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十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
5章 終幕への序章
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第50話 逆襲

(大罪の国は人間を滅ぼそうとするだけあって恐ろしい魔法を使う。だが、触媒となっているものを砕けば止まった。そして円盤は柱より危険だ。球はどうすることもできないが。少しでも多く、少しでも早く触媒を破壊することが私の使命)


『空帝』エウリュアレ・バード・リスキィは空を飛んでいた。

ごくわずかな時間空を飛ぶだけならともかく、空を飛んで移動するなど彼くらいにしかできない。

その力を存分に使い、大罪の国が放った兵器を次々に破壊している。

彼ほどの実力があれば兵器の破壊は容易。もっとも、手の届く範囲内にあればだが。


彼がここで戦っているのは姫巫女に請われてのことだった。

彼女は先見の力を持っている。

彼女は来る大災害をその力で垣間見た。

大災害による被害を防げるのは一人一人の兵だ。

凄まじい力を持っていても、一人では人々を救う力とは成り得ない。

よって、兵の犠牲は一人でも少なくしなければならない。

一人の兵を救うことが、多くの民を助けることに繋がるのだ。


だから、彼はここで一人空を飛んでいる。

守るべき王族や貴族にも知らせずに。

彼らのそばには偽物の『空帝』が控えている。

バレる心配はなかった。


(しかし、大罪の国は兵器をどれだけの数揃えているというのか――。これまで壊してきた円盤は20や30ではきかん。だが、一向に減る気配を見せん。それに、この類の兵器は一つ使うにも相当な魔力が必要なはずなのに。はたして大罪の国にはどれだけの術者がいるのか)


彼は勘違いしていた。

これほどのことが出来るのなら、大罪の国の戦力は6大国の合計より高いかもしれない――。

と、そんな風に。

それは仕方のないこと。

こういう場合は触媒を通して魔法を発動させていると見るのが一般的な物の見方だ。

それでもオーバーテクノロジーであり、レアアイテムだが。


まあ、普通に魔法を使うより10倍以上は魔力を食う。

兵器は魔力を供給されることにより動いているが、消費魔力は同程度だ。

なぜそれで動いていられるかというと、“世界龍の鱗”があるおかげだ。

それから供給される実質無限ともいえる魔力のおかげでそんなことができている。

しかし、大罪の国の人間以外はそんなことを知らない。

戦況は6大国が当初予想したものとは比べ物にならないほど悲惨な状況を呈していた。


(しかし、奴らとて無限の魔力を保有していることはあり得ない。あの大胆不敵で人類の行く末に欠片の興味を持たない『最強』でさえ、私と同じレベルなのだ。これほどまでの反撃は予想すらしていなかったが、歴史上初めて6国が手を取り合うのだ。倒せないはずがない)


兵は着実に進んでいる。

不可解といえるほどの反撃に遭いながらも。

そう、予想外の反抗を見せているというのはそれだけで、別に6大国の有利は変わらない。

これだけ魔力を無駄遣いできるのに驚きはしても、侵攻は全くと言っていいほど防げていない。

依然として、数の差は変わらない。


(だが、あまり兵を殺されるのもいただけない。大罪の国を倒したところで終わりではないのだ。諸悪の根源を倒しても、魔物が消えるわけではないのだから。だから、円盤は壊しておかねば)


柱はそれほどの脅威ではない。

運が良ければ一般兵でも避けれるし、なにより攻撃範囲が小さい。

一回落ちて、一人殺せるかどうかなのだ。

だが、円盤は違う。

恐ろしい音を出して、感覚器を破壊してしまう。

こんなところで立てなくなるのは致命的だ。

ここには大罪の国の兵がいなくても、魔物はいるのだから。

通常の状態では連携して瞬殺できる魔物でも、立てなければただの餌。

彼はそんな風にして喰われた多くの兵たちを見ていた。


(私の役目は兵たちを守ること。一人でも多くの兵を助ければ、その兵は他の人々を助ける。来るべき災厄に備え、私は姫巫女より授かった使命を果たす!)


