011
逃走中の交差点で、バスターチームをどこかへ運んでいるダイゴと遭遇出来たのは僥倖だった。
「リュウッ!?」
車を止め、目を丸くするダイゴ。荷台に乗っているバスターチーム達も顔を顰めている。
「お客様方、申し訳ありませんが――」
即座に正気に戻ったダイゴが後ろのバスター達に声を掛けると、
「気にすんなッ! 目的地は斡旋所に変更だ! 嬢ちゃん、そっちの坊主を寄こせッ!」
荷台の同業者達も即座に対応してくれた。
二人も荷台へと乗り、ダイゴは行き先をニュータウン斡旋所へと変更する。
「何があった?」
「手配獣のバスター中に、別の手配獣が乱入してきちゃってね」
リュウテキの様子が気が気でないのだろう。ヒチリの耳に、向こうのチームの言葉は届いていないようだ。代わりに、努めて冷静にショウが答える。
「《流離う翼竜》って奴。知ってる?」
「上級賞金首じゃねぇか……仲間の腕一本で済んだなら、安いレベルだぞ」
「頭では分かってるけどさ」
「……だろうな」
向こうのリーダー格だろう男性が肩を竦める。
それでも、仲間が片腕を失ってしまったという事実に変わりはない。
「そういやそのワイバーン、隣町の学校とか襲ってなかったっけか?」
「ああ。自分のところの学校ですね」
誰かの言葉に、ダイゴがうなずく。
「学校だけでなく友人らまで襲われるとは、思ってなかったですが」
そこに含まれる言葉の意味を理解出来ないものはいない。
リベンジしたい。だが、それだけの力がない。そんなもの、この場にいる誰だってそうなのだ。
放浪系の大型魔獣――上級賞金首というのは、だいたいにしてそういう存在である。
それこそ、神話に出てくるドラゴンと言って差し支えないような強さを持っているのだ。
言葉の上だけで理解していたそれを、ショウは身を持って理解した。
そして脳裏と胸中に渦巻く様々な感情を抑えるように、ショウは斡旋所に着くまでの間、唇の端を噛みしめ続けるのだった。
斡旋所に到着すると、即座に乗り合わせたバスターチームが荷台から降り、通行人に声を掛け道を開かせる。
裏口からだと医務室までが遠いのだ。正面から入り、買い物客に道を開かせる方が早い。
そんな中で、リュウテキの腕に気がついた顔見知り達の顔が曇っていったが、それに構ってるヒマはなく、医務室まで運ぶ。
医務室についた時点で、手伝ってくれたチームに礼を告げ、ここまでで充分だと頭を下げた。
ショウは本来の運賃の二倍の額をダイゴに手渡し、後ろ髪引かれている彼に、仕事をちゃんと済ませてこいと蹴っ飛ばす。
そうして、ようやくここまでやってきた。
ここまでやってきたのだが――そもそもからして、斡旋所の医務室レベルで手におえるような怪我ではなかった。
とりあえずはショウの能力でしていた止血と消毒はそのままに、リュウテキをベッドに寝かせはしたのだが……。
「近くの病院からここまで一時間以上掛かるんだよね……」
医務室の外で、ショウが呻く。
すぐにでも処置をしてもらいたいのに、それだけの時間というのはリュウテキの命に関わり兼ねない。
「うん……。昔は梅ヶ谷トンネル傍に病院があったって話だけど……」
ユニゾン・ザ・ワールドのせいで閉鎖されてしまった病院を思い出し、ヒチリは歯軋りをする。
「無いものねだりをしてもしかたないよ」
嘆息しながら、ショウは携帯端末を弄る。
「せめて応急処置だけでもすぐ出来る人がいれば……」
情報検索を走らせては見るものの、そう都合の良い情報が掴めそうにない。
「……応急処置……」
その単語が頭に引っかかり、ヒチリは眉を顰める。
最近、どこかでそれが出来るという人と出会った気がするのだ。
しばらく思案していると、ヒチリはポケットから名刺を一枚取り出した。
