9話 [冒険者は静かな森で]
お待たせしました。m(_ _)m
僕は森の中を空中を蹴って突き進むと、すぐに冒険者達を見つけることが出来た。
冒険者達は、木の上から来る魔物の攻撃を無効化するため、木の無い空けた場所まで移動していた。これでヨツデの様な魔物からの攻撃を無効化できる。
冒険者達を無数の魔物の群れが取り囲んでいた。冒険者達の中には負傷者が出ているみたいで、仲間を守るような陣形を取って、魔者の攻撃を辛うじで食い止めている。
「急がないとヤバイな」
魔物は冒険者に注意が向いていて、後ろがガラ空きだ。自分たちのボスが後ろに居ると思い、警戒をしていない。もう猿王は僕が始末したのにね。
小太刀を抜き、後ろから魔者達を斬り裂いていく。小型の魔物は首を飛ばし、図体が大きい魔物は脳天を貫き、虫型の魔物には関節に沿って斬り裂いていく。森の中は魔物達の悲鳴と断末魔によって阿鼻叫喚の地獄と化していた。
冒険者達を囲んでいた魔物は、森の異変に気づき、自分達にその危機が近づいているのを本能的に察知し、この場所から逃げるために、森を突っ切り逃げようとしたが、僕が先回りをして魔物を斬り裂いていく。
しかし、やはりこの数の魔物の群れを一人で捌くことは出来ず、魔物を一匹取り逃がしてしまった。取り逃がした魔物は、冒険者達の方に全速力で突っ込んでいっく。
冒険者達の一人が盾を構えて止めようとしているが、それは無理だ。僕が取り逃がし魔物は、鼻が以上に硬い猪型の魔物で[イワバナ]と呼ばれている。
顔ほどもある大きな鼻があり、その鼻は以上に硬く、怒らせたりするとその鼻を使い、進行方向にある障害物をその硬い頭で粉砕しながら突っ込んでくるのだ。そして、その鼻で押し潰すように対象を殺して食らう、獰猛な魔物だ。
このままではあの冒険者達は、イワバナに挽き肉にされてしまう。僕はすぐさま上空に飛び上がり、ある程度の高さに到達した後、宙を蹴って急降下した。
[風の飛刃]を小太刀の刀身に纏わせ長さを補い、落下による力で、冒険者達の目前まで迫っていたイワバナの首を両断する。
首が飛び、重心が崩れたイワバナは、冒険者達の横をギリギリで通過していき、そのまま木に激突した。
僕は小太刀を鞘に納め、ゆっくりと立ち上がり冒険者達を見た。
危なかった、あと少しで仮面が貰えなくなる所だった。あのまま激突していれば、盾では防げなかっただろう。
そんな事を考えていると、リーダーらしき男が盾を構えたまま剣を下げる動きをした。
「俺達を何故助けた?」
何故助けたって…。仮面のために決まってるけど、それは僕の事情で言えないし。一応は助けたけど、まずは相手の本意を確認しないといけないな。話はそれからだ。
「ここに来た貴方達の目的を問いたい」
「ここに来た目的だと?」
この天狗の少年か少女かは分からんが、すぐに俺達をどうこうする気はないようだな。
さて、どうするか…
俺は後ろにいたロギアに顔を向けた。
「ここは正直に話したほうがいいだろう。嘘を言っても得なことは無い。逆に逆鱗に触れることになるやもしれんからな」
やはり正直に言ったほうがいいようだ。俺は後ろにいたリナにも話を聞いてみることにした。
「私もそう思うわ。命も救われたみたいだし。正直に話したほうがいいと思う」
杖を握り締めながら、強く頷き返してきた。
ここは正直に話そう。もしこれで殺されるようなことが合っても、それが運命だったと受け入れるしかなさそうだ。
俺は目の前の小さい天狗に正直に話し始めた。
「俺達はこの森に、ギルドの依頼できた冒険者だ。この森では春になると、希少な薬草や魔物がでる。俺達はそれらを採取・討伐し、金に替えているんだ」
金髪の男は剣を仕舞い、盾を下げながら話し始めた。
「あんた達を怒らせてしまったのなら謝罪する。俺はどうなってもいい、仲間だけは見逃してくれないか?」
「レダル、死ぬ時は俺達も一緒だ」
猫の様な顔をした、黒い毛並みの獣人が、仲間と共に覚悟を決めた表情をしながら頷きあう。
成る程、金髪の男はリーダーで、レダルと言うのか。仲間の為に命を張れる、いいリーダーみたいだ。
