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黒金のバレットロード  作者: 真田 幸松
第一章 [空を翔る者達]
17/20

17話 [幼き日の記憶4]

 俺は今、薬師の婆様の所を後にし、アマトとツバキを見つけるため、一つ目の山を越えようとしていた。


 「疲れた、もう限界だ」


 いや、ここまで頑張と自分を褒めてやりたいぐらいだ。7歳という幼い体で山一つ越えたのだからな。

 俺は息を整えながら、鬱蒼と茂る森を見回す。

 人の気配は無く、目に映るのは乱立する大きな木、そして前世では考えられないような奇怪な魔物達。

 ここまで来る途中に、何度か魔物の襲撃にあったが、木々の合間を縫い、フェイントなどを入れて逃げ果せている。

 四本の手を持つ猿に、3mはあるかという巨大なムカデ。今も目の前には、俺の体程ある芋虫が木々をよじ登り、枝ごとムシャムシャと葉を食っている。

 これ以上、地上を移動するのは危険だ。


 「…魔法を使うしかないか」


 そろそろ魔法を自分で使い、効果や威力などを確かめる必要がある。

 記憶と体感では、雲泥のさがあるからな。

 それに、これだけ時間が立てば、魔力も少しは回復したと思われるだろう。

 

 「手始めに、自由飛行フライから使ってみるか」


 人は一度は思った事が無いだろうか? 空を飛んでみたいと。それが今この瞬間、魔法という手段をもって実現するのだ!


 「いくぞ! 自由飛行フライ!」


 魔法は本来、声に出さずともイメージだけで発動可能だが、最初は声に出し、イメージしながら発動することにより、成功率が飛躍的に上昇するそうだ。

 クロガネも最初は声に出して発動し、練習していたようだしな。

 俺は、自分が空に浮くイメージを想像しながら自由飛行フライを発動すると、足が地面からゆっくり離れ、イメージ通りに上昇していく。


 「おぉ、これが肉体で空を飛ぶ感覚か」


 魂の時の浮遊と似ている所もあるが、決定的に違うのは肉体の有無だ。

 肌で風を感じ、重力に逆らっているという浮遊感。

 興奮が抑えきれず、アドレナリンがドバドバと脳内で分泌され、空を飛べるという幸福感で満たされる。


 「すげぇな、魔法って奴は。今なら何でもできる気がしてくるぜ」

 

