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はやくこの「めんどうくさい」状況に救済を!

吉男は基本無気力です。


あらすじに書いた展開は、次話くらいに。


※これは学生の書くエセサラリーマン小説です。それを踏まえてお読みください。

(ウソだろ、まじかよ、え、まじでほんとなの、うそでしょ、おい)


瞬きして、目を逸らして、夢かと思って手のひらに爪を食い込ませてみたけど、やっぱり同じだった。

ふと視線を下げたそこで、事件は起きていた。


人の手が、スカートのプリーツの上を這っている。

自分の尻を触っている様子ではなかった。そもそも右側から差し込まれているのに、その手は左手だったのだ。

感触を確かめるように指が動く。動きを目で追ってしまい、自分まで犯罪に加担しているような居心地の悪さを覚え、吉男は唇を噛んだ。

明らかに痴漢と分かるのに、吉男は見間違いではないのかと疑った。

だって、こんなに堂々と行われているなんて、自分がその目撃者になるなんて、思いもよらなかったのだ。


嫌な汗が吹き出した。

なんで誰も指摘しない、ていうかいつからこんなことに?

サラリーマンがたまたま近くにいた男の手に尻を擦り付けるのとは訳が違う。


だめだろ、これはだめだ。


尻を触っているのは、手の形から男と分かった。スカートは制服のそれであり、おそらくスーツとスーツの間からちらと見える茶髪の子だろう。なんとなく、体を動かしていると分かった。振り向きたいのにできなくて、どうにかして状況を確かめようともがいている。

嫌がっているのだ。でも声を上げられない。

そんなところだろうか。だから犯人もやめないのだろう。


一体誰がこんなことやってんだか。吉男は目だけを動かして確かめようとした。

下手に頭を動せば、気づいて手を引くかもしれない。

それは駄目だ。


(いや、その方がいいのか?)


ここで手を引いてもらえば、犯行は終わる。女子高生は解放される。


(いやいや待てよ、そしたら犯人はどうなる?)


なに食わぬ顔で電車を降りるだろう。


(女子高生は?)


泣き寝入りだ。

そんなの、おかしい。

おかしいのだ。だが、


(………………めんどうくさい)


なぜ、自分なのか。

絶対俺以外にも気づいてるだろ、こんなしっかり見えてんだから。隣のサラリーマン、OL、それに女子高生と密着してるスーツの奴ら、みんな見えてんだろ?声かけてやれよ、嫌がってんだろ?


俺は、正直言って関わりたくない。


ひどい奴だとは思うけど、みんなそう思ってんだろ?だから見て見ぬふりしてる。

声かけて、それでどうなる?

たまたま手が当たってただけと言われたらそれまでだし、女子高生だって、恥をかくまいと痴漢などなかったと言うかもしれない。

それに、痴漢にあったが警察に行かなかったり特に訴えもしない被害者は少なくないらしい。

こういう朝の忙しいときだと、遅刻するからとか手続きが大変だからとかで、警察から注意してもらうだけで済ませるケースが多いのだ。

それを知っているから痴漢に及んでいるのかもしれないけれども。


(いやだなぁ)


このままなにも言わないのは非常に後味がわるい。つまりはめんどうくさい。

でも、声をあげたくもない。

俺はラノベの主人公じゃないから、正義感振りかざして大声を上げることなんてしない。できない。


そういう役目は俺みたいに、半目で、顔が地味で、冴えない勤め人で、おっさんに片足つっこんでる男じゃない、もっとそれらしい奴がやればいい。

ヒーローには別なやつがなればいい。注目を集めるのはそいつと犯人だけでいい。自分はめんどうなことに巻き込まれたくない。


いっそ女子高生が声を上げればいいのに。そうすれば誰かが気づいて、被害に気づくだろう。

いや、それができないからこうなってるわけで。


アナウンスが流れる。次駅は近い。

多くの人が降りるなかに混ざって、犯人は逃げるつもりなのだろう。


(なんか、めんどくせぇな)


吉男は腹のあたりがむかむかとしてきた。

めんどうくさい、確かにめんどうくさいさ。

なんでこんなクソ暑いなかでさらに暑くなるようなことやってんだよ、ふざけんなよ。

見てて気分悪いんだよさっさとその手をどけろよおいこら。


…………でもめんどうくさいから俺は手を下さない。


下さないから、代わりにだれか、やってくれ!


声にだして指摘するのが無理なら、なにか、なにかをしてくれ!


普段電車に揺られている間は極力使わないようにしている脳みそを強制的に酷使された吉男は半ば混乱状態に陥っていた。

支離滅裂な思考回路をそのまま暴走させて、とんでもない方向にベクトルが向けられていった。


あれだ、男に声を上げさせればいい。

足を踏むとか、いや誰か分からないから無理か。

なら、手の甲をつねるとか、爪で刺すとか。

男が痛みのあまり、思わず声を出してしまうくらいに、


爪で皮膚を捻りあげてやればいいんだ。


「いてえぇっ!!」


それは紛れもなく、犯人の声だった。

そして、反射的に左手に力が入ったのだろう。


「きゃあぁっ!!」


女子高生も悲鳴を上げた。

見れば、尻を鷲づかみにした男の手の甲は真っ赤になって、血がにじんでいた。

長めの爪、使いようによってはハサミのように使えます。

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