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第3話 創世の神

黒く染まった空が割れる。


色の抜けた地が裂ける。


空気が悲鳴を上げる。


この”アカリス”が楔を失ったことで世界を保てなくなっているのだ。

この世界は、滅ぶ。

内包物は冥界へと堕ち行く。


ああ、これが世界の終焉か。


悲しいものだ。




堕ちる。


現世と冥界の狭間に放り出された私は、冥界の引力に引かれて堕ちてゆく。




私は此処に居た。


此処には、光が在った。


美しい宝石の大地が在った。


優しい風が在った。


母のような林が在った。


さながら夢の世界のような此処は―


―冥界では亡い。



「驚いたかな?済まないね。どうやら私は君をここに引き込んでしまったらしい」


夢のような甘い口調でささやく声の主は林の中、背後に立っていた。

まるで絵本に出てくる王子様だな。


王冠こそ被っていないものの、その雰囲気は女の子が憧れる王子様そのものだ。


この私が気配を捉えられなかった。

気配が分散しているせいだな。

此処には、この王子様の魔力が満ちている。

―いや、此処はこいつが創ったのか。

つまり、此処はこいつの腹の中同然。

木の葉を隠したければ、どうしたらよかったのか―


「済まないと思うのなら、私を解放してくれないか?私も人の子でね。故郷が恋しいのだよ」


うそぶいてみる。

さて、こいつの反応はどうか。

偶然この世界に落ちてきてしまったとしても、不思議はない。

ここは現世と冥界の狭間なのだから。


「いやいや、本当に済まないと思っているよ?ただ、僕も人に会うのは久しぶりなんだ。もう少しここにいてもらうわけにはいかないかな?」


ふん、そう返すか。

偶然にしても、そうでないにしても、どうやら私を素直に返す気はないらしい。


「君の下らない遊びに付き合う時間はない。さっさと君を殺して帰らせてもらうことにしよう」


一瞬で接近し、拳を振りかぶる。

いつの間にか出来ていた盾に止められた。

盾の構築速度が早いな。

しかし、見切れないほどのレベルではない。


「無駄だよ。この世界は僕が作ったんだ。僕の能力は『創世』、どんなものでも創れるんだ。君の拳を止められるくらいの盾なら、簡単さ」


にこやかにそう告げられる。

無駄にさわやかな声がなんとも気に触る。

そのきらびやかな顔を血に染めてやることにしよう。


『虚ろなる月の加護』


強化魔法で腕力を強化、拳を受け止められたまま力を込めて盾を破壊する。


「死ね」


そのまま顔を目掛けて拳を振るう。


「おっと、危ない」


余裕の表情でかわされる。

さらに踏み込み、そのうざい声を潰してやる。


「甘い!」


先ほどの攻撃は元々速度を緩めておいた。

一度止められた拳は勢いを失い、威力すら衰える。

だからそれで隙をさらすよりは、次の機会への布石を打つのが私のやり方。


先程よりもスピードを上げ、足払いを仕掛ける。


「おお?」


足を引っ掛けられた王子様は宙に舞う。

宙に舞った王子様の顔を目掛けて連撃を繰り出す。

10発ほど顔に打ち込まれたさわやか男は、吹っ飛んでいった。


ほとんど手ごたえを感じなかった。

ダメージは、与えられていないな。


「やれやれ、元気な人だね。こういうスポーツが好きなのかな?」


世間を知らない女の子が向けられたら、即恋に落ちそうな笑顔を向けてきやがる。

......顔に何発ぶち込まれても、気になどしないか。

そういう勘違いな優しさも女の子には好まれそうだ。

そういうところでさえ、うざったく感じるよ。


私は恋愛になど興味はないがな。

殺気を奴に向ける。