 空中で、旋回や急降下、急上昇に急停止など、自由飛行フライで出来うる事をあらかた試し、次に攻撃魔法を試すことにする。


 「次は、風の飛刃カマイタチでも使ってみるか。何か練習台になる奴は…、お? あの芋虫の魔物なんて丁度いいな」


 一度地上に降り、ムシャムシャと一心不乱に葉を食っている体調1m弱の芋虫型幼虫に狙いを定め、 風の飛刃を放つイメージをする。

 空気を圧縮し、高速で回転させながら飛ばすイメージ。そこに魔力を使いながら、俺は魔法を唱える。


 「風の飛刃カマイタチ!」


 飛ばされた風の飛刃は、芋虫の胴体を難なく切断し、辺りに緑色の体液をまき散らす。

 切断された芋虫は地面に落下し、キーキーと鳴き声を発しながらジタバタと暴れもがいている。


 「うっわ、かなりグロい光景だな」


 前世の戦場では、兵士が地雷や固定機関銃でバラバラにされるなんてそう珍しい光景ではなかったが、人間以外の生物がこうなってしまうと、何かグロいと感じてしまう。

 まぁ、やったのは俺なんだがな。

 少しすると、芋虫の魔物は動かなくなり、その死骸を食べるために他の昆虫型の魔物が群がってきた。これが自然、食物連鎖というものか。

 俺は、その光景を空中で見た後、風の飛刃カマイタチを飛ばした時に傷ついた大木を観察する。


 「中々の切れ味だな。芋虫を切断した後でも切れ味が余り落ちてねぇ」


 芋虫を貫通し、大木に10sm程の切れ込みを入れていた。

 子供の俺が使ってこれだ、大人が使えばこれ位の大木は切断できてしまうだろう。


 「おっと、魔法の練習はこれくらいにして、そろそろ迷子の二人を探さねぇとな」


 大木を後にし、空を飛行しながら山を越え、目的の禿山の上空に到着する。

 禿山は、山の中腹までしか森が茂っておらず、まさに禿た山といった感じだ。


 「さて、ど、こ、に、い、る、か、なぁ?」


 俺はクレーターの様に陥没した山頂を見渡し、それらしい人影を発見する。

 大きな岩の上で休憩しているようだ。


 「おっ、いたいた。ったく、迷惑かけやがって。連れ帰ってモミジに今日の事を説教してもらうか」


 俺がアマトとツバキの方に飛んでいこうとしたその時、上空の雲を割り、二人の方に高速で接近する巨大な魔物を目の端で捉えた。


 「な、何だ? あのでかい魔物は?」


 その魔物は、二人の休憩している岩場に急降下していく。

 魔物に驚き、一瞬思考を止めたが、すぐに魔物の狙いが二人だという事に気付く。


 「おい! お前ら避けろぉぉ!」


 こんな上空から声を掛けても気付かれない事は分っていたが、叫ばずにはいられなかった。

 そして、声が届いたのかどうかは分らないが、アマトがツバキを脇に抱え、魔物の攻撃を間一髪のところで回避する。


 「あ、あぶねぇ……」


 俺は二人が無事な事に安心し、すぐに二人の下行くために急降下を始めようとした時、雲の合間から、何か大きな影が見えたような気がした。


 「まだ何かいるのか!」


 あんなデカいのが二体居る場合、最悪手が回らなくなる可能性がある。

 それに、ヤバくなったら下にいる二人も自由飛行フライを使って逃げるだろう。

 この状況では、逃げた先での挟み撃ちが一番厄介な事になるのは目に見えていた。

 俺は、二人を助ける事を一時中断し、上空にいるもう一体を相手にするため急上昇しながら、厚い雲の中に突っ込んでいった。

 しかし、雲を抜ける直前まで見えていた影は、雲を抜けた瞬間には影も形も無くなっていた。

 辺りに広がるのは、蒼穹の空と一面に広がる雲海のみだった。


 「見間違いか?」


 確かに何か居たような気がしたんだがな。

 まぁ、居ないのならそれでいい、それよりも早く二人の下に急がねぇと。

 俺はすぐさま雲に潜り、二人の下へ急ぐ。

 雲を抜けた先に俺が見たものは、二人と魔物を覆うドーム状の風の膜と、魔物に突き飛ばされ、岩にぶつかるアマトの姿だった。

 その光景を見た瞬間、俺の胸の奥が熱くなり、怒りと焦りがクロガネの魂から伝わってきた。

 クロガネの意識は眠りについているが、俺を通してクロガネの魂が警告を発しているのだろうか?

 俺はクロガネの記憶から、あの魔物がどういう魔物なのかを知ることが出来た。

 【子に災いを運ぶ魔物】と呼ばれている存在、名を凶岩鳥。

 俺は、凶岩鳥の特性と性質、凶岩鳥が張ったとされる風魔法【風の鳥籠(エアロケージ)】をどう破るかを考えたが、このまま突っ込んでも弾かれてしまうのが落ちだという考えに行きついてしまう。


 「何かないのか! 何か使える魔法は!」


 クロガネの歩んできた人生の記憶を、片っ端から思いだしていく。

 親から教えてもらった技術、魔法、特技、何でもいい。今この状況を打破できる何かがあれば!

