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黒金のバレットロード  作者: 真田 幸松
第一章 [空を翔る者達]
7/20

7話 [森の異変]

 ツノワシを追いかけていった6人に追いつこうと、空を飛びながらどうやって協力しながらツノワシを狩ろうかと考えていると、山脈の中層の森の辺りに赤い光の線が真上に向けて放たれていくのが見えた。

 目を凝らして見てみると、最初の赤い光を口火に光の線は増えていく。それに、何かが破裂するような音が光の後から遅れて聞こえ、それが山々に木霊していく。


 「なんだろう? 冒険者の新しい武器かな? ちょっと位覗いてもバレないだろうし……。ツクシ姉には悪いけど、レン達の所に行っても仲間外れにされるのが目に見えてるからなぁ。ちょっと見に行こうかな」


 僕はレン達6人に背を向け、光の線が飛び交う森まで飛んでいった。



 光の線が飛び交う森の上空まで来ると、何やら森の魔物達が騒いでいるようだった。

 森の中では魔物達の鳴声が響き渡り、魔物達が何人かの人影に襲い掛かっている。

 空は明るいが、森が暗くてよく分からない。


 「冒険者かな? こんな中層の上まで上ってくるなんて珍しい。里からはだいぶ距離があるし、大人達からは見つからないとは思うけど」


 時々だが、ここまで登ってくる冒険者が毎年一組か二組はいる。だいたいは山脈の麓にある森の中で魔物や薬草を採取しているのだが、大物狙いや希少な薬草の為に中上層付近の森まで登って来るのだ。

 里に近づき過ぎた冒険者は、里を見つける前に魔物を嗾けて追い払い、見つけてしまえば大人達が冒険者を排除、殺してしまう事もある。


 僕の下では、森の中で光の線が飛び交っている。僕は、何故かその光の線が気になった。

 森の中は暗く、人影らしきものがチラチラと森の隙間から見え隠れして見えるだけで、全貌は分からなかった。


 「ちょっと近づいてみるかな」


 僕は森の中に入り、冒険者が見えるところまで近づこうとすると、腕が四本ある猿が木の上から襲い掛かってきた。この猿は[ヨツデ]と言う、腕が四本ある猿で、四本の腕を巧みに使い、木の上を縦横無尽に駆け回る厄介な奴だ。背丈は僕と同じくらいだろう。

 すぐさま後ろに避け回避する。そして、手の平に風を高速回転させるイメージをしながら風の刃を作った。 風魔法[風の飛刃カマイタチ]。

 辺りの木の葉が[風の飛刃]によって巻き上げられ、切り裂かれていく。僕はそれをヨツデに向かって投げ飛ばす。


 「飛んでけ!」

 「ウッキャキャ! ウキャ?」

 

