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今日も今日とて「めんどうくさい」

あらすじに書いた展開は、次話かそのまた次話くらいに。


※これは学生の書くエセサラリーマン小説です。それを踏まえてお読みください。

(めんどうくさいなぁ)


吉田吉男は欠伸を噛み殺す。


社会人の必須アイテムたるネクタイも、一番上まで留めたシャツも、息苦しさを増長させるだけでしかない。目立たない程度に緩めてはいるが、効果はいまひとつだ。

早いとこクールビズにならないだろうか。そうしたら楽なポロシャツになるし、多少だらしない格好をしても大目にみてもらえるのに。

春の陽気の中でそんなことを思う。

そしてそんなことを考えているのは自分だけじゃないとも思う。


(めんどうだなぁ)


通勤ラッシュの駅ホームで煙草と酒のにおいが抜けきらないおっさんたちに囲まれながら、遅電を待つこと三十分ちょい。

乗車率 120 %なんてゆうに超えている電車へと押し込められ、あれよあれよと反対側まで追いやられてしまった。

開閉扉に押し付けられ、ビルの屋上から落下した死体みたいな恰好のまま動けなくなっている。

そうしてかれこれ、数十分。

幸い腹側の扉は開いていない。

また不幸にもまともな空気を吸っていない。


吉男はもう一度欠伸を噛み殺した。


目の前は扉のガラスだ。

なにが悲しくて大口開ける自分を見なくちゃいけない。

それに、人口密度が高すぎて結露している。水滴がびっしりと、鼻先にあるのだ。欠伸なんてしたら、そこらへんのおっさんの吐息やら加齢臭やらが混ざりに混ざった水蒸気まで吸い込みかねない。

それを言っては常に吸っているのだが、これは気分の問題である。


(あついなぁ)


肩にかけた鞄がずり落ちてしまい、買い物中のお母さんよろしく右腕に引っ提げ持っているのだが、先ほどから二の腕が悲鳴を上げている。

二十五歳はもう若くない。おっさんに片足つっこんでいるのだ。

限界が近い。だが腕を下ろすスペースなどない。


(……つかれたなぁ)


一人暮らしならこんな苦労もなく出勤できただろう。

だが吉男は、あえて避けた。

なぜか、引っ越しが面倒くさいからだ。

その上金がかかる。そのため家族も特に反対しなかった。

代償として毎朝二時間近くかけて会社に向かう日々が続いている。

よく考えれば、一回の引っ越し代とこれから何年も払う定期代を比べれば、前者のほうがはるかに割安だったのだが、定期代はしっかり吉男の懐から消えていくので、家族は特に反対しなかったのではないかと、最近ようやく気づいた。


(だるいなぁ)


目の前の自分は半目で、ついでに口も半開きで、どこぞのお腐り神様のごとく口からえげつない色の煙がぶすぶすと出てきそうだった。

これが、吉男の通常運転である。

同僚や先輩に「朝から疲れた顔をするな」とよく言われてしまうのだが、無理なものは無理なのだ。

面倒くさいと思っていると、どうしても顔がだらけてしまうのだ。さすがに偉い人を前にしたらもう少しシャキッとした顔を作るけども。

通常業務のときくらい、脱力させてほしいものである。

お仕事、とってもとっても、面倒なんだから。

でも、働かないともっと面倒なことになるから、今日も今日とて吉男は出勤する。


本当はあと五時間ぐらいお布団の中で微睡んでいたかったけれども。

遅刻したら上司が怖いから。

お説教、すごく長いから。

すごく反省してますって顔、維持するのくたびれるんだ、ほんと。

そして、仕事が詰まると昼休みが潰れる。

昼休みとは、勤め人にとって、いや人類にとってなくてはならないものである。

それがなくなるのはまずい、非常にまずい。


でも今日は、三十分以上の大遅刻が許される大義名分がある。


そう、遅電証明書をもらえるのだ!

遅れたのは自分のせいじゃないという証明書がもらえるのだ!

時計を気にしながらせこせこ歩かなくて済むのだ!

のんびりと歩いて会社に行けるのだ!


(なんてすばらしい!)