「まるで絵本に出てくる王子様のような奴だね、君は。しかし、許せんな」


私の魔力が溢れ、周囲を侵し始める。

パキパキと空気が砕ける。


「何がだい?何か気に触るようなことを言ってしまったかな。それなら、謝るよ」


段々と我慢がならなくなってきた。


殺す。

絶対に殺す。


奈落の果てのように、地獄的に、悪夢的に、現実的に、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す―



「私は君の何もかもが気に障るのだよ」


「君のさわやかな声も」


「君のきらびやかな容姿も」


「君の優しさも」


「君の自信に満ちた態度も」


「全て、全てがとても嫌いだよ」


「だから」


「君を殺す。絶対に、だ」


殴る。

強化した腕でひたすら相手を殴る。

殴る殴る殴る―


「それで、君ほ本当に―......がっ!?」


私の速度に盾の構築が追いつかなくなった。

何を言おうとしたかは知らんがヒットした。

苦痛に美しい顔を歪めて、うずくまる。


「いい様だ。」


うずくまった奴は痛みに耐えられなくなったのか、地べたを這いずり始める。

なかなかに良い光景だ。

気に食わない奴が地べたを這いずる様はとても良いものだ。


む?


上に何かできさな。


黒い塔、か。


黒い塔が大量に作られた?


それも遥か上空に。


そして、這いずっていた王子様は姿を消す。


ここは奴の世界。

だから気配を探し出すのは、とても難しい。

例えるなら、赤い紙から朱色の点を探すようなものだ。

普段は青い紙の中から赤い点を見つけるようなものだったのだから、難しさはわかるだろう。


「よくも僕の顔を殴ってくれたな!!ぶっ殺してやる。絶対にぶっ殺してやるよ、てめぇ!!」


周りの空間から声が響く。

声を”創る”とは、無駄に器用な奴だ。


しかし顔を殴られて激昂するとは、間抜けな奴だな。

その様では、貴様の格もただが知れるぞ?


「はは、面白い冗談だ。無様に倒れこんだ見苦しい弱虫に私を倒せるとは、とてもではないが思えんがな」


見え見えの挑発をする。

飢えた魚でも釣られないような餌だが、こいつは喜んで喰いつくに決まっている。

そのくらいの阿呆だ、こいつは。


「てめぇ!!死にやがれ!」


言われた瞬間、思い切りあさっての方向に飛び込む。

これで大抵の攻撃はかわせる。

こいつは馬鹿の一つ覚えのような攻撃しかしないだろう。

私なら超広範囲の攻撃か、先読みしていくつかの攻撃を併用するが、こいつにはそんな戦略はない。


ずどん、と重い音がして私が居た位置に六角柱が落ちてくる。


六角柱がかなりめり込んでいることから察するに、この私ですら受け止められないほどの重さだろう。


そのまま走り出す。


こいつの力からして、下手に動くのは下策だと思うだろう。

じっくり見極める必要がないとはいえない。

しかし、それでは駄目だ。

それでは、相手を見つけることは出来ない。


そしてこうして逃げ回っている限り、相手は気をよくして戦略を使うことはしないだろう。

現にこうして逃げ回っているだけで、それほどのダメージは食らっていない。


振り注ぐ六角柱を避けながら、爆弾の威力に逆わらずに飛ぶ。

小さいダメージは無視して、深刻なダメージのみを避ける。


服がぼろぼろになっていく。


「どうした!?こんなものか、貴様の力は?これでは、虫を殺すのが精々だな!!」


この程度のダメージは無視して、挑発を重ねる。


「何だと!?私の攻撃を必死に避けるしかないお前がよく言えたものだな!いい加減、潰れろ!潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ」


