13話 [クロとクロガネ]
僕の記憶は、俺が魂と記憶の一部を切り離し、体に入れる所で終わっていた。
僕は唖然となった。
自分という存在が、まさか目の前の男の魂の一部であったなんて。
僕は何も考えたくなかった。だけど、冷静に思考は回転する。
これからの事を知ってしまえば、もう前の僕には戻れない。
いや、もうすでに僕ではなく、俺なのかもしれない。もうどうしようもないのだろうか?
心を過ぎった思いは一つだった。
知らなければよかった…と。
「どうだ? 思い出せてきたか?」
俺は目の前の自分の魂の一部。ようは自分自身の心の一部を覗き込みながら話しかけた。
何故か分からんが放心状態になってるな。
もしかして、今のを見ても思い出せなかったとか? それだとヤバイな。口で説明でもしてやるか?
僕も俺自身だけどよ、切り離した自分が何考えてるかなんて、俺の中に戻ってもらわなきゃ分かんないんだよね実際。
俺が一応、大本のような存在だから、相手の記憶は読み取れる。
だが、心までは読み取れない。記憶と心は別だからな。
あれだ、下世話な話で例えると、好みでもない女を見て、何故か俺の下の息子が臨戦態勢になっちゃう奴だ。偶に無機物でもなるから壊れているのか心配になったりする。
まぁ、一言で言うと二重人格に近いかもな。
「…んー、まぁ、混乱してるみたいだから俺が口頭でも説明してやる」
「お前は俺の魂の一部だ。映像で思い出せたと思うが、俺が魂から切り離したのがお前だ。俺がこの世界に落っこちてきた時に、まだ俺の入れる器が完成してなかった。あぁ、ここで言う器は体のことな? なんせよぉ、俺がついた時にはまだ…。そのあれだ。俺達の父親と母親が致してた真っ最中だったからな。それも魂の入る器が完成してないから、俺という存在が入れないわけよ? まるで話に聞く幽体離脱みたいでマジびびったわ。転生なんて経験初めてだったがよ、それ以上にビックリだったぜ」
俺はヤレヤレというジェスチャーを踏まえながら話を進める。
僕の方には俺から分かれるまでの記憶しかない。
俺はそこ等辺を保管させるように、後ろに俺の記憶の映像を投影する。
「だがな? 腹のへその辺りから光りの紐が伸びてて、それが出来つつある体まで伸びている事に気づいたわけよ。きっと体が出来るまではこんな風に魂が風船みたいに浮かんでるんだろうな。だから俺は自分の体が成長し、魂が入れる器が出来るまで待った」
俺は一度ここで話を切り僕を見ると、こちらを見ている僕がいた。
「…何か質問あるか?」
「いえ、何も。…続きを話してください」
「分かった。言いたい事があったらなんでも言っていいぞ」
お、元気出てきたな。てか、今思ったがこれ、口頭で説明する意味あるのか? まるで映画や漫画に出てくる黒幕になった気分だぜ。まぁ、嫌じゃないから別にいいけどよ。なんせ今まで数年起きにしか人と喋れなかったからな。存分に喋らせてもらおう。
まぁ、喋ってる相手も俺だし、こうやって説明する意味もあることだしな。
「だがな、器が出来るまで待つのはクソ暇だった訳だ。そろそろ入れるか? とか思いながら母親の腹の中に突撃してもすり抜けて何も出来ない。で、突撃した時に気づいたんだが、俺は魂だから人も壁もすり抜けられて自由に動けるわけよ。んで色々と実験したんだわ。光の紐はどこまで伸びても大丈夫なのか、とかな。まぁ、限界は200m位だったがな。これ以上行ったらヤバイって感覚で分かる所までしか行けなかった。どうなるかわ分からないが、光の紐が切れちまうんじゃないかなと思ったわけよ。そうなったら多分だが死ぬ。もう死んでる訳だけどな。だから限界ギリギリの範囲で色々とこの世界を調べ回った」
