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黒金のバレットロード  作者: 真田 幸松
第一章 [空を翔る者達]
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20話 [隠し事]

 「何で俺の体が銃になっちまってんだよおぉぉぉぉぉ!!」


 クロは自分の姿に驚きながら、家中に響き渡るような大声で叫んだ。

 魔導銃の赤い魔攻石が、クロの感情に呼応するかのように鳴動し眩しく光っている。


 「おい、そんな大声を出すと皆が起きてきちゃうだろ! 静かにしろよ!」


 僕は、手の中で騒いでいるクロに小声で注意しながら、クロが見つかった場合、自分がどうなってしまうかを考えていた。

 このまま家族や里の皆に見つかれば、クロは僕がどのような存在か、そして、クロが今まで里でやってきた事や、アマトとツバキの事だってある。それをを皆に話すかもしれない。

 早朝にもかかわらずクロが騒いだことにより、下の階からは父さんと母さんが階段を上がって近づいてくる音が聞こえ、それに合わせて隣の部屋にいるアマトとツバキの部屋の扉が開く音がする。

 このまま部屋に入ってこられれば、かなり面倒くさい、いや、それでは済まない事態になる。

 僕は、誰も入ってこない様に素早く扉の鍵を閉め、混乱しそうになる頭で今の状況をどう打破するべきか、否、どう隠し通すかに脳を回転させていく。


 やばいやばいやばい! このままじゃ、クロの存在が家族にバレてしまう! だけど、先程から手の中で騒がしく叫んでいるクロを落ち着かせる方法が思いつかない。

 僕は、焦りながら解決策を探すために部屋の中を見回した時、僕の部屋の扉からノックの音が聞こえて来た。


 「クロガネ? さっきからあなたの部屋で誰かが騒いでいるみたいだけど、一体誰なの? お友達かしら?」

 「クロガネ、ここを開けなさい。一体何を騒いでいるんだ? いや、誰が騒いでいるんだ?」

 「兄様? 何かあったのですか? 兄様?」

 「兄さん、どうしたの? 銃が何かと騒いでいたけど……」


 家族が扉の前に集結し、僕を心配してか早く扉を開ける様に行って来る。

 ドアノブがガチャガチャと鳴り、今にも扉が外れてしまいそうだった。


 「待って、ちょっと待って! 何でもないから! 直ぐ開けるから! だからちょっと待って!」


 まずはどこかに隠さないと!

 僕は部屋を見回しながら、机の上に置いてあった箱に目が行った。それは魔導銃が入っていた箱であり、厚みもあることから、中に入れれば多少はクロが喋っても外には聞こえないと思われた。

 僕は手に持っていたクロの声がする魔導銃を箱に投げ入れ、蓋を閉じる。クロが何やら僕に対して罵倒のような言葉を浴びせてきているようだが、蓋を閉じた事により余り外には聞こえない。これなら外で鳴いている怪鳥の鳴き声で緩和されるだろう。

 僕は念のため、そのまま箱に布団をかぶせ、クロの声を出来るだけ抑えるようにし、先程から扉の前で心配している家族に対して、どのように言い訳をするかを考えながら扉の鍵を解いた。