 ヨツデはすぐさま[風の飛刃]を飛んで回避した。が、回避したはずのヨツデの首が宙を舞う。ヨツデは何が起こったのか分からないと言った顔のままで地面に首を転がした。

 [風の飛刃]はある程度は自分で操作できる。そのため、避けられても操作するイメージが続く限りは動かすことが出来のだ。


 「一匹だけ? ……じゃないよね?」


 僕は木の上を見た。暗い森の中で赤い瞳が無数に僕を囲んでいる。


 「やっぱり群れで行動してるし。でも、群れとしては少し多すぎる様な気がする」


 ヨツデは、一匹なら然程強くは無い。だが、ヨツデの恐ろしい所は群れによって狩を行うことだ。一つの群れは大体30匹前後だけど――。

 ざっと見た感じ100匹以上はいる。僕の周辺だけでだ。これは流石に異常な事態だ。それも知能が少し高くなって、狡賢くなっている。

 先程倒した一匹は斥候だろう。僕の力量を測るためにわざと特攻させたんだ。普通だと考えられない様な事を平然としてくるとなると。


 「どっかにこいつ等のボスがいるな」


 増えすぎた魔物は自分たちの統率者を自ら生み出す。

 これだけの数のヨツデを統率しているとなると、それ以外は考えられなかった。

 魔物は繁殖力が高く、成長も早い。これは多くの魔物に言えることだ。

 しかし、増えすぎることは無い。増えれば増える程に、自分達が食べる食料が減るからだ。だが稀に上限を超えて増えることがある。それは、その魔物の種の王が生まれた時だ。

 だが、王が生まれるには条件が2つある。


 一つ目は、群れを成して行動する魔物に限ること。


 二つ目は、その魔物の群れがどれだけ食べても飢える事が無いと思える量の食料があること。


 しかし、一つ目は当てはまっているが、二つ目が当てはまらない。この森には、これだけの数のヨツデを飢えさせないだけの食料は無いはずだ。

 一体何処に、これだけの数を養える食料があるのか、麓の村を襲ったのか?

 そんな事を考えていると、答えはあちらからやって来た。



 ドシン!ドシン!と、大きな足音を響かせながら、六本の腕でむしゃむしゃとツノワシのモモ肉を食らっている。

 「猿王エンオウ」と呼ばれるヨツデの変異個体。六本の腕と、身の丈は大人3人分程ある。

 しかし、注目すべきは六本の腕・・・・でも、巨大な体格・・でもない。そう、ツノワシのモモ肉・・・・・・・・である。


 「まさかとは思うけど…」


 だが、これしか考えられなかった。

 レン達やハルナ達が、天人の儀の練習の為に狩って回っているツノワシが今回の元凶なのだろう。

 きっとツノワシを狩った後、角と食べる分だけの肉を持って帰り、それ以外は森に放置したのだろう 。

 それも毎日のように数を競いながら狩りまくっているからかなりの数だ。

 そして、放置されたツノワシの肉を食っていたのが、このヨツデ達だった訳だ。


 「里長にあれ程食べ物を粗末にするなって言われてたのに。あいつ等これが知られると絶対怒られるな」


 心の中で里長に怒られている6人が思い浮かび、ざまあみろと思いながら口がにやけた。

 それを威嚇と取った猿王が興奮し、手に持っていた肉を投げ捨て、六本の腕で胸を叩いている。


 「ウホオォォォォォ!! ドコドコドコドコ!!!!!」


 僕は静かに腰に挿してある小太刀を抜き、魔法で風と炎を纏わせた。小太刀は炎の熱によって紅くなって行き、風が炎を巻き上げ、まるで、足りぬ刀身を補うかの如く、炎が刃のように伸びていく。


 風と火の複合魔法「纏の小太刀」


 それに伴い、僕の黒い瞳も紅くなり、黒かった髪の先が、まるで赤熱した鉄の様に紅くなって行く。

 僕の血は、半分は天狗ではない。母の血を濃く受け継いだため、感情が高ぶるとこの様に髪と瞳が紅くなる。僕が生まれた時もこの様に成っていたそうだ。

 これを見て両親がつけた名が[クロガネ]だった。まるで黒鋼が赤熱しているように見えた為だそうだ。


 「ウホホォォォォォォォォォ!!」


 猿王が凄い形相で叫び声を上げながら襲い掛かってきた。六本の腕で僕を羽交い絞めにしようとする。


 「ツノワシよりは練習になるかな」


 僕は[自由飛行フライ]を使い上昇し、スルリと迫って来た六本の腕を回避する。

 そして、猿王の真上を取るような形で[空中歩行スカイウォーク]を発動させ、猿王の周りを高速で、縦横無尽に飛び跳ね撹乱する。

 近接戦闘では、[自由飛行フライ]よりも、[空中歩行スカイウォーク]を使った方が、自分の跳躍力を駆使しながら魔力で足場を作り、瞬間的な速さを連続的に生み出せる。その為、王猿にはまるで赤い線が自分の周りと飛び回っているようにしか見えないだろう。


