15話 [幼き日の記憶2]
11話での冒険者のランクを変更しました。
一~五つ星という五段階のランクから、E~Sの六段階に変更しました。
申し訳ありません。m(_ _)m
木で出来たテーブルの上には、手羽の空揚げやサラダ、米に味噌汁と、本当に山の上に住んでいるのかと思えるほどに豪勢な朝食だ。
そして、記憶では知っていたが、何故か飯は日本食によく似ていた。何か係わりがあるのだろうか?
俺がガキの頃に訓練されていた施設も日本にあり、極たまに米と味噌汁が出されたが、おかずは固形型のブロックだった記憶がある。
こういう贅沢な物を食うのは初めてだ。やばい、涎が出てきた。
戦場では大体、豆の缶詰かビタミンブロックだったしな。現地住民も似たようなものだった。
あぁ、早く食いてぇ。
現在、食事の並べ終わった長方形のテーブルには、目の前に両親、横に弟妹が座っているという状況だ。
「揃ったみたいだな、では、いただきます!」
「「いただきます!」」
俺はすぐさま手羽の空揚げに箸を伸ばし、口の中に入れる。
記憶とは違う実物の味、口の中で香ばしい鳥の汁が広がり、噛むほどに溢れてくる。
俺は、手羽と一緒にご飯を掻き込むと、米が手羽の旨味を引き出し、何杯でも行けるのではないかと思えるほどだった。
「こら! クロガネ。野菜も取らなきゃ駄目じゃない。お母さん怒りますよ?」
と、バランス良く摂れとモミジが叱ってくる。
「ふぁ~い。あふぁった」
「口に入れたまま喋らない! 行儀が悪いわよ?」
口に入っている物を味噌汁で流し込むと、モミジに返事を返し、黙々と食べていく。
あぁ、うめぇ。記憶では知っているが、クロガネは毎日こんな旨い物食ってるのか。
羨まし過ぎるだろこれ。
「なんだ? 今日のクロガネは随分と機嫌がいいな? なぁ、母さん?」
「きっと、お父さんが日の出前に行った訓練でお腹空いてるのよ」
「あぁ、魔臓の拡張訓練か! ならば腹が減ってしまうのも仕方ないな。クロガネは今回、魔力枯渇を体験させたからなぁ」
「――貴方? クロガネにそんな無茶させたの?」
モミジが、こめかみに青筋を浮かべてハヤブサを睨んだ。
ハヤブサは脂汗を掻きながら、違うんだと弁明している。
「一度は魔力枯渇を体験させておかないと、いつ、どのような事があるかわからんからな。魔力を使いすぎるとこうなるぞと教えておかなくてはならないなと思ったんだよ」
ハヤブサが、手振り身振りでこれも修行だと母親に説明していた。
「あまり無茶はさせないでくださいね? 天狗の修行に余り口出しはしませんけど、この子たちもまだ幼いですし」
「分ってるよ。まぁ、俺もこれくらいの年で修行の一環として親父に同じことをされたからな。クロガネにも経験させておこうと思っただけだよ」
――魔力枯渇で気絶。
俺は記憶の中から今日あったことを思い出す。
魔力を使う一環と危険性を教えるため、ハヤブサから魔力を限界まで使わされたんだったな。
なるほど、それで俺が表層意識に上がってこれたのか。
今現在、俺の深層にクロガネが眠っている。これは魔力枯渇によって意識を失っている状況なのか。
「しかし、魔力の使い過ぎで気絶したには早い回復だったな? 今日は一日中寝ているものだと思っていたが、流石は俺と母さんの息子だ!」
うんうんと頷きながら、手羽先をもぐもぐと食べるハヤブサ。
――たしかに。俺も思うところがいくつかあった。
魔力枯渇を起こした割には、自分の体に流れる魔力は正常なのだ。
魔力の回復には、体調にもよるがこんなに早くは回復しない。クロガネの記憶の中にもこんなことは一度も無いようだった。
魔臓が俺とクロガネでは別々にあるのだろうか?
だが、調べようにも魔臓は不可視であり、見つけることはできない。
結果的に、俺とクロガネでは別々だと考えた方が自然だろう。
俺はそう考えながら、箸は止めずに黙々と朝食を平らげていった。
-----
「「ごちそうさまでした」」
家族団らんの飯を食い終わり、これからどうするかと考えながら、自分の部屋に戻ろうとした時、後ろからハヤブサに呼び止められた。
「そうだクロガネ。後ででいいんだが、アマトとツバキと一緒にお使いに行ってくれないか?」
「お使いって、なんのお使い?」
俺は今、魔力枯渇で魔力は使えませんよ~。という設定である。
魔力枯渇した後すぐに魔法を使ったら絶対面倒なことになるし、極力今日は外に出たくはないんだが、俺は200m圏内しか魂の時に捜索していない。
魔法を使わないという前提なら行っていいかもしれないな。
「お使いって言っても、この薬草の入った籠を、里にいる薬師の婆様に届けてくれるだけでいいんだよ。歩いてもすぐ近くだし、籠も五つあるから一緒に行ってきなさい。お父さんは今から山の見回りに行かないといけないからね」
成る程、それくらいなら行ってもいいな。魔法も使わなくて済みそうだし、里の中も見れて丁度いいし。
「うん、アマトとツバキと一緒に行ってくるよ」
「良い子だ、じゃあ頼んだぞ?」
ハヤブサは俺の頭を撫でた後、見送りの為に玄関で待っていたモミジ供に、玄関の扉を開けて外に出て行った。
俺はそれを見送った後、階段を上がり、アマトとツバキの部屋に向かった。
「あの子達、大丈夫かしら? 私、心配だわ」
