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魔王と勇者と錬金術師と!  作者: やみのゆい
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扉から光が差し込むと同時に、初めて見る女の人がアトリエに来客してきた。

「・・・。ここは・・・?」

コートに身をまとい、深々とかぶる帽子からでも女の人だと分かる華奢な体は実に女性らしいものであった。

「・・・?」

「・・・あぁ、ごめんごめん。ここは調合したり、錬金したりするアトリエなんだけど基本的にその造ったものを売ったりしてる所だよ。」

少し見とれていた、何て言えないが、ただ一つ気になることがあった。

「何まじまじ見てたのよ、変態」

何かが気に入らなかったのか、生意気妖精が罵倒してくる。

「なっ・・・!う、うるさいなぁ。何でこんなところに来たのか気になっただけだよ。」

「ふーん。」

「さっきからなに小さな声で話してるんですか?」

「あぁ、ごめんこっちの話だから」

そう言うと「そうですか」とだけいい店の中にある色々なものを見物していく。


まず最初の印象は変わった子という事だ。年齢は多分俺自身とあまり変わらない位かなとは思うが、何しろここは村とはそれなりに離れてるし何より森に入らなきゃ行けないため、明確な目的がないとここに来る人は殆どいないという事だ。

次に思ったのは今はそこまで寒くないのに、コートを羽織っていることや帽子を深々と被っていること。帽子とコートの襟までの間に綺麗な緑色の髪が見えるが、多分髪は長めだと思う。

緑髪というのはこの地方では珍しいので、少し気になる。

まあ、儲かるならなんでもいいんだけど。

そう考えていると、緑髪の娘から話しかけられる。


「素材はどうしてるの?」

「あーそれはね、全部ここのプランターで育ててるのと、裏の庭で育ててるのだけ使ってるよ。たまーに素材集めに行くけどね」

「でも、薬草しかない。目覚し草とかもあるけれど、下級薬草しか育ってない。ハイポーションなんて、無理」

彼女は錬金術に詳しいのか、疑問をぶつけてきた。

確かに彼女の言うとうり、ハイポーションというものを作るには薬草ではなく、青薬草というものが必要になってくる。それと蜂蜜、蒸留水を錬金することによってハイポーションが出来上がる。

ちなみに、本来は薬草、蜂蜜、そして水。この場合は蒸留水じゃなく、水道水でも井戸水でもなんでもいい。

だが、これは「セオリー通り」の作り方だ。

錬金術は+αの工程を加えることによって、効果が跳ね上がったり、できるものが上の品質にすることができる。そのいい例が、ここで売っているハイポーションだ。

本来青薬草が必要なのだが、これは栽培が難しく、尚且つ生えている所がここ一体には無いという事。

そこで必要になってくるのが、工程+αである。

薬草は1回乾燥させ、煎じ抽出。この過程を踏むことによって、回復効果が倍以上になるのだ。だがしかし、全部の薬草類に使えるかと言ったら、全然そうでもない。これは薬草オンリーのやり方だ。

そしてそれに蜂蜜と蒸留水を錬金させる。まあ、一応企業秘密なので詳しくは話さず、独自の方法でやっているという事だけ話す。

すると彼女から真剣な眼差しで質問された。


「錬金術は釜戸じゃないの?」


――そう、実は゛大釜゛を使っているのだ。


セントラル(中央都)やその周りの街など都市は、一般市民でも使えるように改造された、釜戸をつかっているらしい。

媒体となるものを中に入れる事によって、誰でも完成品が出来上がるという物だ。

だがこれにはメリットがありデメリットもある。

メリットはまず、品質が安定していて、量産体制に入れるということだ。それに簡単なので、誰でも作ることが可能。但し、品質をあげるのは不可能である。さっきの工程でその釜戸にぶち込んでも品質上がる所か、入れるものが違うためドロッドロの液体となって帰ってくる。

じゃあ、どうやって品質のいい商品を作るのか。それは勿論、高級な釜戸を買うことによって品質向上が可能になる。

―――但しお金持ちに限る。


都市は田舎な村と違って、物品やお金が生活基準になっている。その為に、便利な所もあるがその反面、お金が沢山必要になってくるという訳だ。


「まあ、釜戸なんて買うお金は無いからね。俺の師匠・・・親からのお下がりなんだ。」

「ふーん・・・。素敵ね」

「そらどーも」

彼女が初めてクスリと笑う。コートの襟などであまり顔自体は見えないものの、何か見惚れてしまう・・・そんな雰囲気がした。


「やはり・・・いい物ね。ここの商品は」

「そうか?日々練習と研究の毎日だったけど、自分では実感してないよ」

「あら、ここでは自信の無い品を出しているの?」

「生憎実感と品質は別でね、良くなってる実感はしなくても、元々の商品自体の品質には自信があるんだよ。」

皮肉っぽく言われたので、こちらも負けずと皮肉で返す。すると彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐ澄ました顔に戻る。