 俺はクロガネの記憶を現在から過去へと遡っていく。

 ハヤブサからの魔法授業。母の料理。初めての魔法。弟と妹の誕生。二足歩行で立った瞬間。母の手の中で眠るクロガネ。

 そして、クロガネが母親から生まれ、光を浴びたその瞬間まで行きついた。

 そして、そこに俺が求める答えがあった。


 「有るじゃねぇか! とっておきの魔法がよ!」


 この魔法の名前は知らない。きっと、クロガネが赤子の時に、本能で発動させた魔法なのだろう。

 この魔法なら風の鳥籠(エアロケージ)を突破できるはずだ。

 俺は意識を集中させ、まずは体全体に特殊な魔力のオーラを纏う感じでイメージしていく。

 すると、魔力のオーラが体を覆っていき、魔力のオーラだけで体を操作出来るようになっていた。


 「よし、上手くいったな。次は――」


 俺は、体を覆っていた魔力のオーラを頭部に集め、そこから髪へと行き渡らせると、髪が魔力のオーラによって自由に操作出来るようになり、オーラに魔力を多く渡すことによって、髪がどんどん延びていくのが分かった。

 延びた髪は、俺の魔力操作によって束ねる事により、鋼の強度と化しており、それらを体を覆うように巻き付けていく。

 イメージするは、あらゆる敵を両断し、大切な者を守る為の巨大な(つるぎ)

 黒髪は、イメージした通りに俺の体にシュルシュルと巻き付き、剣の形を成していく。

 剣を形成している最中、ツバキに襲い掛かろうとしている凶岩鳥が目に入った。


 「この糞害鳥がっ! 真っ二つにしてやるよ!」


 落下地点をツバキの目の前に落ちるよう魔力で操作し、加速しながら落下していく。

 凶岩鳥の張った風の鳥籠(エアロケージ)に衝突するまで、あと数秒という所で、黒髪が俺の体全体を覆い、巨大な黒剣が出来上がる。

 少し息苦しいが、あの害鳥を殺すまでの辛抱だ。

 黒剣は、ヒューと風切り音を立てながら落下していき、凶岩鳥の風の鳥籠(エアロケージ)を貫通する振動がきた瞬間、ドズンッ!という落下音と衝撃が、俺の体を骨の芯から揺さぶった。

 黒剣の中は、衝撃に備える為に髪をショック材の様に束ね、衝撃を吸収するような作りにしていたはずだが、やはりこの程度じゃ衝撃を吸収出来なかったらしい。


 「~つぅ、体中が痛てぇ」


 ビリビリする体を我慢しながら、凶岩鳥を倒したかを確認する為に魔法を解く。

 シュルリと音を立てて崩れていく黒髪の中から、俺はズルリと顔を出した。

 凶岩鳥を殺せたかと思ったが、眼前に居るのは、掠り傷も負っていない無傷の凶岩鳥。

 チッ、避けられてんじゃん。勘のいい奴だな。

 だが、俺が奇襲を仕掛けた事で、魔力操作が疎かになり、周りを囲っていた風の鳥籠(エアロケージ)が無くなっている。


 凶岩鳥は、俺を攻撃せずに鋭い目で睨みながら、食事を邪魔した俺に対して殺気を放っていた。

 俺は睨んでくる凶岩鳥に対し、同じように睨み返しながら、自分の髪が元に戻るまで待つ。

 どうも凶岩鳥は、空から降ってきた得体の知れない俺に対して警戒している見たいだな。俺も髪を地べたに晒した状態で戦いたくはないから正直助かるが…。

 それにしても、近くで見ると馬鹿みたいにデカいな、これが凶岩鳥か。

 鶏の胴体に、鷹の翼と脚を付け、岩と鋼を融合したような体をしているな。

 成る程、ハヤブサが言っていた通りの風貌だが、生で見るとその凶悪ぶりが良く分る。

 ったく、何で魔物は何奴も此奴も出鱈目な身体してやがるんだ?


