16話 [幼き日の記憶3]
魔力の発動の仕組みを少々変更しました。
魔法を発動させる際に、体内にある魔力を、使いたい魔力に変化させる。
という形に変更しました。
種族による属性魔法の得手不得手はそのままです。
度重なる変更申し訳ありません。
遠ざかっていくモミジに見送られながら、薬師の婆様の所へ歩いていく。
記憶によると、薬師の婆様は、里の景色が一望できる場所に住んでおり、少し山を登らなくてはならない。
俺は薬草の入った籠を両手に持ち、里の中を歩いていく。前には、アマトとツバキが仲良く並んで歩いていたが、こちらを全く見ようとしないし、話しかけても来ない。
ここまで分りやすく嫌われてしまうと、クロガネが何か嫌な事でもしたんじゃないか?という気になってくる。
一応、そんな事が無かったか、クロガネの記憶を一通り確認したが、どうもそんなことは無いようだ。
高鼻者による精神の変化だとしても、兄弟でありながら、ここまで他人行儀になってしまうものなのかと、少し違和感を感じるな。
記憶では、クロガネにはそういう兆候は無いようだ。高鼻者にならないのは、俺の魂が影響している可能性があるのかもしれないな。
俺は、前にいる二人を見ながら、答えの出ない自問自答をし、目的の場所へ歩いていく。
モミジが見えなくなった後、里の中を見回すと、七年という歳月で、あまり変わっている所は無かった。
しいて言えば、瓦屋根が前見た時より新しくなっており、畑も随分と増えたようにも感じる。
里の畑は、山の斜面を利用した段々畑と呼ばれるもので、まるで階段の一つ一つに畑が様な、不思議な光景が広がっていた。
俺は、自分の記憶と、クロガネの記憶を比べながら、変わった所をつぶさに観察していく。
きょろきょろと里の中を探索していると、目の前のアマトとツバキがおらず、俺の真上に2つの影が横切った。
「くそっ! 油断した!」
俺は餓えた怪鳥かと思い、咄嗟に懐の小太刀に手を伸ばし、戦闘態勢に入りながら上空を見上げる。
しかし、そこにいたのは餓えた怪鳥ではなく、ふわふわと浮くアマトとツバキであった。
「何してんの? ツバキたちは先にいってるからねー。こんなの空飛んでけばすぐだし」
「俺達は先に行って来るから、兄貴はのこのこ歩いて来ればいいよ。んじゃ、お先に」
2人はすごいスピードで、薬師の婆様の住む家まで飛んで行ってしまった。
「マジかよ、本当に俺の弟妹か? 薄情すぎるだろ…」
俺は懐に手を入れたまま、呆気にとられ、立ち尽くしていた。
あの二人はきっと、その場の空気を読んで、母親のモミジが見えなくなるまで俺に付いて来ていただけだった。
見え無くなればこの有様である。全く以て度し難い。
俺は溜息を吐きながら、目的地まで歩いて行った。
「まったく、何が歩いて直ぐだ、一時間は掛かったんじゃねぇか?」
俺は今、里が一望できる大樹の上にいた。
薬師の婆様は、10mはある大樹の上に家を作っており、俺は初めてツリーハウスというものを生で見た。記憶では知るのと、生で見るのとでは、やはり迫力が違うのだ。
大樹には、木の表面をぐるりと周回するように差し込まれた階段が設置されており、外から嫁いできた飛べない種族にも利用できる仕組みになっていた。
薬師の婆様の家は、不思議な薬草や魔物の素材のせいで、まるで魔女の家の様な不気味さを放っている。
いや、魔法が使えるから魔女の家であっているのか?