嘘を吐いてる感じはしないし、信用してもよさそうかな。
「分かりました。あなたの話を信じます。警戒しないでください。それに、話を聞いたところ、あなた方を殺す理由はありません」
僕は両手を上げながら、敵意がな事を伝える。
「…本当だな?」
レダルが真剣な目で僕の真偽を探る。
「ええ、誓って嘘は吐きません」
冒険者たちは、半分は警戒を解いたようだ。そりゃそだ。僕みたいな怪しい、それも初対面の人間には、これくらいの警戒心は残しておくべきだからだ。
さて、里長からは丸く収めろと言われた物の、どのようにすべきかは言われていない。どうするべきかな・・・
そんな事を考えていると、赤い髪をした獣人が、腹を押さえて咳き込み始めた。
「ゴホっ! ゴホッ! ぐっ…」
「ロベルト! しっかりしろ! 魔物の脅威は去った。後は村まで戻り、お前の治療をするだけなんだ!」
茶髪の男が肩を貸しながら、ロベルトと言われた獣人を励ましていた。
魔物にやられたのだろう。傷はそこまで深くはない。多分だが、毒虫にでも噛まれたのだろう。獣人の目の下に、薄紫の隈が出来ている。
「毒にやられたのか?」
「あぁ、ブラックセンチピードに噛まれたんだ。早く村に行って解毒しないと死んでしまう!! 解毒剤の入ったバックは逃げる最中に谷底に落としてしまった」
ん? ブラック…なんだ?冒険者と僕達では魔物の呼び方が違う。どんな魔物に噛まれたのかさっぱりだ。それにしても解毒剤を落とすとは運が無いな。
「そのブラックなんとかとは、どのような魔物ですか?」
「大きさは3m程あり、沢山の手足と、大きな顎に毒を持つ、胴長の魔物型の昆虫だ」
あぁ、[クロムカデ]か。僕達の間ではクロムカデと呼ばれ、森の中に年中いる魔物だ。そのぐらいの毒なら僕が持っている解毒薬で大丈夫だろう。
僕は懐から竹筒を取り出し、レダルに向けて放り投げた。
「それは僕達が使っている解毒薬だ。その程度の魔物の毒なら、すぐに直せるだけの力を持っている」
「…ありがとう。恩に着る」
「信用できそうか?」
茶髪の男がレダルに耳元でささやく。
「俺達を殺すなら、魔物と一緒に殺されてる」
「それもそうだな」
レダルはロベルトの下まで駆け寄ると、竹筒を口にあてロベルトに飲ませていく。
すると、ロベルトの顔に血の気が戻り、苦しそうだった表情が嘘だったように無くなっていく。
「これは…すごい効き目だな」
レダルは感嘆するように竹筒とロベルトを交互に見つめている。僕達の間では、誰もが当たり前のように持っている物なんだが、この人たちにとっては珍しい物のようだ。一応、副作用のことについても話しておこう。
「その解毒薬は、毒を消す代わりに熱が出るんだ。死にはしないが、死ぬよりはマシだろう」
冒険者達は、毒の消えたロベルトに喜びの表情を向けている。すると、ロベルトはゆっくり目を開き、僕を見つめた。
「助かった、借りは…必ず返すよ」
一言そう言うと、安心したのか、気絶するように眠ってしまった。
「助かったよ。解毒剤をもらい感謝する。熱はどのくらい続くんだ?」
「今から半日程度は熱が続く。汗を大量に掻くから、風邪を引かないように注意したほうがいい」
「分かった。解毒剤、感謝する。それに魔物から私たちの命を救ってもらった。君は命の恩人だ。感謝しても仕切れない。そう言えば名乗りが遅れたな、私の名前はレダル・ホードルンと言う。このパーティーのリーダーで、冒険者をしている。レダルと呼んでくれ。君の名前を聞いてもいいかい?」
僕は本名を名乗る事は避けることにした。名乗ってもいいが後から父さんに何言われるかわからない。せっかく顔を隠しているのに名前をばらしてどうする!!とかだ。でも愛称ぐらいならいいかもしれない。
「僕の名前はクロ。気軽に呼んでくれて構わない」
「クロか、いい名前だ。君が解毒剤をくれたこの男はロベルト・マクシドリア。狐の獣人で、気のいい奴だ」
ロベルト・マクシドリア。顔は人だが、頭に尖った耳がある。尻尾が見当たらないが、ズボンの中なのだろうか?
