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第2話 絶対の能力

む?


ここは、どこだ?


周りには無限の荒野が広がっている。

果てすら見えない、無限大の広がり。

空は重苦しく、雨がぽつぽつと降っている。


まるで、世界が滅亡したかのような物悲しさだ。


雨は体力を奪い体温を下げ、じわじわと首を絞めてくる。


しかし私はたかが雨ごときでどうにかなるような、人間の辞め方はしていない。

ただ、こうも暗い雰囲気だと気分が滅入ってくるね。


ま、そんなことはどうでもいいんだ。




転移符にはこんな場所につれてくる能力などない。

あれは、転移先に巨大な専用の魔方陣があることが前提になっている。

そうでもなければ、安全にかつ正確に物質を転移させることなどできないからだ。


ところが、これはどうだ?


魔方陣はおろか、魔法的な目印さえ見つからない。


こんな転移ではテレポートのお約束、転移先は地面の中などと言う事態になったとしてもおかしくはない。


私の運が良かったのか、ここに引き寄せた存在がそうしたのか。


どちらが正解なのかは知らない。





それでも―


「君に聞けば、ここはどこか教えてくれるのかな?亡霊君」


いつの間にか気配も感じさせずにそこに立っていた存在に聞く。

存在感も薄く、姿も透けていて、一般的に言うところの幽霊にそっくりだ。


フードを目深にかぶっていて、目だけがらんらんと輝いている。

マントのようなぼろ布のような外套は、まるで筒のように亡霊を覆っている。

亡霊は透けていて背後が見える。


「ここはどこか、その問いに答えられるものはいない」


ぼそぼそと、まるで地獄から響いてくるような声だ。

怨霊にしては邪悪を感じないが、さて。


「それは、此処がどこか君は教えるつもりは無いということかな?それとも、ここはどこかわからないことを君が知っていると言うことかな?」


私は常に戦闘を行えるようにしている。

特に構えずとも、どんな体勢からでも攻撃は可能になるまで己を鍛え上げた。

しかし彼から、否。この世界から不穏なものを感じた私は拳を握っていた。

先ほどのモンスターにさえ、構えを取ることのなかった私が。


「ふむ。私の言っていることがわかるのか。ならば、もう少しだけ教えてやろう。ここは、冥府にて記されしもの『アポカリュプシス』より零れ落ちた、兆を超える怨念の集積点の一つ。『創世』の力を持つ魂の影響により形を得た、現世に亡く、冥府に遠き世界”アカリス”。私は、創世とアカリスとの反発作用で生まれた魂無き守り人」


意外に良くしゃべるやつだ。

大体言っている内容はフィーリングでわかる。


私はニヤリ、と口元に笑みを浮かべる。

面白くなってきた。


「しかし、それは中途半端ということではないかね?現世でも冥界でもないと言うことは、単に真ん中辺りにあると言うことだろう。そして本当に私が聞きたいには、どうやって元の世界に戻るかと言うことなのだよ」


だが、今はあまり遊んでいる気分ではない。

今はとにかく、一度大罪の国に帰還しなければ。


「ここは”アカリス”。それ以上でもそれ以下でもない。そして、残念なことだな」


「へぇ。どういうことかな?君を殺さないと元の世界に戻れないとか、そういうアレかな?」


「口を挟むな。まだ私はしゃべり終わってはいない。貴様がここに来たのは、貴様が『創世』の魂に引かれたからに他ならない。原因が貴様自身にある以上、私を殺したところでどうにもならない。そして貴様は私を殺せない」


さらりと、事実を述べているだけの口調でほざく。

そんな言葉で引き下がるとでも思っているのか?




「ほう、ここを出るには自力で無いといけないか。しかし、私が貴様を殺せないだと?なら、試してみようか」


『最強』たる私が貴様ごときを殺せないだと?

とんだ自惚れだ。


「やってみるといい。私は貴様を殺せないが、貴様が私を殺せることもまた絶対にないのだ。私自身は何もできない代わりに絶対の能力が、私にはあるのだ」


相手が言い切った瞬間に手刀を喉に突き込んだ。

手刀が亡霊の喉に食い込むと同時に、私の喉に手刀を突き込まれたような衝撃が走る。


相手の能力を確かめるため、さらに手加減して連撃する。

そのことごとくの衝撃が私に返された。


「ぐ、そういうことか。貴様の能力は私の攻撃によるダメージのみを跳ね返す。よってダメージは全く受けないということか」


私の攻撃によって吹っ飛ばされた亡霊は、微塵も応えていない様子で立ち上がる。

しかし、何処を打っても完璧に跳ね返された。


まさに、『絶対』の能力。


絶対であるからこそ他に呼び名はいらない。

ただ、絶対とだけ呼べばいい。




「そう。貴様を殺すのは私ではない。貴様自身が、貴様を殺すのだ。そして攻撃しないこともまた、自殺に他ならない。私を殺さない限り、貴様はこの”アカリス”に閉じ込められる。もっとも、この世界を破壊できたとしても、冥界に堕ちるだけだろうがな」


