5話 [空から降ってきました]
お待たせしました!!やっとクロは異世界にきました!!
目が覚めると俺は宙に浮いていた。
いや、高速で飛行していると言った方が正しいだろう。体は動かず高速で上昇しているようだった。
俺の足元には今、ネットでしか見たことが無い地球が雄大に存在していた。
街や都市の光が輝き、なんともいえない美しさと雄大さが調和していたが、所々砂漠化が進み、緑は乏しくなっていた。それが痛々しくも感じた。
「これは、…夢か?」
今見ている光景が現実離れしすぎていて、何が起こっているのか分からず混乱してくる。
次の瞬間、フワリとした浮遊感の後、体が何かに引っ張られる感覚がした瞬間、ゆっくりと地球から離れていく。
離れていくにしたがって、体の金縛りが解けていく。そして、体の金縛りが解けていくにしたがって、自分が死んだ瞬間を思い出してきた。
「俺は、死んだのか…」
そして、思い出すにつれ、地球から離れられる安心感と、少々の切なさ。そして、今から自分はどうなるのかという不安が心の中でぐるぐると渦を巻く。
そんな事を思っていると体を引っ張る強さがだんだんと強くなり。地球が高速で見えなくなっていく。
「あっ…」
俺は見えなくなっていく地球に対して、届くはずも無い手を伸ばしたが、地球に向かって拳を握り締め手を戻す。
自分がいた場所に少なからず未練があったことに気づき、眉間に皺を寄せた。
もう地球は見えなくなっていた。
どれくらいの時間が経っただろうか、俺は今、高速ではなく、光速で宇宙を飛んでいる。俺は胡坐に肘を突きながら延々と流れる景色を眺めていた。
光の線が流れていく光景は、SF映画のワープにも似ている。しかし、その中にさっきから、かなりの時間いるわけで、はっきり言ってもう飽きた。
俺はあくびをしながら、いつ終わるか分からない光景を淡々と眺めることしかやることが無かった。
この光景になってすぐに気づいたことなんだが、俺の体は半透明になっており、俗に言う魂だけの存在になったのではないか?と、考えを巡らしてみるがよく分からない。
はっきりしている事は、もう俺の肉体は無いということだけだ。だって半透明だし。トイレも行きたくならないしな。
「レオもこれを体験したのか? いや…、もしかしたらこれが地獄なのか? 退屈地獄とか、…ありえそうだな」
もしこれが地獄ならヤバイ。何もする事が無いって言うのはかなりつらいものがある。
そんな事を考えている時だった。景色がっゆっくりとなり始め、地球に似た星が見えてくる。
「お、着いたのか? だが、地球…じゃないよな」
地球に似て異なり、緑と青の多いい、綺麗な星だと思った。
その星を見ながら呆けていると、急に俺はその星に引き寄せられるような感覚が俺を襲った。
「うお! 引っ張られる!」
抗いきれない力、まるで引力や重力にも似た何かに引き寄せられ、俺はその星に入っていく。
体が無いはずなのに、風のような何かを感じながら俺は今。
蒼い空の上から落ちていた。
「うおおおおおおおおおおおお!? おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
周りは雲海といっていいほど絶景だった。
俺は叫んだ。恐怖で頭が真っ白で、体があったら確実に漏らしていた自信がある。
想像して欲しい。パラシュート無しで何かに思いっきり引っ張られながら上空何万フィートか分からない空から地面に落ちていく。待っているのはトマトケチャップになった新しい俺デビューである。
「ギャッギャッギャアァァス!!」
それに、下には見たことも無い程に巨大な怪鳥が群れを成し、奇怪な叫び声を上げて飛んでいた。
「うおおおおおおお!! ぶつかるっっ!!」
高速で落下しながら怪鳥目掛けて落ちていく。
俺は腕をクロスにして頭を守った。そんな事では防げないのは分かっているが、本能で頭を守る。
そして、俺は怪鳥に衝突……することは無かった。スルリと怪鳥の体を通り抜ける。
「ふぁっ!?」
自分でも聞いたことの無い間抜けな声が出た。
色々と衝撃な事態が起こりすぎて、この時の俺は自分が半透明なことを忘れていた。
怪鳥が上空にいる。それを呆気になりながら見送ると、厚い雲の海にダイブした。
薄暗い雲の中を落ちていき、雲の中から抜け出した瞬間、地上が見えてきた。
地上が丸く湾曲している。遠くには雄大に広がる山脈、そして海や森が広がっていた。
大自然、俺はその光景に目を奪われた。
「――すげぇ」
自分が落ちている事を一瞬忘れるほどの景色だった。
下を見ると、少し先に何かから守るように大きな城壁に囲まれ、段階的に大きな壁を挟みながら、上には大きな城が聳え立っている。
城塞都市と言うのだろうか。ファンタジーなんかで見る様な、中世的なデザインをした建物が密集していた。いや、工場のようなものもあるから文明的には進んでいるのか?
都市を先ほどまで上空で見ていたが、それもどんどん遠くに見えてくる。下には大きな山の麓にある畑や民家が見えてきた。
「やべぇ! 死んじまう!」
そして、山の麓ではなく、山の頂にある民家の内の一軒に引っ張られるように俺は落ちていった。
山の頂にある民家の屋根が目前に迫る。
激突する瞬間、俺の意識は途絶えてしまった。