1話 「俺達はここにいた」
初めてになりますので、色々と不備があると思います。
もし、人生の分岐点というものがあって、どこかで間違いを犯したのならば、俺は何処で間違いを犯したのだろう。生きる為に、そこでは選択肢と呼べるようなものは無かったように思える。
俺は[こいつ]を握ることでしか存在を許されなかった。
俺は[こいつ]を使うことでしか生きることを許されなかった。
俺は[こいつ]を使って他人から奪うことしか考えていなかった。
俺が生きてきたこの生涯を通して、人生なんて言えるようなものは無かったと思う。
だからもし、もしもだ、俺にとっての願いがあるのだとすれば、一つしかない。
俺は、自由に生る人生が欲しい。
吸い込まれそうな青い空、そこには大きな入道雲が地平線の先に見える。季節は夏なのだろう。太陽を遮る様な雲は無く、猛暑と言っても過言ではない。鬱蒼と茂る森の方から蝉の声がけたましく鳴り響いている。森の中には人工的に切り開かれたであろう道があり、そこには一人の少年が膝をついて倒れていた。
「早く立たんか! 貴様はこの森の肥料にされたいのか!」
そう叫ぶと男は地べたに倒れている少年のわき腹を強く蹴った。ドゴッという音を立てて少年は苦悶の表情をしながら膝をガクガクと震わせ立ち上がる。
「もうしわけ……ありま……せん」
少年はそう言うと前方で走っている20人程の集団によろよろとしながらも後列に追いつくように進んでいく。
「あと一度でも倒れるような奴が出てきた場合、お前らの今日の飯は無いと思え!」
そう言うと男は休憩所のような場所にてポーカーをやっている3人組みの男たちの下へ戻っていく。
「ったく! 手間かけさせやがって、これだからガキは嫌いなんだよ」
「ぎゃははは! 何言ってやがる、負けた奴が今日は一日中面倒見るって言い出したのはお前じゃねぇか」
男たちはポーカーをしながら笑いを木霊させている。少年たちはいつ終わるかも分からないまま森の中を走っていた。
ここは身寄りの無い子供たちが集められ、または売られてきた子供たちが集う児童養護施設である。歳は6~12歳の間で集められている。
表向きは児童養護施設となっているが事実は違っている。児童養護施設という皮を被った軍事施設であった。
少年達はここで少年兵になるために訓練を強いられていた。その訓練は少年達に対して[人]ではなく[物]、消耗品であると分からせるには十分であった。
朝は5時から朝食があり、それから昼の18時まで訓練。夜食の後は24時まで(リローディングマシン:薬莢から弾丸を製作する装置)により弾丸を製作して就寝の流れである。
少年は、そこにいた。
三段ベットの一番下、わき腹を押さえながら横になっている。
歳は7歳、顔はアジア系、髪と瞳は黒である。名前は無く、周りの少年達からは髪と瞳の色からそのまま[クロ]と呼ばれていた。物心がつく頃にはもうこの施設に居り、親の顔も覚えてはいない。
故に少年はここの生活が日常であり、常識であった。
わき腹を押さえながら横になっていると、向かいのベットから一人の少年がこちらに近づいてくる。
「大丈夫? 一応だけどコルト兄さんに見てもらう?」
少年の名は、金継レオンハルト。歳は7歳、日米ハーフであり、髪と瞳の色は金色である。4歳の時に施設に売られ、もう親の顔はおぼろげにしか思い出せないそうだ。名前だけは覚えており、周りの少年達からは[レオ]と愛称で呼ばれている。
レオは、ベットの上段にいるコルトを起こし連れて来た。
[コルト]は部屋の中で一番年上の12歳である。アフリカ系の黒人で頭はスキンヘッド、彼は昔の話は一切せずいつも怒ったように眉を寄せているが面倒見がよくこの部屋のリーダーでもある。
「服をあげて見せてみろ、やばくないか見るだけだけどな」
そう言うとクロのわき腹を突きながらどのように痛いか聞いた後、「大丈夫だ」といってベットに戻っていった。
「よかったね、明日も早いから僕も寝るよ」
「うん、ありがとう。お休み」
レオもお休みと言ってベットに戻っていった。
大丈夫と言われ安心したクロはいつの間にか深い眠りについていくのだった。