そんな事を考えながら、俺は扉をノックし用件を言う。
「父さんに言われて薬草を届けに来ました」
すると、扉の奥からは婆様の嗄れ声が聞こえてくる。
「入っておいで、クロガネの坊やだろ?」
俺は扉を開け、一歩部屋に入ったその瞬間、部屋中を満たしている異様な匂いに鼻を摘みたい衝動に駆られた。
部屋の中は、薬品や薬草、魔獣の素材で、これぞ魔女の家って感じを表しており、そこから出される匂いもまた強烈であった。
しかし、鼻を摘めば失礼に当たるだろう。俺は匂いをぐっと我慢し、薬師の婆様の前まで行く。
薬師の婆様、名をババロアと言い、里の皆からは、婆様と愛称で呼ばれている。
この村には何百年も前に嫁いで来たが、嫁いで来てすぐに事故で夫を失ったことで子も出来ず、薬師として村に住む事になったそうだ。
里長ともかなり古い仲のようで、酒を酌み交わし、昔話に花を咲かせているようだ。
種族は長命と美しさで名高いエルフと呼ばれる存在で、昔はかなり美人だったらしいが、今では俺と変わらない伸長に曲がった腰。
長く伸びた白髪に、皺のよった顔には年季が入り、エルフの美しさは、もう微塵も残っていはいなかった。
しかし、その紫の瞳には、若かりし頃を彷彿とさせる力強い光を感じさせた。
俺は失礼のないように行動しようと心に決め、婆様の前にあるテーブルに籠を置く。
「これが、婆様に届けるように言われた薬草です」
「随分と遅かったねぇ? 何かあったんじゃないかと心配で心配で、探しに行こうかと思ってった所だよ?」
「ごめんなさい、次からは気を付けます」
「無事ならそれでいいんだよ。後、そんなに畏まらなくたっていいんだよ? この里の子供たちは、皆私の孫みたいなもんだからね。年寄は孫に甘えられるのが一番幸せなのさ」
そう言いながら、優しく微笑む婆様からは、優しく包み込むような、不思議な温もりを俺は感じた。
あぁ、これがお婆ちゃんと言うものなのか。この不思議な温かさをずっと感じていたいという気持ちになってしまう。
まぁ、この部屋のから漂う、鼻が曲がる様なカオスな匂いさえ無ければの話だがな。
俺は匂いを我慢しながら、辺りを見回し、あることに気付いた。
「そう言えば、先にアマトとツバキが来たと思うんだけど…」
俺は、板についてきた子供の仕草と喋り方を織り交ぜながら、婆様に質問する。
「アマトとツバキかい? 二人にはさっきまで珍しい魔物の素材や薬草を見せてたんだけどね。そこである薬草を切らしてた事を思い出したのさ。そこで、二人にお使いを頼んだんだよ。それで丁度クロガネの坊やが来たのと入れ違いの形になってしまったようでね。でも、そろそろ帰って来てもいい頃なんだけどねぇ…」
「お使いって、何を頼んだの?」
「この時期に咲いている珍しい薬草を取って来てもらおうと思ってね。薬草の名を【キズナナオシ】と言ってね、この山のから二つ先に行った場所に、禿山と呼ばれる山があるんだけどね。その山頂の岩場に自生する青い花の薬草がキズナナオシさ。それを使うと七つの傷が一度に治ってしまうんだよ」
七つの傷を治す薬草。
なんか微妙な効能だな。まぁ、異世界だし、そんな変な薬草があっても不思議じゃないのか?
「アマトとツバキは飛べるから、もう帰って来てもいい頃合いなんだけどねぇ? 心配だから、ちょっと見に行ってくれないかい? 私ゃ、腰が痛くて動けないんだよ。入れ違いにならないよう、もし2人が帰って来たら、ここで待っとく様に言っとくから大丈夫だよ」
このまま帰ってもいいが、そんな事すれば母親のモミジから怒られる事は確実。
面倒だが、ここは行った方がいいな。もしもの事も考えられるし。
「分った、じゃあ、ちょっと2人を探しに行って来るね」
「ごめんなさいね、気を付けて行ってらっしゃい」
目指すは山の頂、怪鳥飛び交う魔の領域だ。
俺は扉を開け、外の新鮮な空気を吸い込みながら、森の斜面を登って行った。
クロガネが出て行ったあと、ババロアの後ろにあった扉がゆっくりと開かれ、黒い人影が扉の隙間から現れる。
「クロガネの坊やは山頂へ向かったよ。アマトとツバキを探しにね」
「ありがとうございます、婆様。いつもいつも、このような役をお任せしてしまい、心苦しく思っております」
「いいんだよ、これも年寄の役目さね。お前の時も同じように、お前の父親から頼まれたものだよ」