無意識に顔が緩んでいたのか、隣の OL がおぞましいものを見たとでも言いたげに顔を背けた。

それはそれで構わない。むしろ俺の腰に食い込んでるその腕をどけてくれ。重いし、地味に痛いんだ。

別にあんたのその無駄にデカい胸と腹を撫でまわそうなんて、暑さで頭が煮えても考えないから、安心してくれ。


次駅を告げるアナウンスが頭上でワンワンと響く。

定員オーバーを無視した急ブレーキのおかげで乗客は大きく前後に振られた。

吉男の頭もがっくんがっくん揺れた。

背中側の扉が開き、互いを押しのけ人が降りていく。

少しだけスペースが空いた隙に、すかさず鞄を胸の前に引き上げた。

潮が満ちるように、足音も激しく人が乗り込んでくると、体は再び扉に押し付けられる。

こうなると、鞄は胸と扉に挟まれて空中に固定される。

腕を使わずして鞄を支えられるのだ。


(あぁ、楽だ)


隣の OL が今度は目を見開いているけれど、本当に腕がつりそうだったんだ。

床に下ろすよりも安全で人の迷惑にならないんだから、そんな目で見ないでください。

OL と接してる左側の腕は一切動かしていない。

だらりと垂れた右腕が隣のサラリーマンの尻あたりに触れているけど、これは仕方ない。

下手に動かして変な目で見られたくはないし、マジでなんかの拍子に二の腕がつりそうなんだ。

だから、サラリーマンの尻がもぞもぞうごいて、擦りつけるような動きをしているのも無視である。されるがままである。

仕方ない、俺もう二十五歳だから。

割り切っていかないと。

ガラス越しに菩薩の顔をした自分を見た吉男は、三度目の欠伸を噛み殺した。


しかし、あと少しで、この蒸し風呂から解放される。

なんと清々しいことか。


吉男は下車後、いかにして無駄なく道草を食い会社に向かうかについて思案し始めた。

ラノベ読者でもある吉男の妄想がどんどんと非現実チックになっていくのに、さほど時間はかからなかった。


「地下鉄テロに巻き込まれて死亡し、ひょっこり異世界転生してのんびり気ままライフを堪能します」

とか、

「別次元からこっちの世界を侵略しにひょっこりモンスターが出現して街は壊滅状態になりました」

とか……。


こういうとき、自分の想像力の乏しさを思い知らされる吉男であったが、「詳しく設定を考えるのは作者であり読者の責任ではない」と切り替え、あとはひたすら、どうにかこうにか会社に行かなくてもよい、つまりはありえない世界軸のことに思いを馳せた。


そんなことをしているうちに、下車まであと三駅になっていた。

次の駅で四分の一ほどが降り、その次の駅でどっと半分ほどいなくなり、残った勤め人のほとんどが吉男と同じ駅で降りるのが、この路線の朝の光景であった。

人が多かろうとそれは変わらない。

いつも通り、その駅でスーツ軍団がわらわらと降りていった。

すし詰め状態には変わりないが、人と人の間に余裕が生まれる。

こうなると胸で鞄を支えるのが辛いため手に持ち返る。

ついでに体を反転して扉に背中を預け脱力した。

OL はまた厳しい顔をして、サラリーマンは慌てて顔を背けた。

吉男といえば、半開きの口から生気が漏れそうな顔をしている。


それは、湿気に苦しみ押し潰され、疲労と倦怠感により生じたものとは似て非なるものであった。

ある意味もっとも面倒で、非常に疲れるものを目にしたからに他ならなかった。

遅電とは、なにもサラリーマンとOLだけに影響している訳じゃない。

乗客のなかにはもちろん銀行員だって警察官だって教師だって、フリーターだって主婦だって、仕事なしのプー太郎だって、大学生だって、高校生だって乗っている。実際ちらほらと制服姿を見ているのだ。


だから、頭の片隅で、多分、一件か二件は必ず起きているのだろうと思っていた。

でもなにも、自分の目の前で起こらなくてもいいだろうに。



おまわりさん、こっちです。

女子高生が痴漢にあっています。


作者は痴漢に遭遇したことはないですが、友人は何度か被害にあっているとか。


「痴漢、駄目、絶対」

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