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003

最初なので連続投稿です。3/3


「どいてッ!」


 目の前に居るソードマンとファイターを、ヒチリは突風を起してまとめて吹き飛ばす。


 十六年前、世界に魔獣が出現し始めるのと同時期から出現しはじめた、超常能力者。

 それは世界の人々から、魔獣による混乱を切り拓いてくれる力だとされ、その能力を誰かが《開拓能力(フロンティア)》と呼び始めると、それを使う能力者を誰かが《切り拓く(フロンティア・)(アクター)》と名付けた。気がつけばそれは定着し、今では一般的な名詞になっている。


 ヒチリもまた、そんな開拓能(フロンティア・)力者(アクター)の一人だ。


「ああッ、もう!」


 だが、その力を持ってしても、この状況を打破する手段が思いつかない。


 散歩桟橋の上へと来てしまったが故に、突風や圧縮した風の刃を使いづらくなってしまったのだ。

 出来る限り公園の景観を壊さないようしようとすると、この桟橋では風を使った大立ち回りが出来ないのである。


「ヒィちゃん!」

「ショウ!」


 呼びかけられ、そちらに視線を向けると、ショウがどこからか持ってきたらしい折れ曲がった道路標識を引きずって、川岸にやってきていた。


 ショウの手にしている道路標識が徐々に植物の蔦へと変化していく。

 彼女もヒチリチと同じ、開拓能(フロンティア)力者(・アクター)だ。


「ヒィちゃん、パぁース」


 完全に植物の蔦となった標識の端を踏みつけて、逆の先端をヒチリに投げる。

 それを握ったことをショウは確認してから、


「靴に風ッ!」


 それだけ告げて、ショウは自分の能力――物質の植物化――を解除した。

 伸びた蔦は、ショウが踏んでいる部分を基点にして、元の標識に戻ろうとする。


 結果、勢いよくヒチリを引っ張る形になる。


「うわぁ、わッ、わわ、わっと……ッ!」


 ある程度、予測していたとはいえ、その引かれる勢いに必死に体勢を整えながら、ヒチリは水面を跳ねていく。

 風を纏っているから沈まずにすんでいるのだが、気分はちょっとした水上スキーか、水切りだ。


「あ、着地したらすぐ手を離した方がいいよー」


 間延びしたショウの言葉に従うように、岸に付いたヒチリは慌てて手を離す。

 すると、ヒチリが握っていた部分は、鉄棒ではなく一方通行の標識の部分に戻った。あのまま握っていれば、怪我をしたかもしれない。


「危ない部分を握らせないで」

「その前に言うコトは?」

「助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。

 ちなみに、そこを握らせたのは拳骨代わりってコトで」

「……もしかして、ショウってば怒ってる?」

「その反応は、なんで拳骨されるのかって分かってないみたいだねぇ」


 こちらの言葉にキョトンとするヒチリに、やれやれとショウは嘆息した。


「イチイチ全部やっつけてたらキリがないから、リーダーやっつけに行こう」

「リーダーがいるんだ」

「ヒィちゃんて、ほんっっっと、何にも考えてないんだねぇ」

「そ、そんなコトはない……つもり、なんだけど……」

 尻すぼみになっていく言葉に、仕方ないなぁ――と、ショウは笑い、ポケットから一口チョコを取り出した。

「栄養補給は?」

「する」


 ヒチリは受け取ったチョコをすぐに口の中に放り込みながら、ショウに訊ねる。


「そういえば、リュウは?」

「この魔獣達に関して、気になるコトがあるからって、別働中」

「じゃあ、三人揃っての仕事だね」


 ショウがその言葉にうなずくと、ヒチリはさっきまで囲まれて焦燥に駆られてたとは思えないほど自信に満ちた笑顔を浮かべた。

 三人揃っている。ヒチリにとって、それほど心強いことはない。


「ヒィちゃん。さっきまでのは自業自得だからね」

「わ、わかってる」


 ついつい独断専行してしまうのだが、それでもヒチリはこの三人で一緒に動くのが一番好きなのである。


「ま、それはともかく――行くよ、ヒィちゃんッ!」

「うん! 案内よろしくッ!」


 うなずき合うと、二人は同時に地面を蹴った。

 こちらの意図に気が付いたのか、何体かのスピリットがこちらの道を阻もうとしてくる。


 だが――


 こちらが向かっている先は、散歩桟橋の上ではないし、花壇なども周囲に無い草むらである。


 ならば、


「ショウ。私の後ろへッ!」


 刃を構え、意識を集中する。

 距離はまだある。後ろ追いかけてくる敵もまた距離がある。


 これだけ集中出来る余裕があるのであれば、これで――ッ!