笑うしかないほどに攻撃を加えられる。

そのことごとくを受け流していく。


激昂した馬鹿の攻撃は予想しやすい。

攻撃の威力と規模は洒落にならないが。


かわし方は簡単だ。

こう、奴の言葉のフレーズが終わるごとに大きく飛びのけばいい。

無意識に自分の攻撃のタイミングとセリフのリズムを合わせている馬鹿が居るから。


「はは!おかしいことだな?何時までたっても私は死んでいないぞ?もう少し良く狙えよ、馬鹿者!」


爆弾の威力はそう高くない。

落ちてくる六角柱にさえ気をつければ致命傷を受けることはない。

さすがに私でも、あの重量を受けたら潰れてしまう。


「く.....まだ.....!ふざけるなよてめェ!いい加減潰れろよ!潰れろォっ!!何で僕に気持ちよくお前を潰させねェんだよっ!?」


相手の言葉を無視してにやりと笑う。

見つけた。

激昂した波動が此処まで伝わってくる。

馬鹿はどんなに隠れていようと見つけやすい。


魔法を装填する。


激しくなったもののかわしやすさは変わらない攻撃を避ける。

この際、爆弾は無視。

爆発するに任せて、飛ぶ。


上に吹き飛ばされないようにだけ気をつけて、四肢を使って六角柱を避ける。

獣のように俊敏にかわしていく。


魔法、装填完了。


『破滅する冥王の嘆き』


地面に、否。空間に向けて振り下ろす。


世界が震え、亀裂が走る。

亀裂は隠れている臆病者のところへ一直線に走る。


私は醜く顔を歪めた王子様に笑いかける。


「ようやく、憎しみにゆがんだ君の顔を見れたよ」


「てめぇ、上等だ。いいぜ。本気で潰してやるよ」


私が構えるのと同時に相手も構える。

さて、何が来る?


頭はお粗末だったとはいえ、攻撃自体は凄まじいの一言に尽きる。

楽しみだな。


「さあ、来い!」


興奮を抑えきれずに叫ぶ。


「その余裕ぶった顔、恐怖に塗りつぶしてやるぜ」


怒りでぶるぶると震える顔で私に向かって叫ぶ王子様。

その顔は、自分の攻撃で私を殺せると疑ってはいない。


『今、此処に我が創世の門が開く。開け、全てを内包する世界よ。黒の引力により、全てを喰らい尽くせ』


『漆黒へと繋がる世界』


ぐ.....これは。


まさか。


ブラックホールか!?


ブラックホールに通じた扉を作ることで、世界そのものをを重力の底に飲み込み圧壊させるのか。

そして自分だけは安全圏に居る、と。


思っていた以上にとんでもないものが来た。

こいつはこの世界ごと私を殺す気か。

自分さえ生き残ればこの世界はまた作れる、そういうことか。


べきべきと世界が軋んでいる。

この世界そのものがブラックホールに飲み込まれようとしている。


しかし私はこのちゃちな世界と心中する気はない。

相手が呪文を唱え始めた時点で準備し始めた魔法を発動する。


『破滅する冥王の嘆き』


こいつを”次元の鍵”から出した槍に纏わりつかせる。

槍が軋んでいるが、この伝説級の槍ならば数秒は持つ。


其処だ!


歪んで捻れたこの世界の急所に投げる。


パキーン、と澄んだ音を立てて世界の一部が欠落する。


ブラックホールにより、欠落は拡大し世界が崩れる。




気が付くと、私たち2人は冥界で向かい合っていた。


冥界と現世にある距離は観念的なものだ。

だから、素直に落下することなどありえない。

冥界は現世の法則など凌駕してしまう。


「ここは、冥界?」


王子様は一転して怯えた様子だ。

それもそうだろう、ここでは奴の自我ごときでは己を保つことなど出来はしない。

己を失った魂は悲惨な運命をたどる。


ん?

