私、お姫様抱っこされました
とりあえず部屋で休んでなよ、と レオネルは何事もなかったかのようにいつも通りの笑みを浮かべて言った。
私がぎこちなく頷くと彼はどこかに行ってしまった。
私は案内してくれるメイドさんのあとをとぼとぼとついていき、部屋について一人になった途端、座り込んでしまう。
…………怖かった。
本気じゃないかもしれないけど、怒ったレオネルのに威圧感はすごかった。
なんでレオネルはあんなに怒ったのだろう?
私にとってはただの世間話のつもりだった。
でも彼にとっては地雷だったのだ。
お兄さんとお姉さんとの間になにかあるのだろうか?
知り合って間もない私が聞いて怒るようなことが。
考え込んでると、ノックの音がした。
はい、と返事をするも立てない。
あれ、と思っている間に訪問者が入ってきた。
「ユウ殿、失礼する」
「オイゲンさん……」
昨日と変わらず、キッチリ軍服を着こんだ彼は座り込んでいる私を見て目を丸くする。
「どうかされたのか?」
「いえ……その……腰が抜けたみたいで。立てないんです……」
穴があったら埋まりたい。
穴がないなら狭い隙間でもいい。
穴も隙間もないなら毛布にくるまりたい。
そんなどうしようもないことを割りと真剣に思っていると、ふわりと体が宙に浮かんだ。
突然の浮遊感に驚いてさいると、耳元で涼やかな声が聞こえた。
「しっかり掴まってください」
「は、はい……」
なんだかわからないまま、とりあえず掴まれそうなところに掴まる。
私が掴まったのを確認したのか、ゆっくりと動き出す。
んん?なにこの状況。
膝の裏と腰にしっかりと手を当てられていて、動いている間も安定している。
あ、楽だこれ。
って、え?
もしかしてこれってお姫様抱っこってやつですか!?
お姫様抱っこされたの初めてなんですが!!
いや、小さい頃に父にされてたか?
身内はノーカウントだ!
というか、腰大丈夫だろうかこの人。
重くないんだろうか。私のせいで腰を痛めたりしたらショックで立ち直れないかもしれない。
ところで。
このひと、だれ?
色々と混乱をしている私など構いもせず、彼は真っ直ぐに歩く。
そして私は慎重にソファーの上に下ろされた。
その仕草にちょっとどぎまぎしながら、私は蚊の鳴くような声でお礼を言った。
「ありがとうございます……」
「いえ、当然のことをしたまでです」
無表情のまま、私を運んでくれた彼は答えた。
改めて彼を見てみる。
レオネルまでとはいかずも彼も充分整った顔立ちをしている。
ダークブラウンの髪はしっかりと梳かしつけられており、エメラルドグリーンの瞳は涼やかで理知的だ。
たぶん、私と年齢はそんなに変わらないだろう。
まだ少年と呼ぶのに相応しい彼は、美少年だ。
彼をぼけーっと見つめていると、低い声が部屋に響く。
「……私がユウ殿を運んだものを」
なんか忘れているような気がするなぁと思っていたらオイゲンの存在をすっかり忘れていたらしい。
恨みがましい声音を出すオイゲンに、忘れていてごめんなさい、心の中で謝っておく。
「ご冗談を。数日前に腰を痛めたのはどなたでしたっけ?私の記憶が正しければ貴方だったと思うのですが」
「うぐっ」
彼の冷静な一言に、返す言葉が見つからないらしいオイゲンが言葉を詰まらせる。
と言うかオイゲンさん。
腰痛めたばかりなのに私を運ぼうとしたのか?それでぎっくり腰とかになったら笑えないからね!
オイゲンが動く前に私を運んでくれた彼に感謝しよう。
「貴方に無茶をされては困ります。貴方の無茶の尻拭いをするのは息子である私なのですから」
「そうだな……おまえには迷惑をかけてるな」
「そう思うなら無茶はしないでください。それよりも彼女が説明をして欲しそうな顔をしてますよ?」
ぽかん、とした顔で彼らの会話を聞いていると、気を遣ってくれたのか、説明をして貰えそうな流れを作ってくれた。
無表情のくせに何て気が利くんだ!
あ、無表情は関係ないか。
「ああ、これは失礼した。ユウ殿、私の隣にいるのは息子のルディガーだ」
「ルディガー・アウデンリートです。本日よりユウ殿付きの護衛となりました。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
「ルディガーはユウ殿と同い年だ。この通り、無愛想だが、親の贔屓目をなしにしても護衛として優秀だ。仲良くやってほしい」
「は、はい……」
「……………」
ルディガーは無表情でじっと私を見ている。
な、なんだろう。美少年にじっと見つめられると恥ずかしい。いや、美少年じゃなくても居たたまれない気持ちになるが。
「な、なに?」
あまりの居たたまれなさに思わず声を掛けると、フイッと顔をそらして、ルディガーは呟いた。
「いえ……とても私と同い年には見えないなとおも」
「ル、ルディ!!」
慌ててオイゲンが彼の口を手で塞ぐ。
それに対しルディガーは迷惑そうな顔をして、オイゲンの手を退かした。
そのやり取りでわかった。
ルディガーの言いたかったことが。
つまり彼は、私を見て父親と同じことを思ったのだ。
年齢よりも幼く見えると。
私はルディガーにお姫様抱っこをして貰った恩を忘れて誓った。
ーーーこの親子いつかギャフンと言わせてやる!!
すみません、後半部分書き直しました。
前の話もちょこちょこ書き直したり、消したり、足したりしてます(´ε`;)ゞ