空刃(クウジン)桜乱(オウラン)ッ!!」


 振りぬいた刃から無数の風の刃が放たれて、正面から来るスピリット達を一気になぎ払った。


「これだけ力を溜める余裕があるなら、これくらいはね」

「ドヤ顔してるとこ悪いけど、ゆっくり集中出来る状況が必要なのと、タメが長いのが、その技の今後の課題だよね?」

「な、なんか今日のショウは格別厳しい」


 しょんぼりとするヒチリの背中を軽く叩き、ショウは改めて走り出す。

 それを追って、ヒチリも駆け出した。


「お、居た居た!」


 ショウは自分に迫ってくるファイターを蹴り飛ばしながら、ターゲットを確認する。

 そのショウを背後から襲おうとしているパラディンを切り裂き、ヒチリは、ショウの視線の先にいる相手を見遣った。


「黒いスピリット?」

「そ。あれがリーダーだよ。

 あ、でも確かめたいコトあるから、ヒィちゃんは黒いの以外をお願い――ていうか、黒いの傷つけるの禁止ね」


 相棒の言葉に、ヒチリはとても困った顔をして、訊ねた。


「まとめて吹き飛ばしちゃダメ?」

「黒いの以外をまとめてやれるのならどうぞ」


 見れば、黒いのを守るように他のスピリットは陣形を作っている。

 中心に黒いのが居る以上は、周囲だけ吹き飛ばすのは難しい。


「それはちょっと……」


 残念そうに肩を落としながらも、自分の役目を認識したヒチリは、刀を構えて駆け出した。

 黒いのを守るべく、一歩踏み出してきたグラディエイトを切り裂く。

 改めて黒いヤツを狙う素振りを見せれば、別のソードマンが前に出てくる。


「《黒衣の霊騎士》を守る、その心意気は買うけど……!」


 そして、前に出て来たソードマンを切り裂く。


 人型をしている上に得体の知れなさがある魔獣なので、やや怖くはあるのだが、戦闘力としてはさほどではない。

 引き付けながら倒すのは、そう難しいことではないのだが――


(それでもやっぱり数が多い……。

 何をしたいのか分からないけど、早めに終わらせてくれないとジリ貧だよショウ……ッ!)








 ファイターが振り下ろす肉厚の両刃剣を躱しながら懐に潜り込み、


「それっ!」


 ショウは下から突き上げるように、肩のやや背中側部分でタックルを決める。


 吹き飛ばしたファイターから視線を外し、すぐに《黒衣の霊騎士》へと向き直る。

 ヒチリが踏み込むフリをしたことで、ソードマンが一匹、彼女へと向かって行くのを確認すると、ショウは少し大回りをしながら、《黒衣の霊騎士》へと接近していく。


 だが、途中に横からパラディンが槍を突き出して来て、慌ててそれを避ける。


「ああ、もうッ!」


 その間に、《黒衣の霊騎士》はショウから離れて行く。

 すぐにグラディエイトも近寄って来てしまった為、闇雲に追うのは少々危険が伴うだろう。


「とりあえず、キミ達をぶっ飛ばすから覚悟してよねッ!」


 二匹のスピリットを見据えながら、ショウは構えた。





「破ぁぁぁ――――ッ!」


 裂帛の気合と共に、ヒチリは振り下ろされた槍を断ち、そこから一歩踏み込むと、風を纏った掌底を繰り出してパラディンを吹き飛ばす。

 すぐさま身体を捻り、背後から来るファイターへ蹴りを放ってバランスを崩させてから、もう一体のファイターへ刃を突き出した。


 鮮血が出ないのはありがたい――そんなことを思いながら刀を引き抜き、蹴り飛ばしたファイターが体制を立て直したところを両断する。


 もちろん、そこで一息など付く間もなく、次のスピリットがやってくる。


 背後から剣を振り下ろされる気配を感じて、横へ向かって飛ぶ。

 即座に反撃をしようとして、見れば《黒衣の霊騎士》だった為、手が止まる。


(傷つけるなって言われても……)