「でだ、俺は驚いたわけよ。なんせ人が空飛んでるんだからな。俺みたいな魂だけの半透明な存在じゃない。実体のある人間がだ!! 俺はこの世界が元いた場所とはまるで違う世界だと言うことに気付かされた。相手が使っている言葉も分からねぇ、何で飛べるかも分からねぇ、何もかもが分からねぇ。そんな日々が何ヶ月も続いた。そうこうしている内に、母親の腹の中にある俺の体が成長して、俺が入れるようになった」
僕の目の前にいる俺は、今までのこと饒舌に語る。
今まで溜めてきた事を誰かに喋りたくて我慢してきたのだろう。
僕はここで、どうしても聞かなければいけない疑問をぶつける事にした。
「入れるなら! なんで僕を作ったんですか!」
「落ち着けって、そう鼻息を荒くするな。ちゃんと話すからよ。あと、作ったんじゃない。もともとお前も俺の一部だ。もともとあった俺の魂の一部を切り離したに過ぎないんだからな」
俺は僕を宥めながら話を続けた。
「ここからが本題だ。俺がお前を切り離した理由だな」
「だけどな、一つ問題があった。俺の魂は全部がその体に入りきれなかった。魂を入れる器がまだ小さすぎたのが問題だった。だけど魂を入れないわけにもいけなかったんだよ」
「…どういう事です?」
「魂が引っ張られるのさ。俺と同化すれば分かる話だが、俺がこの世界まで引っ張られるように落ちて来た時と同じような感覚で魂が器に引き込まれるんだよ。まぁ、引っ張られる力は、落ちて来た時と比べれば随分と弱かったがな。だが、その力は日に日に少しずつ強くなっていった」
「ここで問題だが、入りきれないほどの水をコップに移した場合、どうなると思う?」
「入りきれない水はコップからこぼれるに決まってます」
「そう、入りきれない水はこぼれ落ちる。これを魂と器に置き換えた時、どうなると思うよ?」
クロが言いたかったのはこの事だろう。
今、僕は魂の一部として今ここにいる。だから分かる。どうなってしまうのか。
「こぼれ落ちた魂は、――消滅する」
「そうだ。入りきれない魂は消滅してエネルギー、ここで言う魔力となって霧散する。俺は魂で感じるだけじゃなく、その光景を目撃した」
クロの後ろでその時の記憶が映像となって映し出される。
その光景は、隣に住んでいるルカと言う少年の母親の姿だった。
まだルカは生まれていないようで、母親のお腹もそこまで大きくはなかった。
すると、空から光の玉が高速で落ちてくる。まるで流れ星のようだ。
「ここからだ、よく見とけ」
空から落ちてきた光の玉は、ルカの母親に当たると霧散するように消えていった。
そして、残った小さな光の玉が、ルカの母親のお腹の中に入っていった。
「今ので分かっただろ?あの光の玉は魂だ。そして、こぼれ落ちた魂の中には、自我や記憶も含まれる」
「……なんとなく、何故クロが僕を切り離したのかが分かってきたよ」
「俺は俺のままでいたかった。やり残した事も、願いも、ここでは全てが叶いそうだってのに忘れてしまえば意味がない。俺は幸運だった。来た時には少し気を失ったが、器の形さえ出来ていない頃だったからな、そのまま自我や記憶を保ったまま転生出来た」
「それで、僕という魂の一部を切り放したんですか」
「そうだ、このまま母親の中に入れば俺は消えちまう。何も持たない真っ白な核の部分だけになっちまう。だから俺の魂の一部。もっとも白く、純粋だった感情と核の一部分だけを切り放した」
「それが――僕」
「そうだ。だが、誤算もあった。お前を切り放した時、俺はお前を切り放すためにかなり力を使った。そのお蔭で引っ張られることは無くなったが、そのせいで俺は深い眠りについちまった……」
クロはため息を吐きながら、「しくじったぜ」と小声で呟いた。
「で、目が覚めると、俺の体は7歳になっていた。そして、切り放したはずの俺の一部は、自分で自我を確立させて成長していた。お前の記憶で穴が開いたように無い場所があるだろ? それは俺が目覚めていた所だな」
クロの後ろでは、その時の記憶が映し出され、すんなりと頭には行って来る。
僕の知らない俺の記憶。
この体の7歳のときの記憶が映し出された。