冥界には無限大の重力があっても、現世にはない。

このような特殊な世界に囚われでもしない限り、現世から足を踏み出したものは冥界に堕ちる。


己を保つ強き自我がなければ、冥界では存在することさえできない。

魂が冥界に融けて消える。

そして、融けた魂は永劫の責め苦を与えられる。

それが強き例外なる魂を除いた、あらゆる生物の末路。


しかし冥界に堕ちると言うことは、こと私にとっては死を意味しない。


私の自我は冥界に融けて消えるほど弱くはない。


「しかし、その能力には弱点があると思うのだが?」


言うと同時に、亡霊を羽交い絞めにして拘束する。

拘束するには、跳ね返される力とこいつ自身の力を押さえ込めばいい。

だから私がこいつの倍以上の力を持っていれば容易に押さえ込める。


しかしそんな力を持っている気配はこいつにはない。

レベル100オーバーの独特の気配は感じない。




「無駄だ。そんなことをして何になる?私は悠久の時間をこうしていてもかまわないが、君は違う。元の世界に帰りたかったのではないのか?こんなものは君の寿命の無駄使いでしかない。そして、私は拘束できない」


振りほどこうとしてきた。

さらに力を込める。


振りほどこうとしてくる。

力を込める。


振りほどこうとしてくる。

力を込める。


…..無限ループ。




ついに亡霊は私の拘束を振りほどく。


「言っただろう?無駄だと。私を封じ込めようとする力は貴様自身の力だ。しかし自分自身を封じられる人間などいない。私を封じようとする行為は徒労に過ぎないのだ」


亡霊の声は自信に満ちているわけではない。

単に事実を淡々と語る冷たさがあるだけだ。


私はすぐにこいつから離れる。


「そうか。まあ、さっきのは君の能力の検証だよ。本気だったわけではない。ところで、この世界を出るにはどうすればよいのかな?」


こういうときには、相手を殺すのがセオリーと言うものだ。

しかし様式美と言うものがある。

ここは素直に質問しておくことにした。


「簡単な事だ。ここ”アカリス”は反発作用で生まれた。なら、それの集積点である私を殺せばこの世界は崩壊する。私を殺すことは誰にもできないが」


......いい加減その冷たい声を、恐怖で塗りつぶしてあげたくなってきたよ。


「そうか。ならば君を殺してこの世界から出ることにしよう。冥界なら一度、生きて還ったことがあるのでね」


全ての攻撃を跳ね返す。

一見それは、絶対無敵の能力だ。




しかし、人を傷つけるものの全てが攻撃とは呼べない。


例えば、毒を散布するのは攻撃と呼べるのかな?

確かにそれは相手を害すために行う行為だろう。

しかし、実際に相手にダメージを与えるのは毒。

だが、ここでおかしなことになってしまう。

毒による害を、毒そのものに返す?

そんなわけのわからないことは、あるわけがない。


だから、こうすれば。


一気に接近、アイテム袋”次元の鍵”より適当なローブを出して目隠しに。


この攻撃ならば反射することはできな―




目が見えない、だと!


まさか、目隠しですら反射できるのか!?


が、作戦の変更は無し。


相手の顔めがけてラリアットを出して、視界を遮る。

これでも、相手の隙をつけるかわからないが。


後ろ手で隠して、宝玉をぶちまける。

宝玉とは、属性を付加した爆弾のようなものだ。


ばら撒いたのは、炎の宝玉。


炎によるダメージは全て私が受けることになる。

宝玉5個を至近距離で喰らうと、さすがに痛い。


それでも、周辺の酸素は燃え尽きた。


さて、まともな生物なら一瞬でも極低濃度の酸素を吸えば無事ではいられない。

掌でその状態を作って、相手の口に被せることで相手の意識を奪う武術もあるほどだ。


自称『絶対無敵』な奴はどうなる?


