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私、魔王に会いました

 



 ふと気付けば、さっきまでいた薄暗い部屋の中ではなく、外に出ていた。


 レオネルに聞いたところ、私を召喚した場所は数ヶ月に1度魔力が高まる特殊なところなのだそうだ。

 その魔力の高まりに乗じて勇者(わたし)を召喚すれば、成功率が高まるんじゃないか、と考えてその場を選んだらしい。

 普通の場所では召喚するのに必要な魔力はとても1人では足りないくらい必要で、下手をしたら命を失う危険もあったのだという。


 よくそんな危険なモノに挑戦しようと思ったな。

 レオネルには挑戦者(チャレンジャー)の称号を与えたい。



  最も彼が言うには、失敗してもさっきまでいた場所がなくなるだけで、レオネル自身には被害がないように細工はしたらしいが。

 その場所がなくなるだけって……特殊な所を無くそうとしちゃって大丈夫なのか。というかそれって何気に凄いことなんじゃないか?サラッと流したけど。


 そして彼はこうも続けた。



「僕たち魔族が使う魔法と人族が使う魔法は微妙に違っていてね。僕らの魔法は力を爆発させるようなものばかりだけど、人族の魔法は繊細で美しい。レース編みみたいにね。その魔法は複雑になるほど美しい。きみを召喚した魔法も、すごく複雑で高度な魔法だった。だからその分、魔力の消耗も激しいし、失敗すれば、その魔法を使った者たちはただではすまされない」


 今まで何人が犠牲になったのやら、と彼は小さく呟いた。

 やっぱり普段レオネルが使う魔法の使い方とは違うらしく、思ったよりも魔力の消耗が激しかった、とぼやいた。


「本当は、一瞬で城に帰るつもりだったんだけどな。ここまでしか跳べなかった」


 ちょっと悔しそうに彼は言った。

 そこで私は気づく。

 ああ、場所がいつの間にか変わっていたのは、魔法を使ったからなのか、と。

 転移の魔法を使えるなんて便利だな。

 使えるなら私も是非使えるようになりたい魔法だ。



「城まで歩こうか。ここなら城までそんな遠い場所じゃないし」


 有難い申し出に私は勢いよく頷いた。

 異世界がどんな風なのか見てみたいと思ったのだ。



「殿下……その格好では目立ちませんか?」

「そうだな……うーんいつもなら魔法を使って誤魔化すんだけど、魔力がなぁ……」

「いえ、殿下もそうなのですが……勇者どのの格好が、その……こちらでは見ないものなので」

「あぁ……まあ、そうだね……あれを出すかな」


 その会話を聞いてふと、自分の格好を思い出す。

 高校の帰りにそのままバイト先に行ったので制服のままだった。

 そしてレオネルたちの格好と比べてみる。



 筋肉親父ことオイゲンは軍服っぽい格好をしている。

 腰には重そうな剣をつるさげて如何にも軍人らしい。

 マントをなびかせて佇む様は格好いいと思う。

 ただ、残念なことに、彼は筋肉親父なのだ。

 顔立ちは渋くて、若い頃はきっと凛々しいイケメンだったのだろうが、今はただの筋肉中年親父に成り果てているため、私好みではない。別に幼いと言われたことを根にもっているわけではない。


 一方のレオネルは、シャツとズボンという、シンプルな格好だ。

 王子様なのだから、もっと王子様らしい格好をすればいいものを、と思わなくもないが、美形は何を着ても格好いいと相場が決まっているのだ。

 シンプルゆえに、その美貌が際立つ。

 美形っていろいろ得をしてると思う。主に服装で。



 そんなゲームの服装みたいな人たちの中でブレザーにスクールバックを持った私はさぞ目立つだろう。

 言ってみれば、町中で1人で好きなゲームのキャラクターのコスプレをしているみたいなものだ。


 だけれど、我らが陣営には王子様(レオネル)という、この世の者とは思えない美貌の持ち主がいるのだ。

 彼がいれば私の存在なんて霞むに違いない。

 服装はアレだが、容姿は平凡だからね!