 「さ……騒いでごめんなさい。ちょっと興奮しただけなんだ。冒険者から貰った魔導銃が余りにもかっこよくて、それでちょっと騒いじゃっただけなんだよ!」


 僕が変になったと思われるかもしれないが、ここは仕方がない。クロの存在がバレないようにする為の苦肉の策であり、今はどうこの状況を切り抜けるかが重要だ。

 これで信じてくれればいいんだけど……


 「そうなの? でも、どうもクロガネの声ではなかったように思えるんだけど……」


 母さんが僕の部屋の中を見回し、僕以外の誰かを探している様だった。

 だよね、そうなるよね! 完全に僕の声じゃなかったもんね! でも、僕もここまで来たら引くことはできない。

 僕は一つ二つ咳をすると、喉を出来るだけ低くし、クロが発していた重低音の様な声に少しでも近づけ喋り出す。


 「ア、朝一番ダッタカラ、チョット喉ノ調子ガ悪カッタダケダヨ。ホラ、今モチョット喉ノ調子ガ悪クッテ……」


 重低音のような声を出すつもりが、高音の声になってしまった。

 第一、あんな耳に響くような重低音を練習もなしに簡単に出せる訳が無い。首をかしげる母さんの表情に、失敗したと僕は頬を引きつらせ、頬に汗が伝っていく。

 家族の前で苦笑いをする僕に、ツバキが心配そうな顔をしながら 両手を僕の喉に当て、ヒーリングの魔法を発動する。

 別段悪くなっか喉だが、ヒーリングを使われた事により、いつもより喉が軽くなったような気がした。

 心の優しいツバキは、僕の嘘を信じ、喉を回復してくれたのだろう。

 凶岩鳥から襲われたあの日から、ツバキはよりヒーリングの精度を上げるために練習と研鑽を重ねていた。

 母さんのヒーリングには一歩及ばない物の、それでも里で発生する怪我や病は、ツバキ一人で治せてしまう程に成長していた。


 「これでもう大丈夫ですよ兄様。麓の近くまでとはいえ、冒険者との慣れない旅路。疲れが溜まっていたのかもしれませんからね」


 そう言って、ニコリと花が咲くような笑顔を見せるツバキに、僕は嘘を吐いたことを心苦しく思いながら、ツバキに笑顔を向け礼を言う。


 「ありがとう、もう大丈夫みたいだ! 喉の調子も良くなったよ。流石ツバキだ」

 「そんな、お礼何て……。兄様の為なら私……」


 と、俯いて顔が見えなくなったツバキから目を離し時、僕はあることに気が付いた。

 母さんとツバキの後ろにいたはずの父さんとアマトが居ないのだ。

 僕が後ろを振り返ると、いつ入ったのか、僕の部屋のタンスを開けたり、天井裏を見ている二人の姿があった。

 僕がツバキにお礼を言っている間に、いつの間にか父さんとアマトが部屋の中に入っており、僕の部屋に誰かいないかと、隈なく探している様だった。

 一瞬焦ったが、どうやら布団の方には手を付けてはい無いようだ。布団は少し盛り上がるような形で置いてあるが、あそこに人が居るなんて思わないだろうし。

 それにしても、いつの間に入ったんだ? 全く気が付かなかった。父さんは分るけど、アマトはいつの間にあんな動き……

 と、そこまで考え、当たり前かと自分を納得させる。

 アマトは時代の里長になるかもしれない人材だ。多分、僕の知らない間に、相当厳しい修行を里長と供に行っているのだろう。

 言葉の使い方も紳士的になり、身長も六尺(約180cm)はあるだろうか? アマトが僕の長男と言っても、知らない人なら信じてしまう様な好青年へと成長していた。

 アマトは、僕の部屋を目で見える範囲をある程度調べた後、一安心といったような顔を浮かべていた。


 「兄さんの部屋からは人の気配はしないし。本当に誰も居ないみたいだね。僕はてっきり、誰かが兄さんの部屋に押し入ったのかと心配になったけど。兄さんならそれ位の相手は何とかしてしまうからね。兄さんが無事なら僕はそれでいいんだ」


 爽やかな笑顔と供に、年頃の女の子が聞けば確実に惚れてしまうであろうセリフを言いながら、僕の部屋を出ていくアマト。

 現にアマトは、外を歩けば女の子に群がられ、それに対して困った顔を浮かべずに爽やかな笑顔で応対するという完璧超人振りを発揮するのに対し、僕の場合、外を歩けば女の子達は僕を居ない者だとして扱い、話しかければ目に見えて嫌な顔か、怯える仕草をするという悲しい現実が待っている。


 「あ、そうだ兄さん。後で僕にも兄さんが興奮したっていう魔導銃を見せてね。楽しみにしてるから」


 そう言って、アマトは部屋に戻っていった。

 父さんは、黙って僕の部屋を見回し、新鮮を布団の方へと一瞬だけ向かわせた。

 僕は、背筋から冷や汗を流しながら、父さんに布団の中身を見られないようにと願いながら、動向を見守る。


 「誰も……居ないみたいだな。母さん、ツバキ、大丈夫だ、部屋に戻っててくれ。俺は朝から騒いだクロガネに一つ注意をしてから戻ることにする」


 そう言う父さんに、母さんは僕に一言「これからは朝に騒いじゃ駄目よ?」と言って下に降りていき、ツバキは、「余り厳しく叱らないでください」と、父さんに言って渋々部屋に戻っていった。

 僕は、クロが朝から騒いだ事により、周りに迷惑をかけたので、父さんに叱られることは分かり切っていたが、今はどうでもいいことだ。叱られようが、朝礼の修行が厳しくなろうが、クロの事がばれなければそれでいいのだ。

 

 僕がそう考えながら、父が叱るのを今か今かと待っていると、父はまた、クロを隠している布団に目をやり、僕の目をじっと見た後、口を開いた。


 「お前が何を隠しているのかは今は聞かない。だが、俺に何かできることがあるな何でも言ってくれ。俺はお前の父親だからな」


 そう言って、僕の横を通り抜け、扉を閉める途中、父さんは苦笑いをしながら、僕の顔を見た。


 「その何かを隠している時の顔、まるで俺の若い頃にそっくりだよ」


 そう言いながら、扉をゆっくり占め、階段を下りる音が聞こえた。

 

 (怒られると思ってたのに……)


 僕は顔を触りながら、父さんが最後に言った事を思い出して苦笑いを浮かべた。

 その時、鏡に映っっていた僕の苦笑いは、父さんが扉を閉める時にしていた表情とそっくりで、何やら可笑しな気分になりながらも、僕は布団の方に目を向ける。

 先程までは混乱していたが、父さんのおかげで冷静を取り戻せたような気がする。


 僕は部屋の扉を開け、向こう側に誰もいないことを確認した後、クロの入った箱を布団から取り出し、今だ聞こえて来る罵声にうんざりする。でも、これは僕が作った原因だ。

 あの時、クロを撃った僕は、罪悪感と罪の意識に押し潰されそうになり、後悔の念が僕の心を埋め尽くした。

 クロともっと話し合い、何か他に方法が無かったのかと、何か別のやり方があったんじゃないかと。

 そんな後悔の念が頭の中をぐるぐると回り、気付けば暗く何も見えない空間に落ちていた。

 でも、落ちたおかげで、クロが言っっていた記憶を思い出すことが出来た。

 そして今、僕の手の中には、何故か魔導銃に姿を変え、生きながらえているクロが居る。

 偶然かもしれないが、今までの行動全てが繋がっている様な、そんな奇妙な感覚がした。


 「まずは、誰も居ない所で考えるかな」


 タンスから予備の下駄を取り出し窓を開けた後、僕は片手にクロの入った箱を持ちながらフライを発動し、怪鳥の居ない静かな森まで飛んで行った。

 

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