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十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
5章 終幕への序章
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第45話 弾丸X

王都の頭上に赤旗が振られた。

無論それは比喩であり、遠く離れた力見渡せるほど大きな布は用意できるわけがない。

ゆえに、それは照明弾によって行われた。

もはや兵器と呼べるほどの強い光が辺りを照らす。

時刻は夜。

練度の高い兵は不意打ちを警戒し、低い兵は傍目からわかるほど警戒を緩めてしまう中途半端な時間。


それを見つけたのは、ぼうっと夜空を見回していた兵だった。


「おい、今なにか光ったぞ」


珍しいものを見たと言わんばかりに隣の兵に自慢する。

事態の重要さを全く理解していない。

土に汚れた垢抜けない下級兵にすぎない彼とて、寝物語に赤旗の話を聞かされていただろうに。

これから攻めようとしている大罪の国のことをちっとも考えず、ただダルイなぁとかそういうことばかりをぼやいていた。


「はぁ? 何かの見間違いだろ――」


こちらもめんどくさそうに答える。

早く酒を飲みたいと思っている顔だ。

実は酒は水よりもよほど簡単に手に入る。

無論彼のような下級兵が飲む酒はアルコールが入っていれば腐らないだろ、なんて声が聞こえそうなほどまずい代物だったが、そもそも旨い酒の味を知らない彼らにはそれで十分だ。

しかし水分は重くてかさばるので、一人が飲める量は厳格に決められていた。

ゆえに彼の頭にはどうしたらもっと酒を貰えるかでいっぱいだった。

こちらも緊張感が全く欠けている。


しかし、他にも見た人物がいたのがガヤガヤと騒がしくなり始める。

注目が空へと集まる。


二度目の赤旗が振られる。

さすがの愚か者どもも理解する。

これは大罪の国からのメッセージだと。

彼らはこう言っているのだ。


『貴様らにその気があるのなら来れば良い。我らが膝をつくことはありえない。例え最後の一人になろうとも、貴様らの喉首を掻っ切って見せよう』


それでも逃げ出す者はない。

勇気とかそういうものではなく、単に誰ひとり逃げ出さないから逃げ出さないのだ。

最初の一人が皮切りにならなければ、他も動けない。

集団生物としての悲しい性質だった。

彼らの頭には自分が絶対的な有利だという計算も入っている。

実際に負けるほうがおかしいほどの戦力を彼らは備えている。

ただし、それは必ずしも自分が無残な死に方をしないことを保証してはいないことを分かっているものは誰一人としていなかった。


そして、五つの流星についても気付いている者はほとんどいなかった。




凄まじい速度で飛来するものがあった。

軌道はそれぞれある人物達に向かっている。

その“ある人物達”は自らに向かってくるものがあることを感じていた。


――『星見人』スネフェル・カーメネル・クフ

――『風切』カペ・ヴァロア・ヴァンドム

――『陽炎柱』スキュル・ゾンブルグ・ハンス

――『規律』ハワード・レノックス・イニス

――『爆炎』ドゥロ・アセン・ヴァルドシュタイン


6人の160レベルは闇夜の中、風を切り裂いて進む弾丸を感知していた。

しかし、感知はしていても撃ち落とすことはできない。

流石に160レベルでは月明かりを見通すことは出来ても、昼間と同じようにとは行かない。

200レベルであれば何の問題もなく撃ち落せたのであろうが――。


かくして弾丸は地に落ちる。

どん、と気の抜けるような音とともに地面へと埋没し――

バァン、と遅れてきた音と衝撃が周辺を陵辱する。

音の衝撃は着弾の衝撃とともに地を吹き飛ばす。


「お初にお目にかかる。私はイラ家当主ルシフェレス・ファフニル・イラ。大罪の国に侵略戦とする愚か者どもを討伐しにきた」


荒れ狂った猛威の中心で姿を現すルシフェレス。


――弾丸X。それは攻撃などではない。

ただの移動手段だ。

人を乗せて打ち出すことで、1分とかからずに数kmの距離を踏破する。

もちろん重力軽減装置だの、衝撃緩和装置だのといった中にいる人間を守るための装置はついていない。

そんなもので音よりも速く人間をぶっ飛ばすのだから、中にいる人間が生き残れるはずもない。

しかし、中にいるのが人間ではなかったら?