彼は小気味よく兵器を破壊していく。

怪我をした兵や屍をさらす兵は置き去りだ。

歯牙にもかけずにものすごいスピードで木々の間を飛ぶ。


「あ……が――」


うめく。

そして木にぶつかる。

2本ぶち折れた所で止まり、落下する。

気にぶつかった痛みはどうでもいい。

腕に走った激痛の原因を確かめるため袖をめくる。


「何だ……! これは――」


そこにあったのは黒い染み。

だが、だんだんと広がっている。


「い……ぎ……ぎぎぎぎ――


腕に走る苦痛は等比級数的に増していき、すぐに腕を切り落としたくなるほどに発展する。

懐から符を出して腕に張り付ける。

紙を乗せただけで気を失いそうになるほどの激痛が走ったが、歯を砕けるほどに食いしばって耐える。

獣のような唸り声がもれる。


「――ぐ。符術『木道・呪怨昇華』」


符術を完成させる。

このタイプは作るのには技術がいるが、使うには魔力があればいいだけのタイプだ。

彼は戦闘の才がある代わりに陰陽術はほとんど使えない。

しかし、その符は陰陽術の総本山で作られた最高級品。

これで直すことができなかったら、どんな符を持ってきても治療は不可能だ。


「え――」


そして、その符は効かなかった。

符は黒く染まり、崩れていく。

現存する中で最高性能でも――それは絶対ではない。


「……げぼっ! ごほごほごほっ!」


血を吐いて倒れ伏せる。

最後に思ったことはこれほどのまでの呪術を扱う大罪の国への恐怖。

そして――


(すみません。姫巫女様。私はもはやこれまで。どうか……。どうか、生き延びてください。我らが永久の国に永久の祝福あれ――)


静かに死んでいった。

弔うものの一人もなく。

こうして人間という存在の最高である200レベルの『空帝』は激動する運命よりこぼれおちる。




「さて、ラクスリア。『空帝』が死んだ。『ピラミッド・アイ・タブレット』はやはり――」

「ええ。起動限界ですわ。機能を再開させるためにはオーヴァ・ホールしなくてはなりません。そもそも修理に必要な予備が全て揃っているかは怪しいところですが、この戦争中には機能が回復することはないと言ってよいでしょう」


「そうか。まあ、200レベルを呪い殺せただけでも拍手ものだ。で、インヴィディアにグラは?」

「彼らは会議室に向かっている途中です。やはり、魔力はほとんど使い果たしたようで。ただ、会議には参加すると二人とも言っていますわ」


「そうか。しかし、実質的に二人分の当主の戦力は欠けたな」

「はい。ただし、こちらの最終殲滅兵器の起動には問題ありません。どれだけの数が攻めて来ようとも『龍麟結界』と『死の福音』があれば、私たちの敗北は在り得ません」


「は。『死の福音』ね――。まさか、あんなものを使う日が来るとはね。使う機会があることですら、敗北したようなものなのにな。そういえば、お前たちは『龍の逆鱗』を知っているか?」

「――ええ。もちろん」

「なんですと!? そんなものは聞いたことがありませんぞ。答えてください、イラ様。それはどういう――」


当主や貴族院の中でも知っているのはイラとラクスリアの2家だけらしい。

そんな機密があるとさえ思っていなかった者達は当然二人を問い詰める。


「これは我がイラと王しか知らぬ機密だ。ラクスリアについては――どこぞで嗅ぎつけたのだろう。まあ、君らに知らせるかどうかは王に任せる」

「イラ様!」

「おちつきなさい。別に使うと言っているわけではありませんわ。ただ、最悪の事態が――。本当に最悪としか言えない状況が来れば使わないこともないわけではないですことよ」