「ショウ。この人!」
「コッペさん!」
確かに、初めて会ったときに、医者の真似事が出来ると言っていた。
副業でバスターをしてるという話だったし、もしかしたら斡旋所の敷地内にいるかもしれない。
すがるような思いで、ショウはコッペリウスの名刺に書かれた連絡先に電話をかける。
電話に出たコッペリウスに対して一気に捲くし立てたくなる衝動をぐっと堪えて、ショウは努めて冷静に状況を伝えた。
そして、電話を切った彼女にヒチリが尋ねる。
「ショウ。どう?」
「丁度、仕事の報告に窓口へ来てたらしいから、すぐにこっちへ来てくれるって……」
まだ完全に安堵出来るわけではないが、それでも応急処置とはいえ治療の出来る人が来てくれるというだけで安心できる。
「とりあえず、リュウちゃんのとこへ戻ろ」
「うん」
不安感で倒れそうな自分達を奮い立たせるように、二人は医務室へと入りベッドに向かう。
「リュウ」
「何だよヒチリ、ショウ? 二人とも泣きそうな顔しやがって」
弱々しくはあるが、いつも通りの皮肉っぽい言い方で、そんなことを言ってくる。
「するよッ、しちゃうよッ! 馬鹿なのリュウちゃんッッ!!」
「そうだよ。なんでキミはあんな無茶を――」
「無茶に関してはヒチリに言われたかねぇな」
苦笑してから、リュウテキは二人に真面目な――だけど、柔らかく優しい眼差しを向けた。
「男の子ってなぁよ、いつだってどこでだって……女の子の為に身体を張りたいと思ってるドMなんだよ」
その口元だけは皮肉げに吊り上がっているが、本心はその眼差しの通りなのだろう。
「まがり間違って、俺がお前ら二人のどっちかにうっかり本気で惚れちまった時……俺のせいで隻腕やら隻眼やらになっちまってたら、悔やむに悔やめねぇしな」
「だからって、キミは……」
「助けた女に泣かれるってのはバツ悪いな。一つ学んだぜ」
「リュウちゃん、本当に馬鹿なの?」
ヒチリほどハッキリとはしてないが、ショウも泣きそうな顔をしている。
リュウテキは本当にバツが悪い――と思いながら、二人へと笑みを向けた。
「言っただろ? 男ってのは女を守りたがるドMだって。
この腕も、お前ら守る為なら安いモンだ。所謂、名誉の勲章ってな」
「そんなの誤魔化しだッ、リュウがどう思ってても、私達は……ッ!」
「騎士道や武士道ってのはそういう無茶の後付から生まれたもんなんだとよ。なら勲章ってのもあながち間違ってねぇだろ?
それによ……お前ら二人共ヴィジュアルはハイレベルなんだから、もうちょっと気ぃ使え。
その綺麗な顔や肌に癒えない傷が付くなんてのは――俺は嫌なんだよ」
「リュウちゃんの馬鹿。こんな時にそんなコト言われたって嬉しくないよ」
「そうか? 俺的には空気を読んだはずなんだけどな」
ケケケ――と笑うリュウテキからは、確かに後悔など感じない。
本心から、二人を守れて良かったと思っているらしい。
そんなリュウテキに、それでも二人は納得できず何か言ってやろうと思った時、コンコンとノックが聞こえた。
「入るぞ」
そう告げて医務室に入ってきたのは、前見たときと同じ格好をした女性。コッペリウス。
「これはまた、今時珍しいくらいの隻腕状態だな」
「おかげさまでな」
「満足そうだな」
「色んな意味でな」
リュウテキを見るなりにやたらと失礼な感想を述べるコッペリウスだったが、リュウテキはそれを嫌味とは受け取らず、シニカルな笑みを返して見せる。
それに一つうなずいてから、コッペリウスはヒチリとショウへと向き直った。
「彼の応急処置はやっておく。二人とも少し休んで来るといい。不安なのは分かるが、私から見れば二人も疲労困憊といった様子だぞ?
