急
「は……はは……ハハハハハハハ! やったぞ……俺はやったぞぉぉおぉぉっ!」
外から女神に文句を言う者が消される音が聞こえる中、俺は魔力の種を芽吹かせることに成功し、飛び上がって喜ぶ。
文字通り血を吐いたり、激痛が走ったり色々あったが、俺は成し遂げた。
因みに、武術の種は最初から芽が出ており、手に持つとすぐに開花した。外の声を窺うに、どれだけ頑張っても種は簡単には芽吹かないようで、俺のこれまで頑張って来た努力の成果だと言える。
「……やっぱり持った感じ、生産系はダメみたいだが……まぁあんまり器用と言う訳じゃないしな……これは仕方ない。知識の種は少し芽吹いただけだが……まぁ、戦闘が出来ればいいよ。」
俺は何度も芽が出た種を見て笑顔を浮かべながら頷く。達成感が半端じゃないくらいにこみ上げて泣きそうだ。
「これで、女神様を呼ぼう……」
「石渡 海斗。……地球・日本からの異世界第一号です。行く前に何かご質問はありますか?」
思うだけで女神様が出てきた。少し虚を突かれて驚いたが、話をする。
「まずは、お礼をさせてください。異世界への切符、ありがとうございま……本当に、ありがとうございます……」
泣けて来た。それに対して女神様は微妙な顔をする。
「……まぁ、悪気はないのでしょう。はい。どういたしまして。」
「それでその、向こうの世界で、女神様のこと、崇める団体を創ってもいいですか……? この感謝の念を、忘れないために……」
「構いませんが……それで特に恩恵を授けるということはないですよ? 急に私のことを崇める者よりも長年の信徒の方が大事ですし。……まぁ本心から崇めているようですから期待はしてないようですが……」
「はい……本当に、ありがとうございます……」
俺は自ら正座して頭を下げた。その姿に対して女神は何か声を掛けようとして急に止まり結構困った顔をして海斗に告げる。
「……99.9%。」
「はい? 申し訳ありません。あの……もう一度、言っていただけません……」
「99.9%以上の確率で死亡が確定している者がこの空間に来て、残りの生命エネルギーを用いて別世界に行き、元の世界で死を迎える手筈です。」
俺は非常に嫌な予感がした。それに対して女神様は続ける。
「あなたの身の回りには地球の、日本神話の神群の加護を持っている者が非常に多くいます。それは、あなたの氏神であったり、様々です。」
「は、はい……」
俺は既に前世として割り切っている兄や両親の顔を思い浮かべる。どれもまさに神に愛されたと言うべき才能と魅力を持っているので納得できた。
「その中でも、大神 陽菜。彼女は非常に強力な神の加護、しかも天照様のお力をその身に宿しています。私は天字受賣命、努力により光の道を開く神です……あなたの努力、叶えて差し上げたかった。」
「あ、あの……どういう……」
「あなたにとっては残念なことですが……蘇生が、決まりました。」
目の前が真っ暗になった気がした。
「主神の意には背けません。それに、急に信仰を始めましたがその量では私が介入するには……」
「そ、んな……こんなに……」
「ですが、刻印を与えます。」
俺が能力の種を見て泣きそうになっていると天字受賣命様はそう言って俺の手に何かの印を刻んだ。
「あなたが清く赤き心で努力を続ける限り、その魂は私の下へと還ってきます。ただし、その効果は5年程度でしょう。努力を怠らず、自らを傷つけないで急死した場合はこちらへ。もし来なくとも、あなたが…………天上へと逝けま……」
「天字受賣命様ぁあぁぁぁあっ!」
消え行く自らの体を意識した時にはすでに遅く、俺の意識はぷっつりと消えてなくなった。
「……っ! 病院……」
「あ……あぁぁぁあぁっ! ぅぇえええぇぇぇん!」
「いってぇぇぇええっ!」
目を覚ますと病院だった。それと同時に誰かが泣きながら強く抱きしめて来るので叫び、看護師たちが入って来る。
だが、そんなことはどうでもいい。手に刻印があるかどうかが問題だ。
「あった……! よかった……」
「よかったじゃないです!」
ビンタされた。誰かと思ってその相手を睨むと陽菜だ。目の下には隈が出来ており、涙などで顔がグチャグチャでいつもの美貌が台無しだ。
「お嬢様、相手は病人です。……君、意識は大丈夫かね?」
「……すいません。モルヒネってあります? 痛いのでいっぱい打って欲しいんですけど。」
「……いっぱい打つと、死んでしまうからダメだ。それと、痛いなら座薬を用意するから待っていなさい。」
「私が挿れます!」
この場にいる全員がギョッとした顔で発言者を見る。
「お、お嬢様……? そういったことは、看護師が……」
「寝不足で頭がおかしくなったんじゃ……」
「すみません。頭がおかしいかもしれないので精神安定剤をいっぱいください。たくさん。」
「……血がない時にそう言う薬を大量に飲むのはあまりよくない。」
海斗の言葉に陽菜がやけに恐ろしい顔で海斗の顔を覗き込んで告げた。
「遺書、読みました……絶対に、許しません……絶対に……死ぬ、なんて……絶対に許しません……この歳で、未亡人なんて……絶対に嫌ですから……死ぬときは、私と一緒です……」
「遺書……あぁ、アレ。見つかったのか……早いな……」
海斗は血が足りない頭でぼんやりそう言って気付いた。
「……未亡人?」
「……あぁ、そう言えば……遺書にはとんだ勘違いの、非っ常に変な部分がありましたね……誤解の文章が……」
陽菜はそこで不自然に会話を途切れさせて急に顔を海斗に近付ける。
「誰が、陸斗さんと両想いなんですか? 私はずっと……初めて会って、同じ場所でお稽古をして、皆が流石って言う中で一人だけ頑張ったねと才能ではなく私の頑張りを褒めてくれたあなたのことをずっと、ずっと想っていましたよ。もう一度尋ねます。誰が、両想いなんて、してるんですか?」
何か怖い。海斗は間近にある顔を見てそう思った。そんな折に何故か軽装の鎧を身に纏った陸斗が不自然に低空から降りてきた。
「海斗! 無事だったのか……じゃあこの薬草は要らないか……」
「り、陸斗……その恰好は……もしかして……」
陽菜が突然現れた陸斗を見るために顔を話したところで海斗は陸斗を見て表情を強張らせた。陸斗は微妙な顔をして手に持っていた発光する草を不自然に消して海斗に説明をする。
「ダルギシュヴァルト……とかいう、変な世界に連れて行かれてさ、それで勇者様だとか何だとか言われて……あ、そこだと魔法とか色々あるんだ。それで色んな人と旅して、魔王と戦い……そんなことはいいんだ。」
海斗は陸斗の話に頭が追い付かず口をパクパクさせるだけだ。
「陽菜。別世界で色んな人と出会ったけど、やっぱり君が「お断りします。私は海斗さんが好きなので。」……」
高速で振られた陸斗。変な静寂が場に降りるが、取り敢えず海斗は叫ばざるを得なかった。
「お前が行くのかよぉおぉぉおぉぉっ! ふざけんあっ……」
「海斗さん!? ドクター! 海斗さんが!」
「急に叫んだことによる貧血ですな。安静にさせてください。峠は越したのでお嬢様は一度お帰りになられた方が……」
「……そうですね。お風呂を借ります。そして、海斗さんと添い寝を……」
「……振られっぁあああぁぁぁぁぁああっ! またかよぉおおぉおぉっ!」
海斗は夢の世界に、陽菜は愛する人との素晴らしい世界に、そして陸斗は再召喚されて別の世界へと旅立った。