200レベルの人間はもはや人間とは呼べない身体強度を誇る。

数km上空からの落下などどうということもないのだ。

もちろんこんなふうに撃ちだされれば多少のダメージは受けるが。

そんな人外が5人、弾丸Xに乗って敵軍の最強戦力と相対する。


―『最強』ルシフェレス・ファフニル・イラ

―『魔女』マレフィキウム・ヘクセ・ウィッチクラフト

―『賽の河原』シシュフォス・エフィラ・サンテス

―『愚者の翼』イカロス・クレタ・パラフィリア

―『隠炎』クリス・レーヴァテイン


ただ後者の二人はともに170レベルでしかなかった。

ゆえにポーションを飲まなければ戦闘には突入できなかったが、それはおおっぴらに言うようなことではないだろう。

ポーションによる回復どれほどのハンデになるかということも。




「さて、逃走を始める前に一つ言っておかねばならないことがある。我々には誇りがある。ゆえに、君たちの本国の人々を無差別に殺戮するようなことはない。しかし我々は敵に対して容赦はしない。無慈悲に、圧倒的に虐殺するのみ。だが、逃げるものは別だ。逃げる者に対しては、その背中に刃を向けることはないと約束しよう」


各々似たような事を言って戦闘を始める。




『最強』VS『規律』


「大層な御託だな……世界を滅ぼさんとする悪魔が! 『禁法(禁じるの法)――動道巡り』」


『規律』が魔法を完成させた瞬間にルシフェレスの体が動かなくなる。

俗にいう痺れの状態異常だ。

周辺にいる兵たちが一斉に魔法を完成させる。

『規律』やルシフェレスの魔法構築速度は上級兵とさえ比べ物にならない。

大量の魔法がルシフェレスに向けられる。

弱いものが強いものにダメージを与えたければ、同時攻撃が最も効率が良い。

痺れて動けなくさせるというのは、同時攻撃を放つ上で最も効率が良い。

『規律』はただ一人による奇襲を完全に読んでいた。

そして、それを迎撃するすべも用意していた。


「だが――、この程度で動けなくなるほど私も甘くはない」


『虚ろなる月の加護』で状態異常を無効化する。

あくまでも身体能力の上昇が主眼に置かれているので、上級の状態異常は解除できないが、格下相手なら十分通用する。

彼らとて覚悟はしていても、気づいたのは数秒前だ。

1秒を下回るほどの時間――ルシフェレスにはそれだけあれば視界の外まで退避できる――で新たな魔法を構築。


「この程度の策で、実力の差を埋められるとでも? 『天使を喰らう杭』」


一直線に飛び込み、打撃系の魔法を『規律』へと叩きこむ。

遅れて先程までルシフェレスがいたところへ魔法が集中する。


「ああ。思っているとも『禁法(禁じるの法)――位移巡り』」


魔法が爆発する瞬間、中央にルシフェレスが現れた。

瞬間移動、それも対象は相手。

うまく使えば相手をはめられる。

――このように。


ルシフェレスは魔法が当たる直前、秒数にして0.01秒前という状況を突然用意された。

これでは1流であっても、対応どころか状況の把握すら難しい。

しかし、ルシフェレスなら0.01秒であれど動くことは出来る。

半数近くの魔法を叩き落とした。

が、残りは喰らう。

ポーションを使うほどではないとはいえ、軽いダメージではない。

人外たるルシフェレスは痛みで動きが鈍るほど人間的ではないが、それでもダメージを受けたことには違いない。


「ち」


ルシフェレスは舌打ちして、すぐに殴りかかる。

結果から見れば、虚ろなる月の加護を破棄したのは完全な失敗だった。

一撃必殺を期して切り替えたとはいえ、罠にかかりまともに魔法を喰らってしまったのだから。

虚ろなる月の加護は対魔法力をわずかに高める効果があるが――、それがあればダメージの3割は防げていた。