とりあえず、息は出来る。

….酸素は取り込めないけど。




煙が晴れる。


亡霊は平然と立っている。


「無駄だ。例え酸素を奪おうと、息をしていない私には意味がない。私は実体を持ってはいない。エネルギーの集積点が、まるで意思を持っているかのように動いているだけ。否、全ては貴様自身から生まれたものなのだ。この私は貴様の持つ亡霊のイメージ。そして、私の言葉は貴様の無意識領域の『まさんの木』に芽吹いた言の葉を返しているに過ぎない」


ち、何を言っているのか訳がわからない。

固有名詞の説明くらいはしてもらいたい。


わかることは唯一つ。


こいつは普通の方法では倒せないと言うことだけだ。


「ふむ。そうやって、適当な言葉ばかり紡ぐのも、私のペルソナというわけか。人の表情など見方次第でいくらでも変わる。その1つを、つまりは私のペルソナを、お前が使っていると言うことか。我ながら、なんとも気に食わないペルソナだ」


だが、どうする!?


どうやって倒せばいい?




適当なことを言って時間を稼いでいるのは、私だ。


「ふ。誰しも自分を目の当たりにしたら気に食わないと思うだろう。そう、それは貴様も同じだ『最強』。最強が破ることのできないもう一人の自分を見たら、それはそれは嫌なことに違いない」


がつん、と頭を殴られた気がした。


そうだ、私は『最強』なんだ。

何を手間取ることがある?


私はニタリと嗤う。


普通に歩いていって、亡霊の首を掴む。

首をつかまれても、今度は振りほどくことはできない。

一度つかまれたら最後、首と指の隙間に手を差し込むことはできないからだ。




「そうだ。私こそが『最強』なのだ。貴様ごときに手間取ることなどありえない。現に今、お前は何もできまい」


ぎりぎりと首を締め上げる。

もちろん息ができなくなるのは私だ。


「無駄だ。今、私は動けないがダメージを食らっているのは貴様だ。私の絶対の能力は破ることはできない。愚かだな、自殺を選ぶか」


余裕の表情だ。

その表情、何時まで持つかな?


「無駄?無駄と言うのは貴様のようなちっぽけな者が、無敵の能力を手に入れたことを言うのだよ。今、私は貴様を持ち上げている。それはお前に反射できていない力があると言うことだ。人が地面に立てるのは、下に地面があるからではない。地面から力を受けているからだ」


物理を習ったことのない人間にはわからないかな?

まあ、底なし沼でも連想すればわかるか。

底なし沼に沈むのは沼から十分な力を足裏に受けないから。

事実ではないが。


「それがどうした?確かに必要最小限の力は受けざるを得まい。そうでなければ、貴様の拳は私をすり抜けていくのだから。それが、私の能力を破ることになると?下限があれば、上限があるとでも思っているのか?」




まだまだ力を込めていく。

同時に魔法を装填する。


「私は『最強』だぞ?首を握りつぶされたくらいで私は死なない。しかし、貴様は違う」


息ができなくなる。


私には酸素など必要ない。


「いくらやろうと無駄だ」


そんなことを言われて止めるとでも思うのか?

......懇願ではなく単に無駄を指摘しているだけのようだが。


まあ、私は意味のないことが大嫌いだからな。



『破滅する冥王の嘆き』



魔法が完成する。


(無駄なのは、お前の存在なんだよ。いくら無敵の力を誇ろうと、結局勝つのは強い奴なんだよ―)


私はこいつを傲然と見下ろす。

私の魔法が完成した瞬間、喉が潰されて息をすることは愚か、しゃべることすら出来なくなった。

だから目で語りかける。

相手に伝わるかは知ったことではないが。


「無駄。無駄。無駄。人は一体どれだけ無駄なことをすれば気が済むのか―


がっ。ぐぐぐ」


表情が変わった。


この亡霊にかかっている力は極わずか。

99.999パーセントは私のダメージになっているだろう。


が、こいつを殺すのにはそれで十分すぎる。


「がぎっ」




ごぎっ、という音と共に首を折った。


当然私の首も折れたが、四肢の欠損でなければ再生は容易。

数分で完全に回復する。


これは、格が上回っている者との戦闘において、下回っている者はどんな能力を持っていても敵いはしない、というただそれだけのことだった。




世界に亀裂が走った。

『絶対』の能力とは、言ってしまえば『反射』の能力とでも言い換えられます。

ゲームのイメージにすればわかりやすいでしょうか。

相手の攻撃で自分に10ダメージ。となるはずのものを、自分のダメージを0にして、仕掛けた相手に10ダメージ喰らわせる、見たいな感じになります。

ただ、これはダメージどころか状態異常ですら相手に押し付けられるチート能力です。

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