すぐに『創世』で結界を張ったか。

正しい判断だ。


「しかし、君はそれでいいと思っているのか?」


私の持つ最大の魔法を準備する。


「何がだ!?冥界に居て耐えられる魂など存在しない。お前は自分で最悪な終わりを選んだんだぞ。冥界に生きたまま来て、永遠の拷問を受けるなんてどうかしている!」


確かに、私でも生きたまま冥界に捕えられるのはごめんだ。

しかしこいつは勘違いをしているな。

私でもこの世界に居て自我を保つことはできない、と。

が、冥界に居ても己を保てる魂は”ここ”にある。


「それは、どうかな?」


私は最大魔法を装填する。

奴の世界から冥界へと干渉することは不可能。

世界が違う、というのはそういうことだ。

だから奴は守りを固めることしかできない。


この最大魔法はある女性から教わったものだ。

イラ家にて戦闘以外のあらゆることを教わらなかったルシフェレスに、人間としての姿を教えてくれた初めての仲間だ。

なつかしい、のかな?

その彼女に教わった唯一の魔法。

それが、これだ。


「それは?その魔力は一体何なんだ!?」


奴の怯えは強くなっていく。


この魔法は私の全ての力を注ぎ込む禁断の魔法。

生物と言うものは誰しも100%の力を発揮できない。

もし、それを実行したら肉体が崩壊する。


「さあ、貴様の弱々しい世界で私の魔法を受け止めきれるか?」


そんなこと私には関係ない。

肉体が崩壊しようと、再生すればいいだけ。

こいつを倒すためならどんなダメージを喰らっても構わない。


「ぐ、正気か?この


『創世結界・マリエンベルクの要塞』


 これで、どうだ!?」


結界は要塞へと変貌を遂げる。

とてつもなく硬そうだ。


”今の”私の魔力では破れない。


「ならば、魔力を足せばいいだけのこと」


魔力ポーションを飲む。

回復した魔力をそのまま魔法に注ぎ込む。


限界を超えた先にさらに力を使ったものだから、体中から出血する。

魔力に耐えられず、あちこちが骨折する。

血涙が止めどめなく流れる。


「ぐ、そんなことをしようとも僕の結界は破れない!僕が手を下さなくとも、その魔法の反動でお前は死ぬんだ。この僕には誰も敵わないんだよ!」


うるさいな。

そう、騒ぐな。

今、いい気分なんだよ。

臨死の恍惚を味わっているんだから、邪魔をするな。

ああ、これを味わいたいからこそ、私は死闘に我が身を捧げたのだ。


『ブラック・アウト』


超高濃度の、それも自分すら耐えられないほどの密度を持った滅びのエネルギーで突進する。


視界が黒く染まる。

意識が消え行く。

肉体が崩れる。


これを使う間は、莫大な負荷により意識がブラックアウトする。

流石は、使う前に死ぬと言われた禁断の技。


要塞をがりがりと削りながら、進んでいく。


真正面から、愚直に。


要塞が震えている。

恐怖しているのか、奴が。


「馬鹿な。 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な。僕の結界が破れるなんてことあるはずが―


壊した。

結界が消える。


『ブラック・アウト』に奴が飲み込まれる。


私はぼろぼろになった体を白い大地に横たえた。


「お前が負けたのは、逃げたからだ。実は、お前は最初に激昂して隠れた時点で負けていた。お前の力なら隠れる必要はない。それは慎重ではなく、臆病。臆病者は私には勝てない」


独白する。

楽しかったよ、死の向こう側に足を踏み入れそうになるほど。




冥界に来たことで、今度こそ帰れるようになった。


冥界は現世のあらゆる場所と繋がっている。

だから、冥界の何処にいても大罪の国に帰れる。


起き上がる。


さあ、帰ろう。


最強VSチート編はこれにて、一時終了。

世界観説明編へと移ります。

戦闘シーンしか見たくない人は6話まで飛んでください。


作中で描いたように、『創世』では創れないものもあります。

たとえば、絶対破れない盾、何でも突き破る槍といったものです。

つまりは絶対がつかない、イメージできるものに限られるというわけです。

そして、威力は術者の魔力とイメージ力に比例します。

ちなみに毒とかも創れますよ。

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