 ……自分で言って傷ついたりなんてしていない、していませんとも。



 そんなことを考えていると頭からなにかを被せられた。

 なにを、と思って取って見てみれば、触り心地のよいフードのついたローブみたいなものだった。


「きみの髪と瞳とその格好は目立つ。だから、それを株って」

「あ、ありがとう……」


 どこからこれを取り出したんだろう、と疑問に思わなくもないが、美形で美声の持ち主であるレオネルに気を遣って貰ってちょっと胸がきゅんとした。

 これは、声にときめいているのであって、断じて彼自身にときめいたわけではないのだ。



 そうこうしている内に街に入った。

 街はすごい賑わいだった。

 元気いっぱいに遊んでいる子供たち、生き生きと仕事をする街の人たち。

 活気溢れる街並みに、私はレオネルの言った平和と言う言葉は本当なのだと実感する。


 そのまま街を進んで行くと街の賑わいが一層増した。

 繁華街エリアに入ったのだろう。

 あちこちで大声で客を呼ぶ声が聞こえる。

 私は迷子にならないよう、レオネルやオイゲンのあとをしっかりくっついて歩きつつ、出店の商品を覗く。

 美味しそうな食べ物や、なにこれと目を疑いたくなる物、変な形をしてるけどなんとなく見覚えがある物など、珍しい物を見るたびに本当に知らない場所に来たんだという実感と好奇心が錯誤する。



 そんな物思いに沈んでいると、ざわざわしていることに気づいた。

 なんだろうと周りを見てみると、皆がうっとりとした目で私の目の前にいる人を見ていた。




「きゃあ、レオネル様だわ!レオネル様相変わらず美しいわ……」

「オイゲン様だ!世界を救った英雄を間近で見れるなんて感激だ……!」




 なんと、レオネルだけではなくオイゲンも有名だったらしい。

 あれだけの人に見られているのに彼らは気にした様子もなく普通に歩いている。

 この扱いに慣れているのだろう。

 私なら絶対慣れないけどな。



 幸いなことに、彼らが目立ちまくってくれたお陰で私はまったく目立つことなく城に入ることができた。

 有名人ってすごい。


 魔王のお城は私が思い描いていた恐ろしいダンジョンみたいな外見ではなく、わりとなんというか……普通のお城だった。

 もちろん、魔王が住むのに相応しい威厳はあるし、すごく立派なお城だ。

 ただ、魔王の城=黒いという偏見が私の中であったため、灰色の外見に拍子抜けしてしまった。


 レオネルたちが門番らしき兵士たちと一言二言話をするだけで、あっさりと城内に入れた。

 城内はすごかった。

 清潔に保たれ、埃ひとつ見当たらない。窓なんてピカピカだ。

 さりげなく置かれている物も嫌味な感じがなく、むしろ品のよさを引き出している。

 これ本当に魔王の城ですか?と突っ込まずにはいられないくらい、素晴らしい内装だった。



 内装に感心している間にいつの間にか豪華な部屋に来ていた。

 奥に置かれた立派な椅子が目を惹く。

 なんか見覚えあるぞ……ゲームとかで。あれだ、謁見の間というやつか。


 などと思っている間にレオネルが平伏した。

 え、と思う暇もなく、筋肉親父に無理やり平伏させられる。


 しばらくして、渋い声が響く。

「顔をあげよ」

 その渋い声に私の脳天が貫かれた。

 な、なんという素敵ボイスでしょう……!

 こんな声のお父さんがほしい……!


 と脳内で暴走してると、二人が顔を上げる気配がしたので、恐る恐る私も顔を上げる。

 立派な椅子に座っていたのは、なんともダンディーなおじ様だった。



 美しい銀髪は、オールバックにされていて、それがまた彼の精悍な顔をより強調され、凄まじい威厳を放っていた。

 体格も引き締まっていて、よく鍛えられているのが伺える。

 さすが世界を救った英雄だ。


 こんな父親が欲しかった。

 と、私は心から思った。



「レオネル」

「父上……ただいま戻りました」


感動の親子の対面が見れるのかと思った。信じたかった。



「この馬鹿たれがああああああ!!!」



 そう叫ぶや否や一瞬で魔王がレオネルの前に移動し、息子(レオネル)の顔面を殴り飛ばした。

 すごい勢いで飛んで行く彼を見て、思った。


 あの時感じた死亡フラグは、(レオネル)のことだったんだな、と。




 この時、現実逃避した私は悪くないと思う。





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