 っと、思考が横道にそれたな。

 俺は、アマトとツバキの安否を確認する為に、凶岩鳥を警戒しながら、半身になって振り返る。

 すると、うつ伏せに倒れながら、信じられない物を見るかのように俺を見るアマト。

 そして、尻餅を付いたまま、同じように信じられないと言った顔で俺を見るツバキ。

 二人は、目と口を大きく広げ、仲良く|アホ面を晒していた。

 こんな顔が出来るんだ。まだまだ余裕がある証拠だな。

 俺は少し安心しながら、軽く二人の状況を確認する。

 アマトは、突き飛ばされた衝撃で、体を自由に動かせないようだ。

 ツバキは、恐怖で腰を抜かしたようで、体が小刻みに震えている。

 俺が二人を見ていると、二人は探る様に口を開いた。


 「あ、兄貴? なのか?」

 「クロガネ……お兄ちゃん?」


 何で疑問形なんだ? 正真正銘、お前達のお兄ちゃんなんだけどな?

 俺も同じように疑問に思っていると、二人の目線が、俺の伸びた黒髪へといっていることに気が付いた。

 あぁ、成る程。俺が使っているこの種族魔法の事を見たことが無いからか。

 まぁ、仕方ないよな。クロガネ自身、この種族魔法を使えることを知らない、と言うより忘れている訳だし。

 だが、ハヤブサとモミジは知っているはずだ。…二人に教えてないのか?

 っと、今はそんな事考えてる暇はない。丁度、俺の髪も元の長さに戻ったし、ここは兄の威厳を取り戻しつつ、余裕の笑顔で二人を安心させてやるか!

 俺は、自分が作れる最大限の笑顔を二人に向けながら、颯爽と現れるコミックヒーローの様な口振りを意識する。


 「間一髪だったなぁ?」


 どうだ!この素敵な笑顔、完璧じゃね?

 もし、俺が逆の立場だったら惚れてるね!いやぁ、我ながら完璧と断言できるわー。


 「ほ、本当にクロガネお兄ちゃんなの?」


 …なんだと?

 この完璧な俺の笑顔が通用しない?いや、そんなハズが無い。きっと、あの凶岩鳥のせいで懐疑的になっているんだろう。

 俺が来た時も、凶岩鳥に食べられる寸前で、恐怖に体を震わせていた訳だしな。五歳の子供にとってはトラウマ物だろう。


 「……ほら、掴まれ」


 俺は、震えて立つことが出来ないツバキに手を伸ばす。

 ツバキは、俺の顔を見て、一瞬だけ躊躇うような仕草をしたが、ゆっくりと俺の手を取り立ち上がった。


 「怖かっただろ? もう大丈夫だ」


 俺はそう言いながら、ツバキの頭を軽く撫でてやる。

 すると、撫でられて安心したのか、ツバキの目からは涙がぽろぽろと落ち、鼻水の垂れる顔を真っ赤にしながら俺に抱き、泣いた。

 俺は、そんなツバキの頭をまた撫でてやろうとした時――


 「クカカ!クカカカカ!」


 耳を(つんざ)くような凶岩鳥の鳴き声によって、泣いて赤かったツバキの顔から血の気が引き、真っ青になってしまった。

 どうやら、兄妹の時間はこれにて終了らしい。

 凶岩鳥は、翼をクロスさせるように勢い良く降ると、鋼の翼が投擲ナイフの様に飛んできた。


 「おぉっと!」


 俺はツバキを脇に抱え、自由飛行フライを使って上に飛ぶことで回避する。

 ツバキを抱えたままの戦闘は危険だ。いや、十中八九負けて食われる。

 アマトとツバキを遠ざけて、俺と凶岩鳥の一対一(タイマン)に持ち込まねぇと勝機が無い。

 俺は、飛んでくる鋼の羽を空中で回避しながら、アマトとツバキをどうするかを考える。

 確か、ツバキは治癒魔法(ヒーリング)の魔法が使えたな。それ使ってアマトの怪我を治してもらって、その後も大人達に助けを呼びに行ってもらうか?

