、確実に攻め入る戦法である。
通常は、技強化をしてもゲージが残っている状態でやる攻めなのだが、西蔵さんはここを勝負所に選んだようだ。
キワージュは快調に立ち回り、ゲージも効率よく回収して攻撃できているが、思うようにシハラの体力を奪えていない。
シハラなら1コンボでひっくり返せてしまう。
タイムアップまで逃げ切れれば理想的だが、たぶん西蔵さんは"事故らない"よりも"倒し切る"ことを選んだんだ。
自他共に認める変則的スタイルに、タイムアップはそぐわないと判断したのだろう。
逃げ場を失ったシハラは、仕方なくガードで対処する。
遅い弾をガードすると、続けて上からキワージュが攻めて来る。
空中攻撃をガードして、すぐにしゃがみガードへ移す。
投げに来る可能性は高い。しかし、ここでダメージ補正がかからない中攻撃以上をくらってしまう方が危ない。
僕は投げられるのを覚悟でしっかりガードを固める。
しゃがみ弱攻撃、立ち弱攻撃と、投げを匂わせる固めが続く。
僕はガード中に投げ以外のキワージュの選択肢に思考を割いていたが、ふと変な間を感じた。
一瞬思考が停止して、まるで落とし穴にでも落とされたような感覚だった。
ただ、僕の指はしっかりと投げボタンを押していた。
はっと我に返ると、シハラがキワージュを掴んで投げている。
なんと、僕は無意識に投げ返していた。
自分でも信じられないくらいに絶妙なタイミングだった。
内心驚いてはいても、投げに続くコンボはミスらず最後まできめる。
起き攻めから、さらにゲージを使った中段攻撃でガードを崩し、あっと言う間に体力が逆転する。
連続でガードを崩せなかったが、下がるキワージュをゲージを使って追いかけ、攻めを継続する。
多少雑になっても構わない。
このチャンスを逃すな。相手にプレッシャーをかけろ。
ここが、僕の勝負所だ!
ゲージを使い果たした。
持てるテクニックをすべて駆使した。
強引な手段にも出た。
一歩間違っていたら負けていた。
一手でも読まれていたら負けていた。
とてもプロを目指している者達の中にいるプレイヤーのプレイではなかった。
だけど…。
「はぁ…はぁ…」
いつから息をするのを忘れていたのだろう?
キャラが操作できなくなり、キワージュが倒れ、シハラが立っているのを確認すると、肺に溜まっていた空気が一気に吐き出された。
「おめでとう!最後のレギュラーは現内くんで決まりだ!」
鈴木さんが大きな声で高らかに僕の勝利を告げると、惜しみない拍手がゲーセンを包んだ。
僕は…勝った…勝てたんだ。
画面に映し出されているのは、間違いなくシハラの勝利画面だ。
筺体の横から、のっそりと西蔵さんが現れた。
笑顔だったが、その中に寂しさが混じっているのを僕はわかった。
「見事な投げ返しだったよ」
そう言って、西蔵さんは手を差し出した。
「あの投げは、最後までキワージュのシューティングにつき合うつもりだったシハラに、気持ちで負けちゃった証拠かな…」
たははと笑う西蔵さんの手を取って、僕も席を立つ。
すると、西蔵さんは握った僕の手を高く上げる。
それに合わせて拍手が一段と大きなった。
この拍手は、僕に向けられたもの。
この掲げた腕は、僕が勝者である証。
僕はこのチームで、ライジングに出場できることになった。
うれしいとか、ありがたいとか、無いわけではないけれど、気持ちが穏やかだった。
もしかしたら、僕は今初めて感じているのかもしれない。
本当の達成感を。




