回り出す運命(はぐるま)
気づいたら視界が真紅だった。燃え盛る炎に、喚き苦しむ村の人々。
正直何が起こったのか分からなかった。21時頃には普通に寝ていて、胸騒ぎや周りの家などが騒がしく窓から外を覗いてみると、炎に包まれた光景が目に映る。
そこからは怖くなって、意識は朦朧で、恐怖を抱きながら気づいた時には外に駆け出していて周りを見渡すと゛視界が真紅だった゛。
両親は少し離れた先の親戚の家に行っているため、生存確認はできなかった。だがギリギリ目視できる距離にはあるため目を凝らしてみるが、その家は最早家とは言えないくらいになっていた。
「あぁ・・・あぁ。あっ・・・あぁ・・・!」
喉が焼けるように痛い。息をする度に痛い。暑い。熱い。怖い。寒い。痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイ。
白く霞んでいく視界の中で、誰かが俺を抱きかかえてこう言った。
「村は遅かったか・・・。だが安心しな坊主、お前は助かった。」
その言葉だけ聞くと俺は何処か気が抜けて、プツンと意識が絶った。
これはアルカナ・ヴァーミリオンが齢6歳の頃に起きた出来事だった。
第1章-決断-
「って話しさ、ある程度の話だけど。昔のことだから完全に思い出せないんだよな。」
「へぇー、んでそれがアンタの師匠ってわけねー。」
「正直もなにも、師匠が来なかったら今頃俺はバクテリアに食われて、土になってただろうよ。」
「まぁ、アンタならいんじゃない?・・・んーっ!この蜜美味しいっ!」
「おいこら」
俺ことアルカナ・ヴァーミリオンが話してる相手は、ひょんな事から知り合いになった妖精さんだ。大きさは大体手首から中指の先端くらいの大きさで、金髪に緑のフリル付きワンピがよく似合っている。サイドテールが空をふわふわ飛ぶ時に右や左に揺れるため、それだけ見ると癒されたりする。尚、後ろ姿だけ。実際に関わっていると、面倒くさい事が多々ある。と言うか大体だ、なぜって?色々突っかかって来るからさ。
んで、そのひょんな事って言うのは最近なんだが、近くの森に足を運んでマナ(この世界で言う大気中に潜んでいる魔力)が一定値を保ってるか調査していた時に、変な肉食植物に捕まって食べられそうになってた所を助けたと言う事だ。それから懐かれたのかは不明だが、よく家に蜜を食べに来る。
妖精は蜜や果物が主食らしく、それと水さえあれば生きていけるらしい。正直そんなんで本当に生きていけるなら羨ましい、変われ。
本人曰く
「私って、これでも妖精界じゃ偉い方なのよ?」
らしいが、そんな奴はわざわざ蜜貰いに来るか。
まあ、本音は良く来すぎて来ない方が落ち着かなくて、ついつい心配してしまうんだが。アイツの前では言わないようにしよう、調子乗るからな。
「よく考えたら会って1ヶ月経ってるのに、お前の名前知らないんだけど。」
「はぁ!?あ、そうか・・・だから名前で呼んでくれなかったのか・・・ボソボソ」
「はぁ!?しか聞こえなかったんだけど」
「うるさい!」
ずっと「なー」か「おーい」か「お前」でしか呼んでなかったため、気にはしてなかったがふと名前が知らないことに気がついた。
「いい?しっかり耳穴かっぽじって聞きなさい?あ、耳かきしてあげようか?膝座る?」
「お前の膝にどう座れって言うんだよ」
「あらそう。なら言うわね?あ、そうそ『いいから喋ろ』わかったわーよ。私の名前はね、ルーシタルよルーシタル・アルヴヘイム。アンタらで言うファースト?ミドル?ネーム?名字?とかないのよ、一般妖精には」
「名字?まあ、いい。んじゃそのアルヴヘイムってなんだよ。」
「アンタ馬鹿なの?一般妖精には無いだけで、高貴な妖精は国と言うか、自分の家系が持ってる領地の名前が名字なの。」
「は?ならアルヴヘイムって?」
「だから言ったじゃない。私偉いのよって」
話だけ聞くとつまりコイツ、ルーシタルは妖精界一体を所持しているという事になる。つまりお姫様。
「・・・お前お姫様なの?」
「この美しい姿を見て何も思わかなったわけ?」
俺の目の前まで飛んできて、胸を張って自慢げに反り返るが、反り返り過ぎて一回転してしまう。
「今のが?」
「うるさいわね」
「まあ、お前がお姫様だったからって俺は何も変わらないが、大丈夫なのかよ?ここまで来たりして。」
「何言ってんの、お姫様って言っても飾りよ飾り。容姿端麗な単なるお人形ちゃん。わかる?つまりいてもいなくても変わらないの。それに私がどこ行こうが私の勝手なの、父様も母様もそれは同意の上よ。」
「そう、ならいっか。」
自分が一番理解しているだろうが、やっぱり気にもされないというのは悲しいのだろう。どうでもいい風に喋っていたが、目がとても寂しそうだった。
「まあ、だったらいつでもうち来いよな。」
「何言ってんの?当たり前でしょ」
「ははっ・・・」
慰めようとしたらその必要は無かったらしい。
「それで、アンタいつも何してるの?暇人なの?こんな人里から離れて草原ばっかで、少し行くと木にも囲まれてるような場所にひとりで住んでて」
「なんでだよ。まあ此処はマナも綺麗だし、空気も綺麗で捗りやすいんだよ研究とか製造が。」
「へー、例の師匠からの受け継ぎ?いつもいないし」
「そうだな、師匠は何年も前からここには帰って来てない。旅に出る、後はよろしくとだけ言ってな。」
「師匠も自由人なのねー。」
俺は師匠から受け継いだ錬金術の研究をしている。魔法使い等は一つの研究テーマを元に魔術を構成して、魔法を使うらしいが俺は魔法使いでも特別な人間でも無いため、術自体を研究しなければならないのだ。そもそも錬金術師と言うのは、魔法使いとは全然違うらしく、王都など栄えた都市では一般市民や鍛冶屋なども錬金術を使ってるらしい。俺のやっている錬金術とはまず入り方から違うらしいが。
俺の場合は大きな釜を使って、その中に色々入れて新しいものを作る錬金術なのに対し、栄えた都市等では鉄の部品や武器など作る際に溶鉱炉に似た物を使って錬金するらしい。
師匠の話だと、釜を使って錬金するのは全世界でも俺と師匠を含めても5人いるかどうからしい。なんか特別な感じがする、古いだけかも知れないが。
そのため不明な点や、理解出来ない点が多いため1人で研究して作ったりする。ちなみに此処は治癒薬という物を扱う店でもあり、錬金術のアトリエと言うわけだ。月に1人来るか来ないかだが。
時々、ルーシタルが妖精界のマナを含んだ花や蜜、果物など持って来てくれるため凄く助かっている。
機嫌のいい時はたまに手伝ってくれるため、面倒くさいが居てくれると頼もしい存在であった。
ルーシタルとたわいも無い話をしながら、アトリエ内のプランターに植えてる花や植物等に水をあげていると、珍しくドアからノックが聞こえた。
-トントントン-
「はーい開いてますよー」
「開いてるわよー」
するとゆっくりドアが開き、上部に取り付けられているベルが鳴り響くのであった。