「ふーん、面白いのね。」

そう言うとまた品々へ視線を移す。


それから約10分だろうか、聞かれては返し、聞かれては返し、彼女は何も買わず俺達はただそれを繰り返していた。


「んで、結局なんか買ってくの?」

「ふぁ~。アタシもう眠いや」

「・・・決めたわ。」

「そう?毎度あり」

「この店を買うことにする」

「んじゃその値段は・・・」

「なに?やっと決まった・・・」

「「って、えぇぇぇぇぇええ!?!?」」

虫達が何かを知らせ、小鳥たちが囀る。綺麗な森に囲まれた、静かで小さなアトリエが、2人の叫び声によって一気に騒がしくなる。

そして、近くの木に止まっていた小鳥達がその声に驚き、一斉に羽ばたく。


「・・・?」


彼女は「何?気になることなんてあるの?」と言った顔でこちらを見ていた。相当この反応珍しく感じたのだろう、彼女の街ではこういうのが普通なのだろうか。


「いやいや、だって店まるごとって・・・そんなお金あるの?」

「それに、ここはアトリエなの!お店は売ってないの!」

そう言うと、彼女は平然とした顔で

「これじゃだめかしら?」

と言い、約3億相当のお金をレジの上にドスンと置いた。

(どこから出したの・・・)

そんな疑問など一瞬で吹っ飛ぶ。


「いやいやいやいやいや。え、えぇええ・・・」

「あー・・・あ、あー・・・。」

驚きを隠せない俺に対し、ルーシタルは顎が戻らないのか、口がポカーンと開いたままだった。

最早呻き声なんて、モールス信号と言われてもさほど区別はつかないんじゃあないのだろうか。


「これでどう?」

「ちょっと待って、頭の中整理させて。」

「・・・?いつもなら皆ヨダレ垂らしながら喜ぶのに」

「あはは・・・。」

「あー・・・、あっ」

お前はいつまでモールス信号を発してるんだ・・・。

それに、向こうじゃお金ってそんなに重要なのか・・・住むところが違うと、物に対する価値観などが全く違ったりするためなかなかどうして面白い。

実際商売としてやって行けるのも、こう言った話が聞けたりや、予想外の錬金術のヒントが潜んでたりするから楽しんで続けられる。

まあ、たった今それが終わろうとしてるんだけどね。

だけども、やっぱりここは捨てられない。そんな思いが胸の奥で引っかかった。


「・・・。ごめん、美味しそうな話だけど断るよ。それにこっちじゃ田舎だし、お金の需要がさほどないからね。」

「あーー・・・あっ、あー・・・・・。ハッ!?何事!?」

「お前がだよ」

そう言い、俺は軽くチョップをする。

「はぅっ!?ちょ、何するのよ!」

「お前がいつまでたっても我に帰らないからな」

そして彼女の方に顔を向けると、少しだけ残念そうにため息を吐いた。

「そう・・・。ここもダメなのね・・・。錬金術者というのは、場所や物を大事にするのね。」

そうとだけ言い彼女は、コートを翻らせドアノブへと手を伸ばす。

゛ここも゛という言葉がとうしても気になった。

他にも、何軒か回っていたのだろうか。でもよく考えると、ここ周辺や近くの村に錬金術の店等は全くない。

そう思うと、自分が無意識に声をかけていたことに気づいた。

「ん?」

「あー。とりあえずなんで買おうとしているのか、聞かせてくれない?」

「そういえば、何も話してないわね。」

彼女は今まで深々と被っていた帽子をゆっくりと脱ぐ。

すると帽子の(つば)や、その影で隠れていた素顔が露わになる。

それは、とても愛らしい顔つきだった。綺麗で、目も透き通っていて、まるで高級で作り込まれた人形を見ているような・・・。

エメラルドグリーンの髪やその眼が、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している。

その反面、多分歳は俺とあまり変わらないのだと感じた。


そしてある事を思い出す。

「・・・あっ!」

「やっぱり分かった?」

「君は魔王軍の」

「あーーーーー!あたしも分かった!」

胸の奥で引っかかっていた何かが、ようやく分かった。

返しのついた釣り針が、やっと抜けたような感覚だ。


「まあでも一応名乗らせて頂くわ。(わたくし)の名はララティア・ルルラターシュ。魔王国第2王女よ。よろしくて?」

彼女が長いコートをつまみ上げ、お辞儀する仕草に俺ら2人は見入っていた。

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