 だが、もし村まで行って助けを呼んで来てもらうにしても、10~15分は掛かるだろうが、それが現状で取れる一番の策になるのか…。

 俺は脇に抱えているツバキに、これからの事を説明する。


 「いいかツバキ。俺が今からあいつの気を引きながら戦うから、その間にアマトの怪我を治癒魔法(ヒーリング)で治して、アマトと一緒に大人達を呼んでくるんだ」

 「危険だよ! クロガネお兄ちゃんが食べられちゃうよぉ!」

 「このままじゃ三人ともアイツに食われてお終いだ。それなら、お前達に助けを呼んで来てもらった方が、俺の助かる確率も上がるんだ」

 「で、でも…」


 ツバキは俯きながらも、自分が今出来ることを必死になって考えているようだった。

 だが、もう考えていられる時間は無い。


 「飛ばすぞ! ツバキ!」

 「え? 飛ばすって――キャァァ!」

 「兄貴、何して――」


 俺は、脇に抱えたツバキを、アマトの所へ思いっ切り投げ飛ばした。 

 ツバキは、アマトに衝突するギリギリの所で自由飛行フライを使い空中で停止した後、よろよろとアマトの近くに寄っていく。

 アマトは、凶岩鳥の攻撃のせいでダメージが残っており、上手く立てない為、腹這いになってツバキに近づいていく。


 「アマトお兄ちゃん! あんまり動いちゃ駄目だよ! 直ぐに治癒魔法(ヒーリング)で治してあげるから」

 「ぐっ、助かるよ、ツバキ」


 ツバキは、アマトを仰向けに寝かせると、両手をアマトの胸に当て、治癒魔法(ヒーリング)と唱える。

 すると、両手から温かい光が溢れだし、見る見るうちにアマトの傷を治していく。

 アマトは、ツバキに怪我を治して貰いながら、クロガネが戦っている姿を見ていた。


 「兄貴は、何て言ってたんだ?」

 「クロガネお兄ちゃんが囮になるから、その間に私がアマトお兄ちゃんの傷を治して、一緒に助けを呼んで来いって」

 「兄貴が囮? そんなの無茶だ!」

 「でも、そうしないと皆食べられちゃうって……」


 クロガネの言ったことは正しく、今はクロガネに攻撃が集中しているが、いつ動けないアマト達に攻撃の矛が向けられるか分らなかった。

 回復されなければ体も動かせず、残り魔力も少ない自分がここに居ても、足手まといにしかならないのは、火を見るよりも明らかであった。 


 「……クソっ! 何が特別だ! 一人でいい気になって、調子に乗ってこの様かよ…」

 「アマトお兄ちゃん……」


 いつも、余裕の笑みを見せていた兄であるアマトが、目の前で拳を握り締めながら、悔し涙を浮かべていた。

 目の前では、見下し、蔑んでいたはずの兄が、自分達の為に命を懸けて戦っている。

 あの姿を見て、自分達が兄に向けていた感情が、どれだけ愚かだったのか理解するのには十分だった。


 「…ふぅ。終わったよ、アマトお兄ちゃん」

 「ありがとう、これで動ける!」


 治癒魔法(ヒーリング)は、魔力と集中力を多く使うため、ツバキの額には大粒の汗が浮かび、今にも倒れてしまいそうだった。

 このままでは自由飛行フライを使うことも出来ないだろう。

 アマトは直ぐさま立ち上がり、ツバキを背負うと、クロガネに向かって大きく叫ぶ。


 「兄貴! ……いや、兄さん! これから直ぐ村に助けを呼んでくる。だから、それまで絶対に死なないで! 絶対だよ!」

 「クロガネ……お兄ちゃ……」