「俺の名前はロギア・ヒョルド。豹の獣人だ。仲間からはロギアと呼ばれている。魔物から命を救ってもらい感謝する」
猫ではなかったようだ。豹の獣人は始めてみた。そう言われれば、猫よりも細い顔で、凛々しい印象を受ける。長い槍を持ち、身のこなしに隙がない。かなりの手練れみたいだ。
「私の名前はエドリナ・フィリス。皆はリナと呼んでるわ。色々と驚いたけど、ロベルトを救ってくれてありがとう。あなた、子供なのに強いのね」
灰色の髪をし、先端に青い宝石が填まった杖を持った女性だ。杖は魔法の媒介なのだろうか?始めてみる形をしている。
「俺はジェイ・ヒューストン。ジェイと呼んでくれ。俺達を救ってくれて事、感謝するよ」
ジェイ・ヒューストン。腰に歪曲した短剣を二本刺している。身のこなしが軽そうな感じの印象を受ける。
「一通り名乗り終わったな。この5人で俺達はいつも行動している。一つ聞くが、これから俺達はどうなるんだ?命を救われ、感謝しているが、生憎俺達は今持ち合わせが無い。バックは谷底に落としてしまい、御礼も出来ないんだ。勿論、君の頼みなら出来る限りの事はしよう。なんたって命の恩人だからな」
これからか。どうしようかなぁ。このままこの人たちを此処に置いて行ってハイお仕舞い。でもいいんだけど、それだと何かと寝覚めが悪い。袖振り合うも多生の縁とはよく父さんが言っていたことわざだ。
どうせなら下の村まで送ってあげよう。天人の儀までは一週間と時間があるし、この人たちのペースなら、3日あれば着くだろう。
「御礼は別にいりません。此処であったのも何かの縁ですし、下の村までお送りしますよ」
「いいのか? あんたには何もメリットはないぞ?」
「僕には僕の、貴方達を助ける理由があるんですよ。それに、外の世界の話も聞いてみたいですし」
僕はニコリと笑ってみせる。嘘ではない。仮面も貰えるわけだし、外の世界にも少し興味がある。下の村に着くまでに、色々と話も聞きたいのだ。父さんの話は少し古いし、今の外の世界の話を聞きたいてみたい。
「分かった。道中よろしく頼む。クロくん、でいいのかな?」
「はい、レダルさん達もよろしくお願いします」
「まずは川に行きたいんだが、魔物から逃げてるうちに方角が分からなくなってしまった。案内を頼めるだろうか?」
「分かりました。こっちです。着いて来てください」
僕は5人を連れ、道無き森の中を歩いて行きながら、1時間ほどで川のほとりに着いた。
「ジェイ、そこにロベルトを寝かせよう。クロ君が言っていた通り、熱と汗が出てきている。服を脱がせて汗を拭いてやってくれ」
「了解だ。見張りはどうする?」
「俺とロギアで3時間づつで交代する事にしよう。そろそろ夜だ、最初は俺が行く。そのあとは夜目の利くロギアに交代だ、先に休んでいてくれ」
「分かった。では、先に休ませてもらおう」
ロギアはそう言うと、槍を肩に掛け、木を背にしながら座り、眠りについた。
「リナとジェイは魔力の回復を図りながら眠り、3時間交代でロベルトの看病をしてくれ。魔力消耗の激しいリナから先に休んでくれ」
「分かったわ。ジェイ、先に眠らせてもらうわね」
「あぁ、ロベルトは任せてくれ」
「飯は朝方取りに行くとしよう。よし、それでは俺は見張りに行って来る。」
レダルはパーティーメンバーに手馴れたように指示を出すと、少し離れたちょうど座れる岩まで行き、ドッシリと腰を落とした。
僕はレダルさん達の動きをじっと見ていた。冒険者とはなんと過酷な職業だろう。過酷な環境に身を置きながら、自然と魔物との命の削り合い。父さんから話だけは聞いていたが、聞くのと見るのとでは大きな違いがある。
僕達天狗は閉鎖された空間で暮らしているとも言っていい。しかし、山の森の中で住んでいる僕達だが、家があり、安心して寝る場所があり、家族がいる。仲間もいる。
だが、冒険者は違う。未開の地を探索し、安心して眠る事もできず、時には魔物に命も奪われる。何故この人たちは冒険者になったりしたのだろう。
僕は、そんな冒険者の一人であるレダルさんに興味が沸いた。
「レダルさん。隣いいですか?」
「クロ君か、いいとも。ちょうど前にも座れる岩がある。そこに座るといい」
僕は促されるままに、前にある岩に座った。
もう空は暗く、星が見え始めた。辺りを照らすのは焚き火の炎と、月明かりのみ。
森はからは、静かに鳴く虫の音色が鳴り響いていた。