『規律』が迎え撃つ。


禁法(禁じるの法)――無夢界介』


「今更ためらってなどいられるか! 『破滅する冥王の嘆き』」


ルシフェレスはそのまま突っ込んでいって、オーバーキルですべてを終わらせる気だ。

相手がどんな魔法を使おうと、圧倒的な魔力で全てを押しつぶす。

力押しというには、あまりにも魔法の威力に頼りすぎている。

ルシフェレスは、そう――焦っていた。

彼の思っていることは、これは勝ち負けの決まった戦いでしかないよいうことだ。

ルシフェレスが勝って相手を殺すのは目に見えている。

問題は、それにどれだけの時間がかかるかだ。

『規律』にとっては自分が死ぬまでにどれだけの時間が稼げるかが問題――、そう思っていた。

ある意味ではそれは正しい。

誰も『規律』が勝つことなんか期待しちゃいないのだから。

だからこそルシフェレスは一瞬で終わらせようとしていた。

時間をかければかけるだけ相手の罠にはまっていくだけだから。

ただし、慌てていても罠にははまりやすい。

重要なのは、如何に相手の意表をつくかだ。


ルシフェレスのオーバーキル――、これが意表をつければ『規律』は消滅する。

しかし、『規律』は予想済みだ。

それだけではない。

彼がここに来ることすら予想していた。 

彼は『最強』、ゆえに最も厄介な自分に向かってくると予想していた。

ルシフェレスは相手がどんな性質の魔法を使っているか最も予測できない人物だから、自らが直々に相手し力押しに頼った。

これも予想済み。

結局、ルシフェレスは意表をつけなかったということだ。

しかし『規律』はルシフェレスの攻撃を受けて消滅する。

それは、罠。


「な!?」


ぎりぎりと空間がねじれていく。

『規律』の心臓があったところから黒い点が出現し、それはどんどん大きさを増していって、ルシフェレスを飲み込んだ。




『魔女』VS『星見人』


「さて、宣告は終わりじゃ。処刑の時間と行くか」

「そうは行きません。舐めていると、手痛い反撃を喰らいますよ」


金髪の妖しい雰囲気をした少女と銀髪の男装の麗人との戦いだ。

男装『星見人』の方は琴でも弾きながら歌でも歌っているほうが似合いそうな外見であり、少女『魔女』はというとこちらは何をしていそうなのか、とりあえず黒幕のほうが似合いそうな少女である。


「は――。どんなに裏をかかれようが、貴様の攻撃などマレフィには痛くも痒くもないわ――。凍て付く大地にてその生命の音を止めろ! 『氷結・エターナルフォースブリザード』」


「やはりためらわずに攻撃してきますか。当然ですね、私では貴方には勝てない。『一瞬の永遠』」


マレフィの氷結攻撃は全てを凍てつかせた。

『星見人』が率いた兵は何もすることなく氷像となり、砕けた。

辺りは氷の世界となり、生命は鼓動を止めた。

ただひとつの異界を除いて。


「結界ね――。ま、予想はしておったよ。勝負を長引かせるには、それが一番じゃしな。じゃが、消耗するのはぬし一人じゃ。マレフィはゆっくりここでぬしが衰弱していくのを眺めていよう」


星明かりのようにきらきらと煌くオーロラのような結界に包まれた『星見人』にマレフィは宣告する。

この可能性はルシフェレスから聞かされていただけに余裕があった。

この場合は敵を逃さないことが最重要。

確実に殺すためなら1日2日はしょうがない。

結界を張られた場合は弱るまで待ち攻撃が通用するまで弱ったところで迅速に始末しろ、とのことだった。

マレフィは腰を下ろした。


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