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私、仲直りしました

 オイゲンの話の大半はレオネルについてだった。

 私は最初は感心しつつ、次第に顔を引きつりながらオイゲンの話を聞いた。

 途中で助けを求めるようにルディガーを見たが、彼は遠い目をしてどこかを見ていた。彼の心境を察した。


「殿下は容姿も神々しいばかりの美しさであるが、やはり殿下の一番美しいところはーーーー」


 こんな感じでレオネル賛美を聞かされ続けた私は危うくレオネル教に洗脳されるところだった。私は単純なのだ。

 だけどそんな宗教には入りたくない一心で洗脳からなんとか逃れた。

 オイゲンがレオネル好き過ぎてこわい。


 オイゲンがレオネルの魅力を語ってしばらくしたとき、ふいにルディガーがオイゲンの言葉を遮った。


「父上」

「ーーなんだ、ルディ。私の話はまだ……」

「そろそろお時間では?確か、陛下の外出に付き添うのではなかったでしょうか」

「もうそんな時間だったか……!殿下の話はまだ終わってないと言うのに……!」

「父上、陛下をお待たせさせてはなりません。早く行ってください」

「仕方ない……陛下のためだ。ユウ、それでは私は失礼する。ルディガー、ユウを頼んだぞ」

「はい、父上。おまかせください」

「い、いってらっしゃい……」


 私とルディガーはキビキビとした動作で部屋を出ていくオイゲンを見送った。

 そして扉が完全に閉まったところでルディガーからため息がこぼれた。


「すみません、ユウ。私の父が迷惑を」

「う、ううん。びっくりはしたけど……昔からああなの?」

「いえ、昔はそんなことはなかったのですが……数年前に父は殿下に命を助けられ、それからああなったのです」

「そうなんだ……そんなことが」


 オイゲンがレオネルを好き過ぎるのは、命を救われたからなのか。

 それにしてもあれはいきすぎだと思うが。


「ユウ、立てますか?」

「う、うん。たぶん」


 私はルディガーの差し出された手を取り、恐る恐る立ってみる。

 どうやら立てるようだ、と安心したところでぐらりと視界が揺れてバランスを崩した。

 倒れそうになったところで、ルディガーが体を支えてくれた。

 細いようで存外にしっかりと筋肉がついているルディガーにしがみつく格好になって、私はどきどきした。


「父の長話のせいで軽い貧血を起こしたみたいですね……本当にすみません」

「ううん、大丈夫。それより、私こそごめんなさい……」


 私が顔をあげると存外に近いところにルディガーの綺麗な顔があって、どくんと胸が高鳴る。

 綺麗なエメラルドグリーンの瞳を吸い込まれるように見つめる。


「ユウ、殿下にーーー」


 ルディガーが何か言いかけたとき、ノックの音がしてすぐに扉が開いた。


「ユウ、さっきは……」


 入ってきたのはレオネルだった。

 申し訳なさそうな顔を一瞬にして驚きに変えて、そしてすぐに笑顔を作った。


「……ごめん、お邪魔したみたいだね」


 は?お邪魔ってなんのこと?とレオネルからルディガーに顔を向けると、彼の無表情で綺麗な顔がすぐ近くにあり、私たちの今の状態が傍から見ればどう映るかを考えて私は慌ててルディガーから離れる。


 抱き合ってるみたいじゃん!!

 それじゃあ、レオネルがお邪魔したって言うのも無理ないよ!

 顔があつい。


「ちちち違うの!これは……」

「ユウが軽い貧血を起こしたので、咄嗟に私が支えただけです。殿下の勘違いです」


 ルディガーは相変わらずの無表情でクールに言った。

 なんでそんなにクールなの?

 一人で慌ててた私がバカみたいじゃないか!


「それでは、私は部屋の外で待機しているので」


 そう言うとルディガーはレオネルの横を通り過ぎて部屋を出ていった。

 パタンとしまった扉に私は呆然とした。


 ちょっと待ってルディガー!

 なんで出てくんだよ!いきなり二人きりは気まずいよ!


 沈黙が部屋を包む。

 このままではいけない。なにか言わないと。

 でもなにを?なにを言ったらいいの?


 ーーいや、私がレオネルに言うことは決まってる。



「レオ、さっきはごめんなさい!」

「ユウ、さっきはごめん!」


「なんでレオが謝るの!?」

「なんでユウが謝るんだ!?」


 二人同時に謝って二人同時に驚いた。

 びっくりするくらいシンクロしていて、どちらからともなく笑い出す。



「あーおかしい……こんなに笑ったのは久しぶりだ」

「私も……」


 私たちは顔を見合わせる。


「ユウ、さっきはごめん。あんなに酷いことを言うつもりはなかったんだ」

「ううん、私の方こそごめんなさい。私、無神経だったね」

「いや、あれくらいの質問はしてくるのが当然だよ。だから、ユウは悪くない」

「レオ……じゃあ、仲直りしてくれる?」

「……許してくれるの?」

「許すもなにも……さっきはちょっとお互いに配慮が足りなかっただけだし、仲良くなるためにケンカをするのは悪いことじゃないでしょう?だから、仲直りしよう。私、レオのこともっと知りたい」

「ユウ……ありがとう」


 レオネルは今まで見たことないくらい、柔らかく微笑んだ。

 そうして微笑むと、私と年齢はあまり変わらないんじゃないかと思えた。

 普段の彼の笑顔はとても大人びて見えるのだ。


 私はレオネルに手を差し出す。

 レオネルは不思議そうに私の手を見つめた。


「私のいた国では、仲直りする時に握手をするの」

「なるほど」


 説明するとレオネルは私の手をとった。

 細長くて、ちょっとゴツゴツした手。

 その手をしっかりと私は握った。


「これで仲直りね!」


 そう言った私の顔をレオネルは眩しそうに見た。



 こうして私たちは仲直りを果たしたのだった。





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