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後編

彼と彼女の愚かさ

彼女の本当のねがい、とは

僕と彼女は、中学一年生から大学三年生まで、ずっと一緒だった。

付き合いは順調で、大きな危機もなかった。

今思えば、それがまずかったのかもしれない。

僕たちは、あれだけ長い間一緒にいたのに、一緒に試練を乗り越えたことがなかった。


大学四年になったばかりのころだ。

僕はバイト先の後輩の相談に乗っているうち、向こうの好意を感じるようになった。そして僕自身も、惹かれているのに気がついてしまった。

我ながら一途な性格だと自負していた僕は、少なからずショックを受けたが、彼女とは正反対の後輩は魅力的で、誘惑に負けるのに時間はかからなかった。

ただ、彼女以外を知らぬ当時の僕に、二股という器用な真似ができるはずがなかった。

彼女に後輩の存在がばれるころには、僕は後輩に溺れていた。

彼女があれだけ泣いたのを初めて見たのに、僕の心は冷めていく一方で、僕と彼女の数年間が壊れるのは早かった。


にもかかわらず、後輩とは数ヵ月で別れた。

浮気という罪悪感と背徳からくる情熱がなくなると、就職活動や卒業論文の慌ただしさと相まって、うまくいかなくなった。


彼女ならできていたのに。

彼女ならそんなことを求めなかったのに。

彼女なら何も言わずにわかってくれていたのに。


彼女と別れて思い知った、彼女の存在の大きさ。

気がついたときには遅かった。

彼女は新たな恋人を作っていた。

相手は異国の留学生で、知人の話によると、僕のことでひどく傷ついた彼女を影に日向に支えたらしかった。

そして、彼女を連れて自国に帰ってしまった。

聞いた話では、今は子供も二人いて、幸せに暮らしているらしい。

僕の愚かさのせいで、彼女は永遠に僕の手の届かないところに行ってしまった。


寂しさを埋めるだけの恋愛を繰り返すようになったのはそれからだ。

どんないい子でも満足できない。

僕はずっと、彼女の面影を追い続けている。



私は車に戻り、深呼吸を二回して、買った甘いコーヒーを半分くらい飲んで、ようやく人心地ついた。


まさか彼に会うなんて、思わなかった。


動揺を押し隠して、彼と向き合うのは本当に大変だった。

なのに彼は心が揺れる様子もなく。


意地悪をするつもりはなかった。

あんなこと、言うつもりじゃなかった。


…いや、嘘だ。

本心はそうじゃない。


彼に忘れられない人がいるのは気がついていた。

彼にとって、彼女が唯一絶対の特別であることも。

つきあっていても、私の片想いだった。

それでもあの日、彼が寝言で彼女の名を口にするまでは、知らないふりができていた。

あんなせつない響きで、あんな愛しい声音で、彼は私の名を呼んでくれたことはない。


彼女を忘れられない彼ごと受け入れるのが、愛なのかもしれない。

だとすれば、私の彼への恋は、愛に変われなかったのだ。

それだけのことだ。

しかし、愚かな私は、彼に別れを告げたことを後悔した。

彼女を越える自信など、私にはないのに。


私は、彼の特別になりたかった。

けれど、なれないこともわかっていた。


彼にとって、特別なのは彼女だけ。

私は、歴代の彼女と何も変わらない。

彼が彼女を忘れられないなら、彼女の思い出に入りこむしかない。


私が知らないはずの彼女の名を告げたことで、彼がどう思うかは、興味がない。


ただ、彼女を思い出すとき、私も一緒に思い出すことがあればいい。

優しい思い出でなくていい。

つらく悲しい思い出でいい。

癒えない傷になればいい。


私の本心を知ったら、あなたはひどい女だと思うだろうか。

そう思えばいい。

そう思ってくれればいい。

憎まれても、恨まれても、蔑まれても。

あなたに消えない傷をつけた彼女のように、どんな形ででもあなたの中に残れるならば。


これ以上、何も望むことはない。



私は、残りのコーヒーを口に含む。


やはりコーヒーは、甘いほうがいい。


どんなに愚かでも、そのときは精一杯

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