 それに伴い、他のヨツデが邪魔をしないよう、猿王を中心に、周りを火魔法で、炎の壁を作っていく。まるで炎の闘技場のようだ。これで邪魔は入らない。


 「まずは小手調べ。[炎刃飛翔]!」


 僕は高速で移動しながら、猿王の後ろに回り込み、纏の小太刀を一振りすると、炎の刃が一線となって猿王の背中を襲う。

 この技は「纏の小太刀」が高速で纏っている炎と風の魔法が、[風の飛刃カマイタチ]と同じような効果を生み出して起こる複合魔法だ。


 炎の刃は、王猿の背中に当たり、炎を巻き上げた。


 「グホッ!! ウホォッホッホ!!」


 しかし、硬い背中の筋肉を斬る事も出来ず、軽い火傷しか負っていない。

 流石にこれは想定外だな。せめて腕の腱一本位は焼き斬れると思ってたのに。

 猿王は、「この程度か」と言ったような顔をしている。


 「癇に障る奴だな、腕の一本でも斬ってやろうか」


 思い立ったらすぐ行動。僕の「纏の小太刀」の小太刀の部分は、高熱によって紅く赤熱している。魔物位だったら一刀で両断できる程に切れ味が上がっている。これを使って王猿の左腕三本を斬ってやろう。

 僕は、猿王が知覚出来ない速さで近づき、腕を斬ろうとした瞬間。王猿は急に空高く跳躍した。

 紅い残光だけが空を切る。


 「っち、外した」


 すぐさま猿王から距離を取る。王猿は落下しながら拳を地面に突き立てた。

 その瞬間、地響きと共に地面が王猿を中心に、大人の大きさ程の三角の岩の棘が、地面から突き出て僕を串刺しにしようとして来た!!

 それを僕は跳躍しながら交わす。


 「こいつ土魔法使えるのかよ!」


 範囲土魔法[岩の棘槍ロックニードル]。

 猿王は、僕を目で追えないと考え、範囲魔法で攻撃してきた。成る程、伊達に群れの王をやっていないという事だろう。少し舐めてたな、これを父さんが見てたら怒られてしまう。

 戦いは何事も命がけでやれ、舐めたらその油断が死に繋がる。父さんに何度も言われた言葉だ。

 猿王の手の内はもう大体分かった。僕の早さにも付いてこれない。なら・・・


 「もう舐めたりしない。が、実験台にはなってもらう」


 猿王は僕の纏う雰囲気が変わった事を感じ、警戒を強めだした。中間の二本の腕で胸を鎧の様に守り、上下の腕を大きく広げた形を取った。自らの肉を斬らせ、その瞬間に僕を捕まえ骨を砕く積もりだろう。

 でも、捕まえられるならの話だけどね。


 僕は小太刀を地面に刺し、後ろに流してある長い髪を縛っていた金の留め具を外す。外した瞬間、今まで縛っていた僕の癖毛が四方に刺々しく広がった。そして、僕の体を赤いオーラが包んでいく。

 前に右手を向けると、僕の長い髪が、手に螺旋状に巻きつき始め、先が赤熱したかのように紅い、螺旋状の太い槍のような刺突武器の形になった。

 長さは三尺(90cm)程だが、末端は縦に広く、挿した相手の肉を押し広げるような凶悪な形をしている。

 

 種族魔法「妖鬼開放」


 この「妖鬼開放」は、自分の身体能力を上げて肉体を鋼の様にし、自分の体を自由に操作できるオーラを纏う事が出来る。僕の使い方も間違っていないのだが、本来の用途は骨折して上がらない腕などを無理やり操作して使えるようにするなど、戦いが三度の飯より大好きな戦闘種族の鬼族に打って付けの魔法だ。