 どうやらツバキの治癒魔法(ヒーリング)で無事に回復できたようだな。

 後は、この鶏野郎を二人の下に行かせずに、二人が助けを呼ぶまで時間を稼ぐと――

 自分から言っといて、中々にハードだな。

 凶岩鳥は、二人が逃げると勘づくと、逃がすまいと、風の飛刃カマイタチと鋼の羽を同時に二人の下へ飛ばし、殺しに掛かった。


 「させるかよ!」


 俺は、髪に魔力のオーラを纏わせ、(てのひら)4mはある一本の巨大な黒い手を構築する。

 黒い手は、黒い剣と同じように髪を束ね、鋼のような強度と化しており、俺はその黒い手で、アマト達に向かう凶岩鳥の攻撃をガードする。

 鋼が衝突する音と、風の魔法が破裂する音が辺りに響き渡る。


 「早く行け! そう何度も守れないからな!」


 アマトはコクリと頷くと、ツバキを背負って村の方へ飛んで行く。

 それを見た凶岩鳥は、翼を大きく広げると、二人の後を追うために飛び立とうとするが、俺がそんな簡単に行かせる訳が無い。

 俺は、髪で出来た黒い手を凶岩鳥の足に絡みつけた。


 「これで飛べねぇだろ! 落ちろ!」

 「クカカッ!?」


 ドズンと地響きが辺りを震わせ、凶岩鳥が大の字で地面に横たわる。

 直ぐに凶岩鳥の足から黒い手を放し、凶岩鳥の真上に飛ぶ。

 俺は放した黒い手を拳骨の形にし、上空で大きく振りかぶりながら振り下ろした。


 「グガッ!」


 振り下ろした拳骨は、凶岩鳥の胴体に直撃し、硬質な皮膚の破片が辺りに飛散させ、体半分を地面にめり込ませていた。


 「ハハハッ! まるでペシャンコになった蛙だな!」


 っと、俺の悪い癖だな。

 いい攻撃が何かが決まると出ちまう笑う癖。油断を生むからとよく注意されたが、どうしても出ちまうんだよなぁ。


 「クカカカカァァァァ!」


 凶岩鳥は、羽を使いながら立ち上がり、目の色を真っ赤にしながら怒りをあらわにしている。

 あぁ、立っちゃう? まぁ、立てちゃうよね。黒の手は強度は鋼並みだけど、元は長くなっただけの俺の髪だし。重さも余り無いせいか、攻撃も余り効いていないな。

 凶岩鳥は、俺に向かって風の飛刃カマイタチや鋼の羽を飛ばしてくるが、自由飛行フライを使って飛びながら回避し、避けられないものは黒髪で防御する。

 この害鳥、遠距離攻撃はこの二つしか持ってい無いのか? 見た目は岩っぽいし、土属性の魔法でも使いそうなんだけどな。飛ばしてくる鋼の羽も再生はしてはいないみたいだし、このまま飛ばし続ければ七面鳥になっちまうな。


 「まぁ、見るからに肉は硬くて食えなさそうだけどな」

 「クカカカァァ!」


 俺がそう言って笑った時、背中に鈍い衝撃が走った。

 ぐおっ!な、何が起こりやがった。

 そう思た瞬間、顔のすぐ横を後ろから何かが高速で飛んで行った。

 俺は黒の手で背中を守りながら急上昇し、何が飛んで来たのかを確認し、直ぐに飛来物の正体が何なのかが理解できた。


 「この害鳥! やっぱり土魔法が使えるじゃねぇか!」

 「クカカカッ!」


 凶岩鳥は、してやったりと言う様ないやらしい顔を浮かべ、俺のことを挑発してくる。

 あれは確か、土属性魔法の初級技【弾岩(ストーンバレット)】だったか?

 こいつ、今まで風の飛刃カマイタチと鋼の羽の二つで油断させて、後ろから弾岩(ストーンバレット)で攻撃する腹だったのか!

