私、魔王子殿下のお世話になることになりました
華麗に弧を描いて飛んでいくレオネルを見て、死んだな、と思った。
せっかくの美形で美声の持ち主に出会えたのに実に残念だ。
成仏してください。
ちーんと心の中で合掌していると、レオネルは落下する前に華麗に空中で一回転をし、何事もなかったかのように着地した。
その華麗な体捌きに目を丸くしていると、彼は真っ直ぐ元の位置に戻ってきた。
顔面を思いっきり殴られたはずなのに、彼は顔がちょっと赤くなる程度の傷しか負ってなかった。
なんでだ、魔族って体の作りが違うのか。
「チッ。その程度しかダメージを与えられんかったか」
「わかっててのことでしょう?」
「……ふん。無事に成功したようだな」
「ええ。ですが、大分魔力を削られてしまいました。まだまだ改良の余地があるかと」
「異世界から勇者を呼ぶ必要はない。これ以上無駄なことをするのよせ。………と言ってもおまえは聞かんのだろうがな」
魔王の言葉に、レオネルはただ笑みを浮かべるのみだった。
それって肯定してるってことですよね?
また異世界から誰か呼ぶ気なのかこの王子は。
というかなんで魔王の息子が勇者を召喚するの?
魔王って勇者が倒すべき存在ですよね?
あれ、なんかおかしいぞ。
と今更ながら気づいた。今更過ぎる気がしないでもないが。
「それで、そこのローブを羽織っている者が勇者か?」
「ええ、そうです。ユウ、こちらへ」
レオネルに手招きされるまま、レオネルの側に行く。
そして、ローブを取られた。
「彼女が私が異世界より召喚した勇者です」
「えっと……初めまして、ユウ・ハヤカワです」
「ほう、そなたが………なるほどな」
魔王はじっと私を観察すると、何かに納得したように頷く。
そして、笑みを浮かべた。
「ユウ、と言ったな?ようこそ、わが魔王国へ。そしてうちの馬鹿息子が勝手な真似をして申し訳なかった。私の名は、オーレリアン・ドゥ・ヴィリエ。我が名において、そなたを必ず元の世界へ帰すことを誓おう。私にできることならなんでもする。遠慮なく言ってくれ」
そう言って頭を下げた魔王に私は感激した。
魔王なのに、めっちゃいい人だ!
やばい、私、魔王陛下のファンになりそう。
というかたった今なりました。
容姿よし、声よし、性格よし、の三拍子である。
惚れるにきまっている。
「その……ちゃんと元の世界へ帰らせてくれるなら別に構いません」
「すまない……ありがとう、ユウ。元の世界へ帰れるまで、我が城でのんびりと過ごしてくれ」
「ありがとうございます」
魔王陛下は私の名を呼んでくれた!
と、1人脳内で転げ回る。
だが、もちろんそんなことを表情には出さない。
憧れの人の前でそんな失態はしない。
黙ってことの成り行きを見守っていたレオネルが口を開いた。
「父上、彼女の世話を、私に任せて貰えませんか?私は彼女を無理矢理こちらに連れてきてしまいました。せめてもの罪滅ぼしに彼女の世話をさせてほしいのです」
「おまえの罪滅ぼしは一刻も早く彼女を元の世界へ帰すことだろう」
「残念ながら、私の魔力を使い果たしてしまいました。しばらくは魔法が使えそうにないのです。だからどうか私に、彼女を帰す以外でも罪滅ぼしをさせてください」
「…………なにを企んでいる?」
「なにも」
魔王はしばらく睨むようにレオネルを見つめたあと、ため息をついた。
「わかった。ユウの世話はおまえに任せよう。ユウもそれで良いか?」
「はい……」
脳内で未だに転げ回っていた私は、魔王親子の会話がほとんど耳に入っていなかった。
そのため、無意識に頷いてしまった。
私の返事を聞いたレオネルは嬉しそうに私の手をとり、指先にキスをした。
その感覚にぎょっとして手を引っ込めようとするも、レオネルがそれを許さないように手を掴んだ。
「この、レオネル・ドゥ・ヴィリエの名にかけて、きみを退屈させないことを誓う」
レオネルがそっと私の耳元に顔を寄せ、囁いた。
―――だから、覚悟しておいてね?
この時、私は自分の選択を間違えたことに気づいた。
これから私の異世界生活はどうなるのだろう?
不安しか浮かばないのは、きっとこの目の前で妖しく微笑む王子のせいに違いない。
のんびり投稿していこうと思います。