「そのときにはおそらく私はいない。責任を押し付けてすまないな、ラクスリア」

「いえいえ。だって、絶対にその機会など絶対に許しません。『龍の逆鱗』など――、あれはただ負けないだけ。イラ、そのような弱気は絶対に許しません」


「そのお話はそこまでにしましょう。ラクスリア、そしてイラ、あなた方がそう言うということは、なにか危機が迫っているということでしょうから」


「……インヴィディア。その事態に関しましては私もよくわかっていな。だが、嫌な予感がする――。何と聞かれても困るのだが」


イラが不安をこぼす。

もっとも、逆に前が見えないほどの敵兵に囲まれるという状況は不安の一つでも抱かなければならない状況だろうが――。

相変わらず彼は脇見戦闘をしながら会議に参加する。


「……チ。何か問題でも? 『空帝』の死はすでに愚か者どもの知るところとなったようですが」


少し舌打ちしたラクスリアは深呼吸してそのままつづけた。


「知らん。だから予感と言った、ラクスリア。だが、警戒しておけ。何が起ころうと不思議ではないぞ……!」

「――え? これは……? イラ、敵の進軍スピードが増しています。このままだと、30分後には王都の周りは敵で溢れることになります……!」


「補助系の魔法か? それとも呪術系、対象者の生命力を使うタイプならば広範囲にかけることが可能だが。――いや、推測を遊ばせている暇はないか。ラクスリア、攻城兵器を持った部隊は?」

「他の部隊と同程度のスピードで進んでいます」


「『アンティキティラの砲台』で吹き飛ばせ! さらに、『アショカ・ピラー』と『ネブラディスク』を自動操縦に。『コスタリカの石球』は敵の王都にでも落として自爆させろ。『バールベックの巨石』を起動! 『ガラスの街』を解き放て」

「りょうか――」

「イラ様!」


「ちっ! なんだまたお前か? 日和った貴族院はそこで見ていろ」

「いけません。王都に直接攻撃など――」


「それなら自動操縦でいい。さっさと――……」

「どうしました?」


「馬鹿な。残りの5人が動いただと?」

「他の5人? まさか」


「ああ。200レベルの人間だ。気配を感じる。後10分でそちらにつくだろう。王族の防衛をどうした……!」


「まさか、このような事態になろうとは。どうしますか、イラ?」

「一人だけでもあれほどの労力を費やしたというのに、さらに5人でございますか。これは、兵器でどうにかなるような問題ではないのでございます」

「むぅ。この我ですらどうして良いのかわからんな。なんとかなるか?」


「こうなってはどうしようもないか。いま言ったとおりに兵器を動かせ。そして、後は任せる。私はシシュフォスとともに5人を抑える。それ以外はお前たちに全て任せる」


その声には隠しきれないほどの苦渋が混ざっていた。

最悪の事態で、もはや自分の命など気にしていられなくなった。


「できるのですか?」

「あまり疑いたくはないのでございますが、あまり現実的な案とは言えないのでございます。まずどうやってその状況を作るか、またどうやって抑えるか。『魔女』と『吸血神祖』を連れていったほうがよろしいのでは?」


「それではそっちの戦力が不十分になる。『死の福音』の効力を生かすためには敵の攻撃を耐える必要がある。それにこちらは問題ない。私とシシュフォスは『能力』を手に入れたのだから。もっとも私にいたってはよく使われているかすら不安だが、まあ――自爆くらいなら何とか出来る」


「……イラ?」

「気にするな。私は“イラ”だ。それは変わらない」


「イラ。こちらはお任せください。あなたは戦闘をゆるりとお楽しみください。こちらはこちらで殺戮を楽しみますから」

「――ラクスリア。ああ、よく殺せ」


「他の皆もよろしく頼む」


通信を切る。


「さて、これでどれだけのダメージを受けることになるかな? 5人の200レベルどもめ。自分達が来たからには戦局は決したと思っているのだろう。その思い上がりを叩き潰してやる」


「さあ――我が終焉の始まりだ。『終わる世界の揺り籠』」

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