私、鬼ごっこをすることになりました
「というわけで、僕と鬼ごっこでもしようか」
というわけでって、どういうわけだ。
魔王陛下との謁見後、私はレオネルにより城内を案内された。
感想はただひとこと。広い。広すぎる。
自慢じゃないけど私は道を覚えるのが苦手なのだ。
絶対迷子になる自信がある。
1人で城内を歩くのはきちんと覚えてからにしよう。かなり時間が掛かりそうだが。
その後、私の寝泊まりをする部屋に案内された。
この部屋がまた広い。私の家のリビングより広い。
ベッドはふわっふわっで、とても気持ちいい。
さすがお城。お金がかかってる。
私が物珍しそうに部屋の中を見て周り、落ち着いたところでレオネルからのさっきの台詞である。
脈略が無さすぎる。
ていうか鬼ごっこってなんだ。子供か。
「嫌です。私、疲れてるの。鬼ごっこなんてしたくない」
「うーん、でもきみのためになると思うよ?」
なにをどうしたら私のためになるんだ。
疲れるだけじゃないか。
「きみは『勇者』だ。特殊な能力があるはずなんだ。その能力を知ることはきっとこの先役立つ。この城の中にいれば安全かもしれない。でも完全じゃない。きみの情報が他国に伝わって、きみを利用しようと企む輩が現れるかもしれない。そうしたの時、きみが力を使えるか使えないかによって状況がうんと変わってくる。自分の身を守るためにも自分の力を知っておいた方が絶対にいい」
確かにその通りだ。
使える力があるなら使える方がいいに決まってる。
レオネルの言うことは正しい。
それは認めよう。
だけど、
「あなたの言うことは正しいと思う。
でもそれと鬼ごっこになんの繋がりが?」
騙されないぞ、と気合いを込めて、できるだけ冷たい目線でレオネルを見る。
そしたら彼はイイ笑顔で答えた。
「決まってる。僕がしたいからに決まってるじゃないか」
だめだ、こいつ、話通じない。
私はそうそう白旗をあげたくなった。
「まぁ、今日はゆっくり休むといい。鬼ごっこは明日からにしよう」
はい?私やるなんて一言も言ってませんけど?
「わかった?明日からだから、ね?」
レオネルが怖い笑みを浮かべる。
ぞわぞわっと鳥肌が立ち、気づけばブンブンと首を縦に振っていた。
本能が叫んでる。彼に逆らったらまずい、と。
「―――良い子だ。今日ゆっくりと街を案内してあげられなかったから、明日はゆっくりと案内してあげる」
急に艶めいた声で囁かれ、今度は違う意味で鳥肌が立った。
彼の声は私好みなのだ。
低すぎず、甘い声。耳元で掠れた声で甘く囁かればくらりとする。
録音したい……そんな誘惑にかられたとき、私はふとスマホの存在を思い出す。
そういえば、私はスマホをどうしたんだろうか。
このレノスに来る前、確かに手に持っていたはず。
ポケットを探してみたが見つからない。
鞄の中だろうか。
急に鞄を取り出しごそごそとし出した私に、レオネルは怪訝そうな顔をする。
「ユウ?なに探してるの?」
「スマホ……ここに来る前まで持ってたはずなのに……どこいったんだろう……」
「すまほ?」
「そう。手のひらくらいの長方形のもの。見なかった?」
「いや……見なかったな。それは大事な物?」
「うん、大事。元の世界へ戻ったら無いと困るの」
「そうか……とりあえず、念じてみれば?この世界では思い入れのあるものは念じれば手元にくる……こともあるから」
なんだその間は。
念じれば手元に来るのか、来ないのかハッキリしろ。と言いたいのを堪えて、藁にもすがる想いで念じる。
スマホ……私の大事な相棒……お願いだから出てきて!
そう念じてすぐポンっと音がして私の目の前にスマホが表れた。
まじか。本当に手元に来ちゃったよ!
疑ってごめん、レオネル。
そしてお帰り、相棒。
私はスマホを手に取ると電源を入れてみる。が、画面は暗いまま。
壊れている様子もないので充電切れだろう。
そう言えば、充電20%くらいしか残ってなかった気がする。
「本当に出てきたよ……びっくりだ」
アドバイスした本人が一番驚いているってどういうことだ。
やっぱり適当なこと言ったのか?
まあ、スマホを取り戻せたから文句は言わないけど。
「あなたも、あのローブ、こうやって取り出したんじゃないの?」
「そうだけど……よく気付いたね?」
少し感心したようにレオネルは言った。
馬鹿にしないでほしい。混乱しててもそれくらいわかる。
……………たぶん。
「そうだ。僕のことを名前で呼んでほしいな。レオって呼んでよ」
「え……や、やだ」
「なんで?」
「なんか、嫌な予感がするから……」
「大丈夫だよ。僕はきみの世話を父上から任されている。そんなきみが僕のことを愛称で呼んでも誰も咎めないし咎めることは赦さないから」
それって、咎められるようなことだったんですか?
まあ、レオネル美形だし、愛称なんかで呼んだらまわりの女性に睨まれそうだもんね。こわい。
だから、断固拒否りたい。
「僕の言うことが聞けないの?」
凄みの増した顔が私に迫る。
近い、近い!
「あああああの……っ!」
「ユウ?」
顔スレスレまで近づいた端正な顔に私の心臓がギブアップと叫び出す。
「名前を、呼んで?」
そう言われた瞬間、私は彼に降服した。
勝てない。知らない女性陣の嫉妬よりも目の前にいる美形の方が怖い。
「れ、レオ……?」
そう呼ぶと、彼は嬉しそうに笑った。
まるで無邪気な子供のような笑顔で。
「うん」
そんな笑顔に見惚れてしまったのは秘密だ。
胸の高鳴りが収まらないことも。
こうして私の前途多難な異世界生活1日目が終了した。
なんか消化不良なので書き直す……かも?