 それを僕は今、自分の長い髪にだけ使っている。髪はまるで黒鋼のような艶を帯びて硬くなっていた。


 「名前は…[黒鋼刺突ノ型クロガネシトツノカタ黒槍クロヤリ。とかどうだろう? 我ながらかっこいいんじゃないかな」


 僕の父は天狗、しかし母は妖鬼という鬼族だ。父が外の世界で一目惚れをして結婚し、最初に僕が生まれた。

 天狗の種族魔法は使えるが、僕は鬼よりの体をしている訳だ。まぁ、母のように角も生えてないし、現在の天狗族は人の見た目とそう変わることが無い。

 天狗や妖鬼である所以は、種族魔法が使えるかどうかなのだ。そして僕はどちらも使える訳で・・・

 だから同年代の皆からは半端物と言われ、仲間に入れてもらえないのも一つの理由になっている。


 「ウホホォォォ!! ドンドンドン!!!!」


 猿王は、僕の右手の刺突武器を見て、これなら防御するまでもないと腕を六本広げ、けたましく胸を叩きながら僕に来いと挑発をしてくる。

 何故分かるかって?あの自分が勝利を確信したイラつく顔を見れば察せられるというものだ。


 「油断したな? 死んで後悔しても遅いんだからな!」


 僕は足を「妖鬼開放」で身体能力を強化し、邪魔をされないよう、猿王を中心として作った円状の炎の壁の近くを高速で走っていく。

 どんどん速度を上げ、炎を巻き上げながら、猿王の周りを回転していく。


 猿王が地面に拳を叩きつけ[岩の棘槍ロックニードル]を発動する。今回は全方位に岩槍が突き出し、此方まで巻き込む程の規模を放ってきた。

 地面が音を立てながら棘のように持ち上がっていく。僕は今まで溜めた遠心力と速さを使い、中空を高速で走りながら岩の棘の中に突っ込んだ。


 「オリャアアアア!!」


 ゴガガガ!と、音を立て、大人ほどある棘の岩を、右手の黒槍で破壊しながら、猿王に高速で接近する。

 その姿は、期せずして敵に向かっていく一発の銃弾のような姿だった。

 猿王は、破壊しながら近づく僕に気づき、六本の腕で此方を止める体制に入ったが、もう関係ない。


 「貫けぇぇ!!」


 前に出された六本の腕ごと突き刺し、押し広げ、大穴を作りながら猿王の懐まで飛び込み、体に大きな空洞を開け通り過ぎていく。

 猿王は自分の体に開いた大きな空洞を見ながら膝を突き、ドスンと前のめりに倒れた。辺りには炎が地面の葉や枝を焼く、パチパチとした子気味のいい音を出していた。

 倒したことを確認しながら「妖鬼開放」を解除する。


 「うわ・・・髪が獣くさい。家に帰って早く風呂に入らなきゃ落ちないなこれ」


 硬質かが解けた僕の髪は、王猿の血でベットリとしており、猿王の血と獣臭さも相まって、顔を顰める匂いとなっていた。


 「これは、ある意味で猿王に一矢報いられた感じがする」


 完全に自業自得だが、猿王のあのイラつく顔を思い出すと、そうなのではないかと思えてくる。

 僕は地面に刺してあった小太刀を回収し、邪魔が入らぬよう作っていた炎の壁も消火する。

 すると森の異変に僕は気づいた。辺りが静か過ぎるのだ。


 「木の上に居たヨツデ達が居ない。逃げたのかな?」


 しかし、森の奥に何かが積み上げられているのが分かる。僕は底まで歩いて確認すると、ヨツデ達が山となって積まれていた。


 「10点!」

 《ゴツン!!》

 「痛っつぅ!?」


 僕は、激痛が走った頭を押さえ、涙目になりながら、拳骨を落とした人物を確認した。


 「父さん!? 何でここに。もしかして、…ずっと見てた?」

 「当たり前だ! なんだあの粗末な戦い方は! どう決着をつけるのかと遠めで見てみれば、あんなギリギリな戦い方をしてからに。もしあの技で猿王の体を突き抜けられなかったらどうするつもりだったのだ! 父さん冷や冷やしたぞ!」


 そこには父さんと、里の大人が数人集っていた。

 

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