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私、鬼ごっこ始めました

 無事に仲直りを果たした私は、レオネルに連れられて訓練所に来ていた。

 訓練所に行く前に動きやすい格好に着替えるように言われ、私が着替えたのは用意してもらった服ではなく、体操服だった。

 ちょうど体育があった日にこっちにきたので、体操服を持っていたのだ。

 さすがにスニーカーは持っていなかったため、動きやすいショートブーツみたいなのを借りた。


「ここは兵士たちが訓練をする場所だ。まあ、今は貸し切ってるから誰もいないけどね」

「うん……見たらわかるけど。で、なんの用があってここを貸しきったの?」

「そんなの、決まってるじゃないか」


 レオネルはにっこりと笑顔を浮かべた。


「約束しただろう?鬼ごっこをするって」


 ……やっぱりかー!!

 ええ、訓練所に連れて来られた時点で嫌な予感はしてましたとも。

 でも、逃げれないじゃないか。逃げたら強制的に鬼ごっこになるしね。

 だから、もしかしたら鬼ごっこ以外の目的があって来たのかもっていう可能性に賭けたのだ。

 結果は惨敗だったけどね!


 なにか逃げ道はないか、と辺りを見渡すと斜め後ろにルディガーがいた。

 彼はすっと目を細めた。もしや彼は私の救世主となってくれるのだろうか。


「殿下、鬼ごっことは?」

「あぁ。ユウの能力テストみたいなものだよ。ちなみに僕が鬼だ」

「なるほど……」


 ルディガーは少し考えたあと、レオネルの顔をまっすぐ見て言った。


「鬼ごっことは言え、殿下が相手ではユウに分が悪すぎます。私はユウの護衛ですので、ユウに危険が及ぶようなら私も動きますがよろしいでしょうか?」

「それで構わないよ。ユウに危ないことはしないつもりだし、きみの出番はないと思うけど」


 あっさりとレオネルの許可がおりたことにより、ルディガーも納得したらしく引き下がった。

 ちょっと待て、引き下がるな!

 鬼ごっこ自体を止めてくれよ!

 と内心思ったが、魔王子殿下にそんなことできるわけないのだ。

 だって王子様だし、悪いことをするわけじゃないし。



「ルールは簡単だ。この訓練所内を逃げ回って僕に捕まったらユウの負け。1時間逃げ切れたらユウの勝ちだ」

「1時間……」

「そう。僕は全力を出さない。魔法も使わない。ただ追いかけるだけだ」


 それならなんとかなるかもしれない。

 そう思った私が間違いだった。



「では、僕が10……いや、30数える間にできるだけ遠くに逃げて」

「わかった」

「1、2、3……」


 レオネルが数えだすと私は走り出した。

 できるだけ遠くへ。そう考えて全力で走った。

 その時、ふいにレオネルが声をかけてきた。


「あ、言い忘れてたけど、(トラップ)はたくさん仕掛けたから気をつけて」


 なんだと!?

 と思った瞬間、私の足元から地面が消えた。


「ぎゃわっ!?」


 年頃の乙女にあるまじき声を上げて、私は見事に落とし穴にはまった。

 …………罠があるってもっと早く言えよ!!

 そうレオネルを恨んだ。



 幸い、勇者としてこの世界に召喚された効果なのか、私の運動能力は格段に上がっていた。

 私は運動はそんなにできる方ではなかったため、軽くなったこの体は嬉しい。

 結構深かった落とし穴もすんなりと脱出することができた。


 脱出している間に、無情にもカウントはどんどん進んでいた。


「25、26……」



 やばい、あと5秒したらレオネルが動き出す。

 できるだけ遠くへと私はまた一歩足を踏み出した。


 ピッ


 ん?なんだこの音?

 と思ったとき、巨大なボールがどこからともなく現れて、私めがけて転がってきた。

 私の身長くらいあるボールはすごい勢いで転がっていた。


 まじか。まじか、これ。

 というか、落とし穴のすぐ近くに罠を仕掛けるとか鬼か!?


 私はとにかくボールから逃れようと全力で走った。

 その間にも私は罠にあちこち引っ掛かり、巨大な網を避けたりネバネバしたスライムみたいなのを踏んづけそうになったりした。

 罠の対処をしている間にカウントは終了し、(レオネル)も動き出した。


「29、30。よし、動くよ」


 まじか。

 なんかもう、まじかという言葉しか思い浮かばない。


 とにかく、この巨大なボールをなんとかしなければ。

 私は勇者だ。なんか特殊な攻撃技があるに違いない。

 覚醒せよ、私の攻撃技!!



 ……はい、覚醒しませんでしたねわかってましたよチクショー!!

 また新たな罠を踏み、今度は小さいボールが私めがけて無数に飛んできた。

 全部は避けきれなくて、いくつか体に当たる。い、痛い。


 えーい、もうこうなったらヤケだ!

 と私は振り返り、巨大なボールと相対する。

 迫りくるボールを私はキッと睨み、構える。

 武術の心得なんてないけれど、私は拳を構えてファイティングポーズをとる。

 マンガで読んだボクサーの真似だ。

 気分は世界チャンピオンだ。私はやる。やってやるのだ!


 そんなわけのわからないハイテンションになった私は雄叫びをあげながら会心の一撃を繰り出した。


「はぁああぁぁあぁ!!!」


 ボールの勢いに押されそうになるも、踏ん張る。

 そして全体重を右拳にのせる。

 その時、なにか別の力が私の中から流れたような気がした。


 そして、パン!と凄い音がして、ボールが消えた。


「や、やった……」


 私はマラソンをした後のように息が上がって動けなくなった。

 さっきの一撃のせいだろうか。と疲れた頭で考えていると、すぐ近くで美声がした。


「――捕まえた。僕の勝ちだ」


 ああ、私負けたんだ。


 そう思った瞬間、私の意識が遠のいた。

 意識を失う前に見たのは、心配そうに私を見るレオネルと、こちらに駆け寄ってこようとしているルディガーの姿だった。







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