ババロアはアッハッハと楽しそうに笑いながら、あの時の事を思い出しているようだ。
「それで、首尾はどうなんだい? 里長にも協力はしてもらってるんだろ?」
「はい、里長も、もしもの時の為にと来てもらっています」
「そうかい、それなら安心だねぇ。…あぁ、そうだそうだ、お前さんに聞きたい事があったんだよ」
「なんでしょうか?」
ババロアは、話の途中で何かを思い出したように扉に向かって話し始める。
「なんでクロガネの坊やは魔法を使わないんだい? 2人を引き留めるのにえらい苦労させられたよ」
「あぁ、それはですね…」
扉の隙間から、黒い人影がクロガネの今日の出来事を、事つぶさに報告する。
「魔力枯渇させたのかい? それにしては体に魔力が満ち満ちていたがねぇ?」
「私も驚かされました。魔力枯渇を起こしたはずなのに、数時間後にはケロッとした様子で朝食を食べ始めたのですから。やはり、あの子も何かしら特別な力があるのでしょう」
「成る程ねぇ、それで? 何で魔力があるのに使わないんだい? すぐにこっちに来れただろうに」
「それは、あの子なりの優しさ、…ではないでしょうか」
ババロアは、それを聞いて何かを察したようにクロガネを思い出す。
「成る程ねぇ。だがね、それは優しさでもあり、弱さでもあるんだよ。変わることを恐れていては、前に進めなくなってしまうからね」
ババロアは、今まで何人もの天狗の子供を何百年も見守って来た。それにより、クロガネの気持ちも経験から理解できたのだ。
クロガネの恐れ。それは、アマトとツバキを大切に思う余り、これ以上、自分に対しての態度が変わってしまうのではないかという恐怖だった。
そこ事をババロアは、優しさの一言で察することが出来たのだ。
「そうですね、今日、戻った時に言い聞かせておきます」
「それが親の役目だよ。大変だが頑張りな」
「はい、ありがとうございます婆様」
そう言って、扉はゆっくりと閉じていった。
その頃、アマトとツバキは目的の山頂に降り立ち、図鑑で見せてもらったキズナナオシの薬草を探していた。
天狗の里は、大小いくつもの山で囲まれており、その中の一つである【禿山】と呼ばれる山の山頂に二人はいた。
禿山は、中腹までは森が生い茂っているが、それ以降の山頂付近は木が一本も生えない岩山となっており、それが禿げた様に見えるため、子供たちからはそのまま禿山と呼ばれていた。
この禿山は元は活火山だったのか、山頂にはクレーターが出来て平らになっており、特殊な薬草が自生する場所にもなっていた。
「そっちあったか? ツバキ」
「いや? 見つかんないよアマトお兄ちゃん」
二人は先程から、婆様に言われた通り、山頂に無数にある岩の付近を手分けして探しているのだが、青い花の薬草は見つかる様子はなかった。
婆様に対し、自信満々にお使いを受けた手前、見つかりませんでしたと言って帰ってしまうのは恥ずかしく、何よりプライドに関わってくる問題だった。
これだけ探して見つからないと、婆様の言ったことに疑いを抱き始めるが、婆様が嘘をつくとは考えられなかった。
「これならクロガネお兄ちゃんと三人でさがせば良かったね」
「ツバキ、俺達は特別なんだ、兄貴とは違う。兄貴が居なくたって、俺達だけでも見つけられるさ」
アマトとツバキは、自分達が特別だということをよく理解していた。
アマトは、産まれながらにして天狗の血を濃く受け継いだ、先祖帰りと呼ばれる存在。
里の皆からは、祝福されて生まれ落ち、将来は天狗の里を背負って立つ存在となるだろう。
ツバキは、母親から受け継いだ才能で、世界でも使える者が少ない治癒魔法を発動できる少女。
薬では治せないような深い傷や、病さえも治してしまえる希少な存在だ。
しかし、クロガネにはそのような特別な血も、人を治せる希少な魔法の才も持ち合わせてはいない。
魔法の発動速度や威力も、里の同じ歳の子供とそう変わらない。
ましてや、特殊な力も持ち合わせてはいないだろう。俺達二人は特別であって、クロガネは特別では無い。
二人は、まだ幼い子供ではあったが、自分達の才能と特別性に気付き、同年代の子供たちと自分を比較してしまったことにより、五歳と六歳でありながら、高鼻者になってしまっていた。
しかし、まだ幼い二人は知らなかった。そして気付いてはいなかった。
