私、魔王子殿下を怒らせました
爽やかな朝。
美味しそうな朝食に香りの良い紅茶。
なんて素敵な朝の始まりでしょう。
………ここが異世界じゃなかったらな!!!
ついでに目の前に心臓に悪いくらい整った顔をした魔王子様がいなければもっといいんだけどな!!
熱い紅茶で舌を火傷してしまえ!
なんて呪いつつ、ついつい恨みがましい視線をレオネルに送ってしまう。しかし彼はそんな私の視線を気にすることなく、優雅に朝食を食べている。
生まれ持っての品の良さと言うやつだろうか。さすが王子様と感心するべきなんだろうか。
とにかく、色んな意味で負けた気がする。
「こっちの食事はどうかな?」
黙って食べているのを食事が口合わないからだと勘違いしたのか、レオネルが心配そうに聞いてきた。
私は基本的になんでも美味しく頂ける方なので、食事に関しての心配は杞憂だ。
黙って食べていたのは、色々な敗北感に打ちひがれていただけで。
「とっても美味しいよ。こんな美味しい朝ごはんはじめて食べたかも」
素直に美味しいと伝える。
レオネルに恨みはあるが、食べ物に罪はない。八つ当たりして不味いなんて言ったら、食材と作ってくれた人に失礼だ。
「そう。なら良かった」
にっこりとレオネルは微笑む。
……やめてー!!!
そんな穢れのないような笑顔を浮かべないで!!
騙されちゃうから!!
自慢じゃないけど、私は単純なんだぞ!!
本当に自慢じゃないな!
「食事が終わったら街に出ようか?それともさっそく鬼ごっこをする?」
「ちょっと待った!なんで鬼ごっこする前提なの?そもそもなんで追いかけっこなの?」
「それは手っ取り早くきみの能力を知るためだよ。人は追い込まれるとすごい力を発揮することが多いし、追い込むには鬼ごっこが一番適してると思うんだ」
えっと?どこから突っ込みましょうかね?
まず、あれだな、うん。
鬼ごっこって、あれでしょ?子供が、鬼さんこちらーってキャッキャ走り回っているアレでしょ?
それのどこに追い込まれる要素があるんでしょう?
私、よくわかんない。てへぺろっ☆
いやいや、ふざけている場合ではない。
現実を見ろ、私。
「あー……うん、鬼ごっこについてはもういいや」
「そう?」
ちょっと残念そうにレオネルは言った。
……こいつ、さては私で遊んでたな?
今に見てろよ、いつか私がもて遊んでやるからな!!
って違う。どうも私はレオネルの態度を天の邪鬼にとってしまうようだ。
いけない、いけない。もっと平和にいこう。喧嘩腰ダメ、絶対。
「それよりも、この世界……レノスだっけ?レノスについて詳しく教えて」
「ああ、そうだね。昨日はサラリと説明しただけだったしね。いいよ、僕がわかる範囲内なら教えてあげる」
レオネルに質問を重ねわかったことは、種族ごとに大陸を分けて住んでいること。
種族によっては差別があること。
やっぱり奴隷みたいな身分の人もいて、身分の差が激しいこと。
これは人族に顕著として現れているらしい。
あとは実際に世界を自分の目で見て確かめた方がいい、と勧められた。
他人から聞くのと実際に見るのではわりと大きな差があるから、あまり人からのは情報を宛にしてはいけない、と言われた。
なるほど、と教えて貰った情報を頭にきちんと刻み込む。
この世界の時間の流れは元の世界とそんなに代わりなく、1日は24時間で一年は12ヶ月あり、一月は30日ずつあるそうだ。
また四季もあるようで、今の時期は初夏だ。
こちらに来る前もちょうど制服が夏服に衣替えをしたばかりだったので、季節的にもあまりズレはないようだ。
ただ、私がこっちに来る前は夜だったはずなのに、こっちに来たら昼間だった。
その辺りのズレはなんなのだろうか。飛行機の時差みたいなものなのだろうか。
それをレオネルに問うと、レオネルの回答も私と同じようなものだった。
異世界という本来なら干渉することのできない場所に無理やり干渉した弊害だろう、と。
レノスについての質問を思い付くだけしたあと、私はふと思いついたことを聞いてみる。
「ねえ、レオネルって兄弟はいるの?」
その質問をした瞬間、レオネルの笑みが凍りついた。
しかし私はレオネルの細やかな表情の違いに気づかないまま質問を続ける。
「次の魔王はレオネルなの?」
しばらくの間を置いて、レオネルは凍りついた笑顔のまま答えた。
「違うよ。僕には上に兄と姉がいるから、僕が次の魔王になる可能性は低いな」
「お兄さんとお姉さんがいるの?どんな人?やっぱりレオネルに似てるのかな」
私はレオネルが怒ったところを見たことがなかった。まだ知り合って二日目だし、何を言っても彼は怒らなかった。
オイゲンがグチグチ言っても笑っていたし、私がとんでもなく失礼なことを言っても怒らなかった。……代わりにオイゲンに怒られたけど。
だからこの人は怒らない人なんだと思い込んでいた。
まだ彼のことを全然知らないくせに、よくそんな思い込みができたものだと嘲笑いたいくらいに、彼のことをわかっているつもりだった。
きっとその思い込みが、彼の怒りの導火線に火を点ける引き金となったのだろうと、後で振り替えってみて思う。
「それを知ってどうするの?」
氷よりも冷たいんじゃないかと思える声音で、彼は言った。きれいな冷笑を浮かべて。
「どうって……私は、別に……ただ」
「ねえ」
彼は私の言葉を遮るように言った。
違う、わざと遮ったのだ。
「きみが何を思ってそんなことを聞いてきたのか、知らないし知りたくもないけど……でもさぁ、きみわかってる?自分の立場が」
彼は唇を歪めて笑った。
端正な顔に、美しい冷酷な笑みを浮かべて、蔑むような目を私に向ける。
そこで私はようやく気づいた。
彼を怒らせたことを。
今までとは違う、氷のような瞳に貫かれて、けれど優しい声音で彼は言う。
「勘違いしているようだけど、きみは客人じゃないんだよ。きみは、捕虜だ。利用価値のある、ね」
茫然としたまま、私は彼を見つめる。
彼はまるで、愛しい人を見るような優しい笑みを浮かべて言った。
「だから、僕を怒らせない方がいいよ?怒りのあまり、きみを滅茶苦茶にしてしまうかもしれないから」
最初と最後の温度差が違う。
なんか全体的に直したいです。
今度の休みの時に直します……