「大丈夫さ。あの位の歳の子にはよくあることだと里長も言っておられたしな。里長曰く、俺もそうだったらしい。あまり覚えてはいないがな」
ハヤブサとモミジは、家の外に出た後、玄関の前で声を潜めて話し合っていた。
クロガネの弟であるアマトが、クロガネの伸長を超えた辺りから、兄のクロガネに対して挑発的な行動を取るようになって来ていた。
妹であるツバキは、治癒魔法を使える様になってから、クロガネを兄とは見なくなってしまった。
これは、子供の天狗が陥る一種の反抗期のような症状で、高鼻者の時期と呼ばれるものである。
精神の幼い子供の天狗は、自分より劣っていると感じた存在を認めようとはせず、反抗的な態度をとる様になってしまう。
相手から反抗されないようにするには、自らの存在を認めさせるような行動を取らなくてはいけないが、それが中々難しいので、下に見られぬよう、子供の間では切磋琢磨していき、武術や魔術を磨いていく。
その症状が、アマトとツバキの間で起こっていた。
「クロガネは優し過ぎるのよ。前にあの子に聞いたの、なんでアマトとツバキに認めさせるような事をしないの?って」
「…クロガネは何て言ったんだい?」
「これ以上、アマトとツバキが変わってしまうのが怖い、それなら2人が大人になるまで我慢すればいいんだって言ってたわ」
高鼻者の時期は、歳を重ねる毎に和らいでいき、人を認められるようになっていく。
人を認め、自分の度を知り、天狗になった鼻が折れた時こそが、本当の大人の第一歩目なのだと言われている。
「…母さん似て優しい子だな。だが、このままじゃクロガネも、アマトもツバキも成長できない。俺は弟だったから分るが、兄の背を見て俺も技術を磨いてきた。3人にもそうなって欲しいんだよ」
「それじゃぁ、お兄ちゃんのクロガネには頑張って貰わないといけないわね」
「そういう事だな。今日の森の見回りが終わったら、クロガネの修行を少し厳しくして、兄としての心構えを教えておくことにしよう」
「お願いしますね、貴方」
「あぁ、それでは行ってくる」
「いってらっしゃ」
ハヤブサは、モミジに手を振りながら地を蹴り、自由飛行を使って大空に飛んで行った。
俺はアマトの部屋の前まで来ていた。
さて、ちゃっちゃと薬草の籠を薬師の婆様とやらに届けて里の周辺の探索に乗り出すかね。
扉をノックした後、部屋から返事を合図に扉を開ける。
「…なんだよ、兄貴かよ。なんか用?」
部屋の床に座り、広げた巻物を読んでいる。
クロガネの記憶では、ここ最近で生意気になっているアマトくん6歳である。
実に分かりやすい反抗期だ。いや、ここでは高鼻者だっけか? まぁ、どっちでもいいが俺の弟であるならもう少し兄に対して敬意払いやがれってんだこのガキが。
だが、ここではいつもの気の弱い優しい兄を通さなければならない。
はっきり言って糞面倒だ。
「父さんが薬師の婆様の所に薬草の入った籠を届けてだってさ。ツバキと一緒に三人で行って来いって言われてるから一緒に行こうよ」
「はぁ? そんなの兄貴一人で行けばいいじゃん。俺は今、忙しいんだけど?」
「別に僕一人で行ってもいいけどさ、後で怒られるのはアマトだからね」
「……分かった。準備したあと下に降りる」
アマトは立ち上がると、外に出る準備をし始めた。
俺は扉を閉め、隣の部屋にノックをした後、先ほどと同じように部屋に入る。
「なに? なにかようなの?」
ブスッとした顔で俺に用件を聞いてくるのは、妹のツバキちゃん5歳である。
5歳でもう一人部屋を貰えるなんて羨ましいなオイ。
少し前まではクロガネに甘えていたようだが、治癒魔法が使えることが分かってからは、クロガネに対しては反抗的になってしまっている。
「父さんが、僕とアマトとツバキの三人で、薬師の婆様の所に薬草の入った籠を届けに行きなさいって言われたんだ。だから準備してねツバキ」
「え~、めんどくさ~い。でも行かなきゃパパから怒られるんでしょ?」
ぬいぐるみを弄りながら、う~んと唸っている。
「分った~。準備したら行くよ~。だから早く部屋から出てって~」
「はいはい、じゃあ待ってるから」
俺は扉を閉め、自分の部屋に戻り、外に出る支度をし始める。
寝間着を脱ぎ、外出用の浴衣を羽織り帯を締める。
用心の為に懐には、子供が持てる程の小太刀を忍ばせている。
刃先は10cmと短いが、無いよりはましだろう。
俺が下の階に降りると、母親のモミジが、薬草の入った五つの籠と一緒に待っていた。
籠の形は手提げ型で、子供でも両手で持てるような大きさだった。
俺が降りて来てすぐに、アマトとツバキも降りて来る。
「これがお父さんの言ってた薬草の入った籠よ。クロガネとアマトは二つづつ。ツバキは一つ持って、上に住んでる薬師の婆様の所に届けてね? 里の中だから危ないことは無いと思うけど、怪鳥には十分注意するのよ?」
モミジの言う怪鳥とは、空に飛んでいるあいつ等の事だろう。
偶に腹を空かせた怪鳥が、子供を攫おうと空から急降下してきて襲ってくるようだ。
まぁ、今まで怪鳥に食われて死ぬような馬鹿はいないようだがな。
「分った、気を付けるよ母さん。じゃあ行ってきまーす」
「行ってきます母さん。すぐ戻ります」
「行って来るねママ~」
「はい、行ってらっしゃい。元気に帰ってくるのよ?」
俺達三人は、母親に見送られながら、里の上に住む薬師の婆様の所へ向かうのだった。