甘いものでも食べて一息いれた方がいいだろう。疲れは思考を鈍らせ、気持ちをマイナスにするからな」
コッペリウスの言葉に、ヒチリとショウは互いに顔を見合わせる。
「言えた義理じゃねぇけど、行ってこい。俺から見ても、俺より顔色悪いんじゃねーかって思えるからな」
その言葉が駄目押しになったのだろう。
ヒチリとショウはうなずき合うと、コッペリウスにリュウテキを頼んで医務室を出て行った。
二人の背を見送ってから、しばらくの間の後――
「――――ッァ!」
リュウテキは声にならない声と共に盛大な息を吐いた。
「よくもまぁ平然な顔をしていると思ったが、カッコを付けていただけか」
「それに気付いたから……二人を……追い出してくれたんだろ?」
「それもあるが、そうでなくても、やはり疲労しているのは見え見えだったからな」
咥えタバコをピコピコと上下に動かしながらコッペリウスはうなずく。
「さて、呼ばれたし了承したからには仕事はするが、正直に言うと私の手に余るぞ。キミのこの傷は。
設備や道具がちゃんとあるのならともかく、ここではあくまでも応急処置しか出来ない」
その言葉に、まるで初めから分かっていたかのように、リュウテキは首を横に振った。
「治療はテキトーでいい」
「なに?」
リュウテキの言葉に、コッペリウスの肩眉がピクンと跳ねた。
訝しむ彼女に、リュウテキは告げる。
「義手をくれ。出来れば限りなく人間に近いやつがいい」
決意を秘めたリュウテキの言葉を、だがコッペリウスは一言の元に切って捨てた。
「無理だ」
「なんでだ?」
食い下がるように、リュウテキが問う。
「君が二人を追い出した本当の理由はそれだな。確かにあの二人が居たら反対しそうではある。
そこから踏まえると、君はすぐに腕を手に入れたいようだが、生憎と要望通りの腕を作ろうとすると時間が掛かる」
「何なら急拵えでも構わない。動く腕が……武器を握れる手が欲しいんだ」
必死な様子のリュウテキに、コッペリウスはますます眉を顰めた。
「何故、君はそんなにも急ぐ?」
「あいつ等が――今のヒチリとショウが素直に休憩するとは思えない」
「リベンジ……か」
「ああ」
リュウテキがうなずくと、コッペリウスは腕を組み少し目を瞑る。
そうして、やや思案してから、彼女は問うた。
「君は、《切り拓く者だったか?」
「ん? ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
「能力について詳細を教えて欲しい。その上で、その能力が最大限に生かせる仮組みアームを作ってやろう。
料金はいらん。その代わりといっては何だが、契約をしよう」
「契約?」
「ああ――」
コッペリウスの提示した内容に、リュウテキは訝った。
「正気か? それは」
「元々私は狂人の類らしいのでな」
「だったらなおさらだろ。普通はそういうコト言わないんじゃないか狂人ってのは」
「なんと言われようと私は本気だ。どうする?」
言われて、リュウテキはしばし彼女を見据え――うなずいた。
「……わかったよ。約束する」
「契約成立だ。すぐに腕の構築に取り掛かろう」
「《流離う翼竜》は、ゴルフ場跡に向かったらしいよ」
「朱音沢公園の傍だね……ベルやスピリットは平気かな?」
「翼竜は手負いだし、手を出さずにゴルフ場跡で休んでるんじゃないかな」
斡旋状から歩いて数分のところにある、東ニュータウンモノレール帝皇大学・鳴央大学駅で、二人は缶ジュース片手にベンチに腰を掛けていた。
既にモノレールそのものは走らなくなって久しいが、それでも一定の利用客がいるので、駅への電力供給等は最低限されており、中にある自動販売機などの機器は利用できるようになっている。
二人はそれぞれベンチの端に腰を掛けており、その間にはショウの手持ちのお菓子が広げられていた。
「ヒィちゃん」
「なに?」
「あたしが止めなかったら、そのまま翼竜のところまで飛んで行ってたでしょ?」
「うん」
申し訳なさそうに、ヒチリはうなずく。
「勝算はあったの?」
「……ない」
消え入るような、蚊の鳴くような声。
「でも……ジッとしてられなかった。母さんに続いてリュウまで、傍から居なくなっちゃうかもしれないと思って……」
「リュウちゃんが悲しむって考えなかった?」
「…………」
「リュウちゃん、手は無くなっちゃったけど、死んでないよ?