 食うだけしか脳のない奴だと思っていたが、魔法が使える時点で、ある程度の知能を持っていても可笑しくない。迂闊だった。

 だが、地面と距離があったお陰で、そこまでダメージを受けずに済んだ。額に脂汗を浮かべる程度には痛いがな。


 「クカカカァァ、クカカァァ!」


 凶岩鳥は、追い討ちをかけるように弾岩(ストーンバレット)と鋼の羽を同時に飛ばしてくる。

 これ以上、この小さな体に攻撃を食らうのはヤバい。

 俺は髪を操作し、死角が無くなるよう防御するため、自分の周囲を囲むよな球体上の形にする。

 球体の外からは、忙しなく攻撃を反射している音と振動が響き渡り、数枚の鋼の羽が、防御を貫通しめり込んでいた。


 「うおっ、やべぇ。このままじゃ突破される」


 だが、そろそろ奴の残りの魔力量も少なくなってきたはずだ。

 こんなに魔力を馬鹿みたいに使って、魔力が無くならないはずがない。

 俺も魔力のオーラの使い過ぎで、残り魔力が3割あるかどうかに差し迫ってる。

 現に、今だって俺の防御を突破できず、外からの攻撃頻度が減ってきている。

 俺がそう考えを巡らせていた時、俺のガードを何かが突き破ってきた。

 凶岩鳥の爪だ。

 

 「マジかよ! あの鶏野郎、直接攻撃してきやがった!」


 凶岩鳥は、そのまま自分の体重を一身にかけ、空中から俺を地面に叩きつけようとする。

 ヤバい、このまま叩きつけれれば防御ごと潰される!

 だが、爪で髪を掴まれているせいで、防御を解くことも出来ない。

 解いても元の髪の長さに戻るまで時間がかかる。

 俺は、魔力枯渇ギリギリまで魔力を使い、球体の大きさを狭め厚みを増し、強度を今出来うる限界まで引き上げる。

 その瞬間、俺の体に、黒の剣で落ちて来た時とは比べ物にならない程の衝撃が体を襲った。


 「ごふっ!!」


 球体の中で、数回体を周りに打ち付け、意識が飛びそうになる。

 だが、ここで気絶してしまえば、防御が解け、凶岩鳥に食われてしまうだろう。

 意識を保つために、唇から血が出る程に噛みしめ、防御の維持に全力を注ぐ。


 しかし、凶岩鳥は俺の球体が一度の攻撃では壊れないと分ると、俺の防御を掴んだまま飛び、どんどん高度を上げていく。


 「こいつ! また俺を叩きつけるつもりか!」


 もう一度叩きつけられれば、確実に潰される。

 もう俺の魔力は残り一割を切り、防御している髪も、先程こめた魔力の余韻が残っているから機能しているようなもんだ。

 魔法は使えて後一回が限界。そして、使えば俺は、魔力枯渇で気絶し、食われてしまう。

 完全に摘んでいる状態だ。


 しかし、前世の戦場でも、こんな危機は何度もあった。傭兵なら珍しいことでもない。

 だが、そんな危機を俺は何度も乗り越えてきたはずだ。

 球体の中で浮遊感を感じながら、この状況を打破するため、頭を全力で回転させていく。


 どこかにアイツの弱点があるはずだ。

 体は岩で出来ているかのような硬質な皮膚で、俺の攻撃でもビクともしない。

 あの下に心臓があるそうだが、心臓がどの位置にあるのかわからない以上、闇雲に突き刺しても反撃を食らって終わってしまう。


 「クソっ! どこかアイツの体にやわらかい部位さえあれば、何か勝てる糸口が掴るかも知れないのによ!」


 俺は悪態を吐きながら、球体の壁に拳を打ち付ける。

 だが、その衝撃で、今まで懐に入れたまま忘れていた小太刀が、俺の足元に落ちてしまった。


 「こいつは……。――いや、だが生き残るにはこれしかねぇ」

 

 足元に落ちた小太刀を見た瞬間、俺は釈迦の手の平から落ちる一本の蜘蛛の糸のような、危うい一筋の光明が見えた気がした。

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