 こちらを追いかけて踏み込んでくる《黒衣の霊騎士》に、ヒチリは思わず舌打ちした。

 チラリとショウに視線を向ければ、何体かのスピリットに囲まれて身動きがとれなくなっているようだ。


(埒が開かない……。だけど、ショウが調べたいコトがあるって言っている以上、ヘタに攻撃してしまうのも……)


 振り下ろし、振り上げ、突き。

 それらを、流し、捌き、躱す。


(ショウをフォローして、相手を交代する――その為には……)


 このまま纏わり付かれては動くに動けない。

 多少、ショウの指示から外れる形になるが――


 袈裟懸けに振り下ろされる《黒衣の霊騎士》の刃をヒチリは自身の得物で受け止め、刀身を傾けることでベクトルを変え、威力を流す。そのまま相手の刃を自分の刀の上で滑らせ、相手の体勢を崩すと、ヒチリは全身でぶつかっていく。


 文字通りの当て身技ではあるが、本来の意味である急所狙いとは真逆の攻撃。

 体当たりをして相手を突き飛ばし、間合いが離れたところで離脱する――そのつもりでの攻撃だったのだが……


(……ん? 感触が違う……?)


 相手にぶつかった時、違和感を覚えた。

 他のスピリット達とは明らかに違う。今のはまるで――


(そうか。それを確かめたいんだッ!) 


 その違和感のおかげで、ヒチリはショウが何をしたかったのかに気がついた。

 すぐさまヒチリは、尻餅を付く《黒衣の霊騎士》の手から落ちた剣を遠くに蹴り飛ばし、その喉元に自身の刃の切っ先を向ける。


「こちらの言いたいコト、分かる?」


 肯定する素振りこそなかったものの、スピリット達の動きが明らかに鈍った。

 それにヒチリは軽く安堵し、ショウへと首だけ向ける。


「ショウ。これで良い?」

「ナイス! ヒィちゃん!」


 ショウは戸惑うスピリット達の間を抜けて来ながら、ヒチリに親指を立てる。


「お? 丁度終わったところか?」

「リュウ。うん――一足遅かったね」

「別に肉体労働しなくて良いならそれに越したこたぁないけどな」


 一見、ダラけた様子ながら、いつスピリットに襲われても良いように隙無い。リュウテキはそのままが公園の奥からやってくる。


「どうだった、リュウちゃん?」

「んー? 無駄足?」


 やれやれと言うような仕草をして見せるものの、その様子は別に気にしていないようだ。


「やっぱりねぇ。なーんか、友達とか少なそうだし。単独だとは思ってたけど」

「だよなぁー」


 二人の会話の意味が分からないので、ヒチリは眉を顰める。

 そこへ――


「わ、わるかったなぁ!」


 《黒衣の霊騎士》が、いかにも女の子然とした声を上げて、ヒチリは思わず剣を引いた。


「え?」

「お? 可愛い子な予感!」


 それにいち早く反応したショウは、そのターバンに手を伸ばす。


「あッ!」

 取られる――そう直感したのだろう。


 《黒衣の霊騎士》は咄嗟に頭の布を押さえるが……ショウはニヤリと笑った。


「その腋、もらった!」


 言って、その腋の下をちょんちょんと突付く。


「ひゃう!」


 ぴくん、と反応し手の力が緩んだ隙を付いて、ショウは改めてそのターバンを狙う。


「しまった!」


 時既に遅し。


 ショウによってターバンは外され、その下からは短く切りそろえられた、透き通るような金の髪が零れ落ちてきた。

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