クロガネという自分達の兄が持つ優しい性格も、そして、その特別性も。
それからも2人は、禿山の山頂を飛び回り、時には地面に降りながら隈無く辺りを探したが、一向に見つかる気配は無く、焦りだけ積もっていく。
しかし焦っていても仕方がないと、二人は魔力を節約する為に一度地面に降り、岩の上で休憩をしていた。
「ねぇ、アマトお兄ちゃん。ババ様の所に戻ってとくちょうをもう一度聞いて来ようよ。ババ様が咲いてる時期を間違えたかもしれないし」
「…そうだな、これだけ探しても見つからないし、一度婆様の所に戻ってみるか」
これだけ探して見つからないと、流石に婆様が間違っているかもしれないと思い、二人が飛んで戻ろうとしたその時、二人に上空から大きな影が近づいていた。
最初に気付いたのはアマトだった。いつも父に、上空には注意を払えと言われていた事で、自分達に迫って来ていた影を視認した出来たのだ。
アマトは、ツバキを抱えながら、上空から来る物体を避けるため、休憩していた岩から飛び退いた。
その瞬間、座っていた3mは在るかという巨岩が、空から飛来してきた影によって木っ端微塵に砕かれ、岩の破片が高速で四方に飛散する。
アマトは、ツバキを背に庇いながら、飛んでくる岩の破片を、風の防壁で受け流し、大きな破片はツバキを担いで避けていく。
「な、何が降って来たんだ?」
「怖いよぉ、アマトお兄ちゃん」
巨岩があった場所からは、もくもくと土煙が巻き上がり、飛来してきた影の正体が、薄っすらと見える程度にしか見えない。
アマトは、ゴクリと喉を鳴らし、ツバキは今にも泣きそうであった。
ツバキは攻撃魔法が使えない。治癒魔法が使えることが分かってからは、その精度を高めるために、現在、母親のモミジとその修行だけに専念しているからだ。
それにより、このような事態が起きた場合、種族魔法を使っての逃げの一手か、使える者に守って貰わなくてはいけなかった。
アマトはそれを理解しており、もしもの時は、自分が囮となって妹を逃がそうと決心を固めながら、飛来した影を睨みつける。
バサッと羽音を立てて土煙が霧散し、辺りを強い風が突き通る。
アマトとツバキの体を揺さぶるほどの風圧だった。
アマトの身長は6才で135cmはあり、天狗の先祖返りと呼ばれる程に血が濃い為、背が伸びるのは早く、クロガネや同年代の子供の伸長を、拳一つは軽く超えていた。
そんな兄の体が風に煽られ、揺れる姿に言いようのない不安を覚えたツバキは、アマトの背中を強く握っり、不安と恐怖を押し殺すことしかできなかった。
土煙が風に煽られる事により、影の主がその姿を現した。
体長は3mを超え、羽を広げた横幅は10mを軽く超えているだろう。体表はゴツゴツとした岩で出来ているかのような皮膚をしており、見ただけで刃物は通らないことが窺える。広げた翼は、一枚一枚が銅のような色立ちをし、硬質な鉱石の様な鈍い光を放っていた。
巨石を砕いた爪は、掴まれれば一巻の終わりだと容易に想像ができる程に凶悪な形をしている。
影の正体は、[凶岩鳥]と呼ばれている子に災いを運ぶとされる怪鳥型の魔獣だった。
凶岩鳥は、天狗の親が子供に伝える危険な魔獣の一匹であり、子供に災いを運び、時に死神とも呼ばれる恐ろしい魔獣だ。
この魔獣は、人の肉を好んで食べることが知られており、特に子供の肉を好物としている。
これだけでも危険ではあるのだが、それ以上に危険なのは、攻撃が効きにくいその体質であった。
その岩の様に硬い体に、鋼の様な翼。生半可な物理的攻撃も、魔法攻撃をも物ともしない表皮と体格。
倒す方法は限られており、高出力の魔法を放つか、体表にある岩のような皮膚の隙間に剣を刺し込んみ内臓を突き刺すなど、どれも高い技量が求められる物ばかりであった。
子供の天狗にそのような技術がある訳が無く、見たら逃げろと教えられる魔物である。
故に、このような事態にならぬよう、大人の天狗が、毎日のように見回りをしているのだが…
「逃げるぞ! ツバキ!」
アマトは凶岩鳥を見た瞬間、肩にツバキを担ぎ、全魔力を持って自由飛行を行使し、高速でその場を離脱しようとする。
だが、凶岩鳥はクカカカカッと不気味な声で鳴くと、魔法を発動させる。
風魔法[風の鳥籠]。