なのに、ヒィちゃんが先走って、それで死んじゃったりしたら、リュウちゃんは腕一本無駄遣いしちゃったコトになるよ?」
ショウはリュウテキを真似るように淡々と語っていたつもりだったのだが、思ったよりも語調が強くなってしまっている。
「分かってるッ、だけど……ッ!」
それに、ヒチリは顔を悔しさと哀しさで歪ませた。
「ごめんヒィちゃん」
ヒチリの眦から涙が零れるのを見て、ショウは両手で包むように持っている缶に視線を落す。
泣かせるつもりはなかった。責めるつもりもなかった。だけど、結果的にヒチリを泣かしてしまった。
正直に言ってしまえば、ショウも自分の言葉が自分に刺さる。
こんな時でも、比較的冷静に物事を考えている自分が嫌だとも思うほどに。
「でも、ハッキリとさせておこう」
俯いたまま、だけどしっかりと、自分にも言い聞かせるように、ショウは告げる。
「リュウちゃんは死んでないし、絶対に死なない。
そして、リュウちゃんが医務室で語ったことが本心なら、腕のリベンジとかは望んでない」
「うん」
鼻を啜りながら、ヒチリはうなずく。
「リュウちゃんの想いがラブかライクかはともかく、リュウちゃんはあたし達のコトを大切に思ってくれてる。それは本当」
「うん。私達に必要以上の怪我をさせないように、たぶんいつも考えてくれてたんだよね」
そして文字通り、身体を張ってヒチリを守った。
「ヒィちゃんがやろうとしたコトは、そういう意味ではリュウちゃんを裏切る行為だよ」
「分かってる。でもジッとなんて……」
「それはあたしも同じ。頭の中は冷静だけど、感情的にはあの翼竜をぶちのめしたい」
「勝算はあるの?」
「ない」
先程とは立場が逆のやりとり。
だが、二人の表情もまた、先程とは逆だ。
「だけど、ショウは、ショウの大切な人の腕を奪ったやつを許せない」
「それは私も同じだよ」
守られているだけなのは性に合わない。
「リュウが守ってくれてるっていうのは、嬉しいことだったけど、守られてるだけっていうのは嫌だな」
「だね。だから、守ってもらう為にも強くなろう。
守ってもらうのはココ一番って時だけにしてもらっちゃえばいいよ。
それ以外の時は――」
「私達がリュウを守る?」
「そ」
二人は目に溜まった涙を拭ってから、笑みを浮かべあう。
「だけどそれでも、今はやっぱり――」
「リベンジ……したいね」
互いに大きく息を吐きあって、手に持っていた缶飲料を一気に飲み干した。
カッコをつけてくれたリュウテキに申し訳ない気持ちもある。
リュウテキの覚悟を無駄にしてしまう行為だという自覚もある。
だけど、それでも――やっぱりこのまま黙って翼竜を見逃すことに納得が行かないのだ。
「私一人じゃ勝ち目はない」
それを認めて漆竹ヒチリは立ち上がる。
「あたし一人じゃ勝ち目はない」
それを認めて鳳ショウは立ち上がる。
だけど、自分と彼女の二人なら――
「リュウ無しでの仕事って初めてかもしれないね」
握った拳を真っ直ぐ伸ばして、ショウに向ける。
「違うよヒィちゃん。これは仕事じゃなくて私事だからね」
向けられた拳に、ショウは自分の拳をコツンと当てる。
「リュウちゃん無しはいつものことじゃん」
「それもそうだ」
微笑み合い、気持ちを切り替えるように息を吐きあうと、二人は線路へと飛び移った。
「いつも以上に頼りにしてるよ」
「OK。あたしもいつも以上に頼らせてもらうよ」
モノレールが走らなくなったこの線路も、線路の上を歩いていけば各駅へのショートカットに使えるので、車やバイクを持たないバスター達から重宝がられている。
「それじゃあ、行こうヒィちゃん」
危険は承知。だけど、もう倒してしまわないとこの気持ちは収まらない。
「うん。行こう。リベンジマッチだ」