獲物を逃がさないよう、高位の怪鳥型の魔物が、素早い獲物に対し使う事がある魔法で、込めた魔力量により風の強度と拘束力が変わってくる魔法である。消費魔力が多いため、使う事は滅多にないが、子供の肉が好物の凶岩鳥は、確実に仕留めるられる様、この魔法を使ったようだ。
逃げようとした二人は、風の壁に阻まれ跳ね返されてしまい、逃げることが出来なくなってしまった。
子供の天狗の力では、この風を無理やり突破できるような魔力は持ってはいない。
「うぉぉぉ! 風の飛刃!」
逃げるのをやめ、アマトは風魔法の風の飛刃を凶岩鳥に何度も放つが、全く意に介した様子はなく、岩の皮膚に傷も付けるが出来ない。
ツバキを背中に、アマトの頭に浮かんだのは、自分の非力さと、妹を守れないかもしれないという不甲斐無さ。そして、自分達が死んで仕舞うかも知れないという恐怖だった。
ツバキはアマトの背中で仕切りに父と母の名前を呼び、助けて、助けて、と何度も泣きながら叫んでいた。
凶岩鳥は、旨いご馳走を前に舌で頬ずりをしながら、一歩一歩と2人に近づいていく。
「ツバキ逃げろ! ここは俺が食い止める! だから早く逃げろ!」
「そんな事…出来ないよぉ!」
ツバキは恐怖により足が震え、立って居るのが精一杯の状態だった。
魔法を使い、飛んで逃げることも出来ないほど、精神が追い詰められていたのだ。
しかし、飛んで逃げたとしても、風の鳥籠は発動地点を中心に、凶岩鳥と二人の周りをドームの様に囲っている為、もし飛べたとしても、逃げることは叶わないだろう。
「クカカカカッ!」
「早く逃げ――うごっ!!」
アマトの魔法が鬱陶しかったのか、凶岩鳥は羽でアマトを吹き飛ばし、近くの岩に激突させる。
「アマトお兄ちゃん!!」
「ツ…バキ…逃げ…」
胸と腰を強打したアマトは、声を出すのも苦しそうにしながら、ツバキに力無く呼びかける。
凶岩鳥はアマトを一瞥した後、震えるツバキに舌なめずりをしながら、涎の垂れる大きな口を開き、ツバキを丸ごと食べようとした。
ツバキは恐怖に立つことも出来ずへたり込み、迫ってくる凶岩鳥の口を、絶望に染まった目で見るし事しかできなかった。
「ツバ…キ!」
「クカカッ!?」
しかし、凶岩鳥がツバキを食らうその瞬間、凶岩鳥は大きく後ろに後退する。
凶岩鳥が後退した瞬間、先程まで凶岩鳥が居た場所に、黒い物体が高速で飛来し、まるで魔物から二人を守るかのように地面に勢いよく突き刺さった。
「一体、何が…」
「…なに…これ?」
二人は何が起こったかのか分らず、呆然とした顔で、飛来してきた物体を見た。
二人を守る様に降ってきた黒い物体は、3mはあるかと思われる程の大きな剣の形をしており、地面に深々と突き刺さっていた。
空から降ってきた黒い大剣は、よく見ると無数の黒い糸の様な物で作られており、それがシュルシュルと音をたてて崩れていく。
すると、崩れた黒い糸の中から、小柄な一人の子供が現れた。
その子供は、二人に背を向けたまま、凶岩鳥を睨みつけていた。
小さい体躯でありながら、堂々と凶岩鳥の前に立ち、恐れる事無く相手を見据えている。
アマトとツバキは、その姿を見て、その子供の正体が判らなかったが、その子供が振り向いた瞬間、自分達の最も知る人物だという事に気が付いた。
「あ…兄貴? なのか?」
「クロガネ…お兄ちゃん?」
二人は、信じられないといったような表情をしながら、自分達の兄の姿を凝視する。
黒い糸は、クロガネの頭から伸びており、それが長い髪だったという事が見て分かった。
大剣を模していた髪は、まるで意思を持つようにうねりながら短くなり、いつものクロガネの髪の長さに戻っていく。
アマトとツバキは、自分の兄がこのような事が出来ることを知らなし、父と母からも、兄がこのような種族魔法を持ってるという事は聞かされていなかった。
故に、目の前にいるのが、本当に自分の兄だという事を信じられなかったのだ。
顔も、姿も、自分達の兄であることは見てわかる。
しかし、それでも信じられなかった。
それは何故なのか?
その理由は、振り向いた兄の顔が、いつも浮かべている優しい笑顔ではなく、獲物を見つけた狩人のような、獰猛な笑みをしていたからだ。
「間一髪だったなぁ?」
しかし、その声は正しく、自分達の兄であるクロガネその人の声であった。