二人はそれぞれに、胸中でリュウテキに謝りながら、線路の上を歩き始めた。
「すげーな。もう出来たのか」
なにやらアタッシュケースから色々と取り出してガチャガチャとやっていたと思ったら、あっという間に腕が出来ていた。仮組用アームとはいえ、とんでもない手際だ。
「あくまでも仮組だよ。
本組はこれと同じ機能を持たせ、その上で見た目も質感も本物の人間の腕と遜色のない義手を用意しよう。
もちろん、私の趣味で球体関節にさせてもらうが」
「まぁとりあえずありがとうと言っとくよ」
どういうリアクションをすれば良いかわからず、リュウテキは適当にそう告げる。
「楽しくアームを組んでおいて言うのも何だがね。もう一度だけ言わせてくれ」
「あん?」
「本来、義手の装着にも相応の手術が必要だ。だが、それを無視して付けるコトを可能としているのは、私の開拓能力だ」
「ああ」
「そしてこの能力を使ってくっつけたら、例え君の腕が無事に回収できても、もう再生手術は不可能だ。一生、義手になる。それでも良いんだな?」
「男に二言はねぇよ。契約もちゃんと履行する」
「そうか。ならば身体を起してじっとしていてくれ。ちょっとばかし痛いがな」
痛み止め兼止血用に巻かれていた、ドクダミとヨモギの包帯を引っぺがし、筒型容器の蓋のようなものをリュウテキの傷口に被せた。
その後で、紫色に怪しく輝くと、まるで元々腕がそうであったかのように融合していく。
――と、同時に……
「…………ッ!!」
とてつもない激痛に襲われて、リュウテキは声にならない声を上げた。
何がちょっとだ――そう毒づきたいのだが、痛みのせいでそれもままならない。
身体を思い切り折り曲げたいのだが、
「ジッとしていろ。そうでないと時間が掛かる」
そんな言葉を聞かされたら、我慢せざるをえない。
どれだけそうしていただろうか。時間にしてみれば僅か数秒だったのかもしれないが、リュウテキにとっては途方も無く長い時間が過ぎ、痛みがゆっくりと引いていった。
「ふむ。上手くいったようだな」
リュウテキはその呟きを、激痛の為に眦に浮かんだ涙や脂汗を拭うことも出来ないほどの疲労の中で耳にする。
「さて、次はお待ちかねのアームだな」
「……さっさと……やってくれ」
「ああ。また少しばかり痛いかもしれんが我慢してくれたまえ」
そして、仮組みアームが取り付けられる。
たぶん最初に付けられた蓋みたいなものと、腕のジョイントがくっついた瞬間の出来事だろう。
その一瞬だけ、接合面周辺の神経がささくれ立つかのような痛みが走った。
だがそれにも歯を食いしばって、リュウテキは耐える。
「よし終わったぞ。動かしてみてくれ」
言われるがまま動かす。
違和感がある。だが、今までの自分の腕のようにちゃんと言うことを聞いてくれる。
「問題はなさそうだな」
「すげーなこれ。どういう原理か良くわからねぇけど」
手をグーパーさせたり、肘を曲げたり伸ばしたりしながら、具合を確かめ。リュウテキは感嘆を漏らす。
「原理を語っても良いが、それを聞く時間は君にはないのではないかな?」
「まぁな」
「時間も推してるだろうし、簡潔に行こう。君の能力と、その腕でそれを利用するコトについてだ」
息を吐いて、コッペリウスに真っ直ぐ視線を向ける。
「君は女性の胸を正面から鷲掴みにした時、その掌に当たるだろう胸の先端にだけ能力の影響を及ぼすような使い方は出来るかな?」
その問いかけに、リュウテキは大きく嘆息をしてから、冷静にツッコミを入れようと思ったのだが、どうにも堪えきれず――
「どうしてッ、俺の周りに集まってくる女どもはッ、こんな逆セクハラじみた発言ばっかりしてきやがるんだよッ!」
――そう叫ばずにはいられなかった。




